第21話 モブ指揮官

「えらい目にあった…。」


命からがらサンドワームが襲い掛かってくる砂漠地帯から脱した勇者一行。息を切らせながらタクトが話しかけてくる。


「はぁはぁ…なぁ、さっきのあれって。」


「はぁはぁ…ああ、そうだな。大爆発の魔法の音とその衝撃でサンドワームを呼び寄せたっていうのがまずあるだろう。だが、根本的な原因としては岩場が砕けて粉々になってほぼ砂地になったためにサンドワームがあの地帯に進出し易くなったのと、そこにサンドエイプの死体の山があって、それがサンドワームにはご馳走の山に見えたんだろうな。」


「…あいつらもヒュドラの毒でやられたりしないかな?」


「うーん、サンドエイプとは体の大きさの桁が違うから毒の致死量も遥かに多くなるだろうし、それと第一にサンドワームって割と毒に強いんだよな。」


「じゃあ、期待薄か。」


「そうなる。」


「すると…?」


「もう危な過ぎてあそこには戻れないな。サンドエイプの住処すみかで手に入れる予定だったレア装備やアイテム達はちょっと手が出せない場所になってしまったと言う事になる。はぁ…チャートの根本的な組み直しが必要だな。」


「まぁ…今日のところは領主邸に戻るか?」


うんと頷いて反乱鎮圧時に接収したデネック前子爵領主邸に戻る。

今後、ここには帝都から代官が派遣されて皇帝の直轄地として統治される事になるが、それまで全ての権利は…そこにいた貴族の財産を含めて全て勇者の物となる。帝国とは反乱を鎮圧する報酬に関しては、そういう契約を結んでいるのだ。


ぱっと見帝国が太っ腹のように感じる契約だが、どちらにしろ帝国は最終決戦にまとまった兵と金を注ぎ込まなければいけない立場なので、最終的には帝国が払う金を、勇者が自ら稼いでくれたものをそのまま手渡しているだけなので、帝国にとって全く損ではなかった。まぁそういう訳だから接収した領主邸で好き勝手に贅沢に過ごしても全く問題無かった。

勇者一行は子爵邸のシェフに豪勢な夕飯を作らせ、風呂には湯を張らせ、一時的とはいえ貴族のように過ごした。聖女マミアなんてメイド達に全身エステマッサージさせてるし。お前本当に聖女かよと思わなくはないが、その行為自体は全く問題ない。反乱鎮圧した権利だからね。

そして勇者は、領主邸の贅沢なベッドにごろごろと寝転びながら考える。


「うーん、幸いサンドエイプはきっちり倒したから、反乱の鎮圧と合わせてレベル18までは予定通り上がったけど、今後のチャートに必要なアイテムがいくつか無くなっちゃったんだよなー。どうすっか。」


サンドカトラスが無いとこの後行く予定だったナイトサハギンの氾濫はちょっと対処が難しいしー…と悩む。とはいえこうやって悩むその事こそが、この勇者にとっては楽しみでもあるのだが。


「うーん、あんまり美味しくないけど、もう一つ子爵領の内乱を鎮圧するか。一応兵士千人増えたしな。で、更にそこで接収する兵士を元手に次は伯爵領の反乱を鎮圧する…いけるか?」


勇者を悩ませる楽しい夜は更けていく…。


翌朝、またもや王侯貴族のような朝食を作らせそれを堪能した後、勇者軍五千人を率いていたモブ指揮官を呼ぶ。この次はロンヴェル子爵領の内乱を鎮圧に向かう事を伝え、別行動で向かうように指示する。なぜなら軍隊の行軍は非常にノロいので、一緒に移動するのは時間が勿体ないのだ。モブ指揮官によると、どうやら現地到着予定は10日後くらいらしい。

勇者一行はその半分以下の日程で現地に着けるので、行軍予定路近くの森にあるちょっとしたレアアイテムやレア装備を回収しながら向かう事になるだろう。


ちなみにこのモブ指揮官。最終決戦で総大将…は勇者だが、勇者は敵本陣に突撃してしまうので、実際に全軍の指揮をとるのはこのモブ指揮官になるのである。なので総兵数を増やした状態で行軍したり内乱鎮圧等の戦闘回数を増やしたりして、このモブ指揮官に経験を積ませ育てる意味は大いにあるのだ。


10日後、勇者一行はロンヴェル子爵領で反乱軍をあっさり撃破し、その反乱を鎮圧する。その宝物庫に喜び勇んで突入する聖女一行。え、勇者一行じゃないのかって?ここの反乱って美味しくないからあんまり来ないけど、それでも何回か来てるからどれくらいあるか知ってるからね。


「少なっ。なんでこんなにお金が無いのに反乱なんてしたのかしら。わざわざ鎮圧する方の身にもなって欲しいものだわ。」


鎮圧する方の都合なんて考えて反乱なんてせんだろ。

そして得られた金貨が少ないという事は裕福な貴族ではないという事で、それはまた戦後の束の間の休息もやや質素になるという訳で、誰かさんが不満たらたらだったのはいうまでもない。ね、聖女さん。


とはいえ勇者一行は、戦果として新たに兵士千人(合計七千人)とデネック子爵領で得た量より遥かに少ない量の金貨を軍資金として得たのだった。

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