第20話 砂猿狩

第20周回 1月下旬 デネック子爵領


戦後処理を終えた勇者一行。攻略チャートに従い次なる目標に向けて行動する。


「さて、次はここから北の砂漠でサンドエイプ…いわゆる砂猿狩りでレベル上げだな。」


二列縦隊で歩く僕らは、前列の俺とタスク、後列のとで分かれて喋っている事が多い。


「ええっ、砂漠に行くのかよ。あそこは流砂に飲み込まれたらヤバいし、更にサンドワームが出るだろ?流石にヤバくないか?」


サンドワームとは砂漠の砂の中に住み、餌を知覚するとそのまま地中から砂ごとなんでも一呑みにしてしまう巨大なみみずみたいな魔物である。あまりの大きさにとても人間が相手できる魔物ではない。それに倒したところで、あまり旨味も無い。


「ああ、砂漠は砂漠でもこの街の北のすぐ傍で周囲に岩場があるうちは、サンドワームは出現しないんだ。」


「まぁ、それなら…ってうちら砂猿…猿っていうかあれゴリラだよな。どっちにしろ群れで襲ってくるサンドエイプに勝てるのか?」


「んー、2~3匹なら兎も角、数十匹単位で群れて来られるとかなりヤバい…というか無理だろうね。」


「でも勇者おれには秘策があるってか?」


「よく分かってるじゃないか。」


「で、砂漠と逆方向に向かってるみたいだけど、どこ行くん?」


「まぁ付いてきて。」


そうこうしているうちに昨日通ったヒュドラがいるトンネルに辿り着いた。そこで振り向いて魔法使いであるメルウェルに向かって告げる。


「出番だよ。あの辺りの天井に向かって、爆破魔法を打ち込んじゃって。」


「えっ、いいの?」


「ああ、思いっ切りね。」


「やったー!」


メルウェルがめっちゃ喜んでる。どこに喜ぶ要素があったんだろう?

するとメルウェルは、普段はロクに詠唱なんてしないのになんか気合い入れて詠唱してる。いかにも魔法使いっていう真っ黒なとんがり帽子に黒い魔法のローブに包まれたメルウェルの全身から、魔力のオーラが目に見えて溢れ出ている。


え、気合い入れ過ぎじゃない?大丈夫?


メルウェルが最後になんか叫びながら杖を振るうと、魔力の波動がうねりをあげて飛んでいき洞窟の天井にぶつかった。途端に大爆発が起きて天井が崩れ岩が落ちてくる、そこら中いっぱいから。ん?気のせいかこっちの天井まで亀裂が…


「うわ、逃げろー!」


ドヤ顔で決めポーズをとってるメルウェルの手を思いっ切り引っ張ってトンネルから逃げ出す。かろうじて脱出が間に合ったようだ。

辺りはすごい砂煙が舞っており、トンネルがどうなったか全く分からない。


「なぁ勇者、これって。…ここは、この街の人達の大事な水場だったんじゃねーの?」


「いやぁ、ここまでやる予定は無かったんだけど、誰かさんが。」


「魔法学の発展に犠牲は付き物よ!」


腰に手を当ててドヤ顔のメルウェル。殴りたい。

舞い上がった砂埃が引くとそこは完全に崩れたトンネルが。まぁ、狙い通りではあるんだが、これはやり過ぎだ。今までこんな周回無かったんだけどな。何がメルウェルをこうさせたんだろう。


「うーん、タスク。悪いんだけど、この瓦礫がれきの山、どけてくれる?」


えー、と言いながらもやってくれるタスク。良いやつだ。


「えっ、私がもう一回吹き飛ばそうか?」


とメルウェル。やめい。余計に被害が大きくなるだけじゃ!

結局、みんなで手分けして瓦礫をどける事約半日。ヒュドラは岩に押し潰されて無残な姿になっていた。いやまぁ、毎回押し潰されて無残な姿になってるんだけど、今回はより無残な姿に…。


「だ、誰だ、何の罪もないヒュドラをこんな姿にしたのは…。」


「ああっ、ヒュドラ!!!いいやつだったのに…。」


と、タスクものってくれている。


「えっ、えっ、もしかしてヒュドラって仲間になってくれる予定のコだったの!?」


メルウェルが俺とタスクの猿芝居にすっかり混乱している。やってしまったかと少し涙目だ。んな訳ねーだろ。一応、洞窟崩そうと攻撃指示だしたのは俺だってのに。それにヒュドラなんて連れ歩いてたら、本当に人類の味方なのかと勇者の善性を疑われるわ!


「はいはい、そんな訳無いでしょー。メルウェルもちょっとは疑いなさいね?」


と泣き崩れている振りをしていた俺らは、聖女マミアに雑に蹴飛ばされると聖女マミアはメルウェルをデコピンした。


「はっ!?なんという勇者!」


『勇者ともあろう者が、善良なる私を騙すなんて信じられない!』と言った顔をメルウェルはしている。そんなメルウェルは放っておいて、勇者おれは大きな皮袋を4つ取り出す。


「じゃあ、このヒュドラを適当に切り刻んで皮袋に詰めていってねー。一人一袋ね。あと、マミアはそこにある毒袋っていう内臓を回収して…ちょっとぐちゃぐちゃになってるけど気にせず4つに切って、それぞれの革袋に入れておいてね。マミアならヒュドラの猛毒に触れても全然平気だし。」


「か弱き可憐な乙女になんていう事を!」

聖女マミアが抗議の声をあげる。

『はいはい、か弱き聖女さんわろすわろす』と相手にせず革袋にヒュドラの肉片を放り込んでいく俺とタスク。先程マミアに雑に蹴っ飛ばされてヒュドラの死体に頭から突っ込まされたばかりで、その恨みをまだ忘れてはいないのだ。



ヒュドラの死体を回収した勇者一行おれらは今度は北の砂漠地帯に向かう。

で、よさげな岩陰に向かうとそこで各自革袋をひっくり返して、毒に塗れたヒュドラの肉片を積み上げる。そして、そこから少し離れてそれを見守った。するとどこからともなく現れた大勢のサンドエイプの群れ。毒に塗れたヒュドラの肉を我先にと争うように食べていく。流石悪食と名高いエイプたち。

だが、悪食で名高いエイプたちも猛毒に塗れたヒュドラの肉は無理だったようだ。しばらくすると始めに食べ始めた数匹が痺れを発症し、そのうち何匹いるか分からないくらいの大量のサンドエイプ達が残らず痺れて倒れている。そこを1匹ずつ首を刎ねていく。

何十匹かトドメを刺したあたりで何か面倒になってきた。


「メルウェル!面倒だからまとめて焼き払って!?」


「えっ、良いの?」


と嬉しそうな魔法使い。なんかこの流れどっかで見たな。嫌な感じがする…。


「やっぱ、やめ…」


どっかーん!


遅かった。しかも焼き払って!と言ったのに何故か起こる大爆発。またもや砂煙で辺りが見えなくなる。それが収まるまで待っていると、やっと視界がクリアになってきたかという時になんかゴゴゴゴゴ…って 地鳴りっぽい音が聞こえてきた。

なんか音ともに、砂漠の表面がうねってるように見える。


「おい、勇者。まさかアレって…。」


「…うん、アレだろうね。」


「サンドワームだぁぁぁぁぁっ!」


勇者一行は一目散に逃げ出した。ドヤ顔してる魔法使いメルウェルの手を掴んで引き釣りながら。


その直後、ばっくりと大口を開けたサンドワームがメルウェルのいた場所に地中から出現した。危なかった…!

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