第19話 内乱鎮圧

第20周回 1月下旬某日 帝国内デネック子爵領


「おい、勇者ー。いままでの周回で何度も成功してるっていうけど、本当にたった五千の兵で難攻不落で名高いデネック子爵のケルビン城砦を落とせんの?」

と重戦士タスク。


「うーん、無理だね。」


「えっ、なんて!?」


デネック子爵領は、東西南三方を山に囲われ北側は流砂のキツイ砂漠で、その内部に入りこめる入口とも言える箇所は南側の山間やまあいに1カ所しかなく、そこにはケルビン城砦という堅牢で有名な城砦があった。


勇者一行が率いる帝国軍五千の兵が近づくと、ケルビン城砦はそれまで開いていた城門をぴったりと閉じて徹底抗戦の構えを見せた。


「うーん、どうすんの?あれ。」


山道を登った先に望める城砦は、小さめだが見るからに攻めにくく守り易い典型的な要害だ。そこを守る守備兵は千人程度らしいが、山間の道は狭く同時に攻めれる兵数もまた少ないため千人でも十分のようだ。


デネック子爵領は盆地で交通の要所という訳でも無いため、敢えて見逃されていた部分もあるが、五年以上も反旗を翻したまま無事なのは伊達ではないのだ。


「まぁ、見てなって。」


が、勇者には秘策があった。

反乱軍を鎮圧するために派遣された軍が、城攻めをせずにひたすらに待っているとなると、何か策があるとバレる可能性がある。そのため、モブ指揮官に出来るだけ被害を抑えて、安全第一でゆっくりと城攻めをするように指示し、勇者一行は夜半にこっそりと軍から離脱した。


ケルビン城砦から少し離れた―半日程歩いたところに、盆地の内部に通じる小さなトンネルがあった。このトンネルは山からの湧き水が流れ込み出来た小さなトンネルだった。勿論、守備側も攻撃側もこのトンネルの存在は知っていた。

だが手出し出来ない要因があった。十年程前から凶悪な毒を持つ多頭竜ヒュドラが棲みついていたのだ。狭いトンネルにいる猛毒の息を吐くヒュドラと軍との相性は悪過ぎた。


それでもこのトンネルを潰さなかったのは、上流側である盆地の内側では貴重な水源となっていたこと。ヒュドラはトンネルの中腹に居座ったまま特に移動しなかったので、近付かなければ問題無かったこと。これらが大きかった。

もっとも下流である盆地の外側には毒の川が垂れ流され続けるだけだったが。


そんなトンネルに入ると、勇者一行はみなヒュドラの存在を知っていたようで、


「おいおいおい、ヒュドラを倒そうって言うのか?マミアねーさんの解毒の技があれば毒に関しては何とかなるかもしれないが、それを抜きにしてもちょっとまだ俺らで倒せる敵ではないと思うんだが。」


と、タスク。


「そうですわね。私もまだ聖域の魔法が使える訳ではないので、解毒は出来ますが対毒の結界はとても完璧とは言えません。それに…確か私が以前読んだことがあるヒュドラの撃破報告はレベル30くらいだったはずです。私たちではまだ少し荷が重いのでは?」


と聖女マミア。前回の最終決戦では遠くで癒しの魔法を使ってたけど、実は初登場なのでは?とメタい事を考える勇者。


「そうだな。以前の周回では、レベル25まであげてマミアに聖域を覚えてもらってそれを使って僅差で勝利した事もあった。レベル30あれば、うちには聖女マミアもいるしそれなりには勝てるが、レベル25だと本当にギリギリだ。今のレベル15では絶対に無理だと断言できるな。」


ならどうやって倒すんだよ?とタスクから抗議の声が上がる。このトンネルをこれ以上先に進むとヒュドラと戦闘になるだろう。奥からその気配が感じられる。

と、そこで勇者が歩みを止めて辺りを見回した。そこには分かりづらいが少し背の低い横道があったのだ。


「え?ひょっとしてこれ、この先が向こう側に通じてるとか?」


「流石にそこまでウマイ話は無い。むしろ、それを見落としてたんなら、ここを攻めていた将がどれだけ阿呆だったかという話になってしまう。」


もっとも結果的にはそれに近い話で、俺がそれを見つけたのも本当にたまたま運が良かっただけなんだが。そんな話をしながらその脇道を進む。


「タスク、行き止まりのところの天井近くの壁に白っぽい岩の箇所があるだろう?」


ああ、あるなと返事が聞こえる。

すわ、私の出番かと魔法使いメルウェルがふんすと鼻息を荒くする。それを放置して引き続きタスクに話し続ける。


「そこに城からもってきた一角獣の兜を装備してお前のヘビーチャージを思いっきりぶちかましてくれ。」


メルウェルが驚いて目が点になってこっちを見てる。私の出番は?って顔してる。こっち見んな。お前の出番がここである訳ないだろ。トンネルが崩壊するわ。


「え…あ?まぁ何となく展開読めたけど…まぁ、やるか」


タスクが一角獣の兜という先端が尖った兜を装備して思い切りヘビーチャージという名の頭突きを天井にかました。するとバキっ!という音と共に天井に穴が開き、天井の向こう側の空洞が見えた。

ちらっと横を見るとタスクの首が曲がったまま固まっている。コントか!でも痛そう。しかもメルウェルが曲がった首を更に曲がる方向にぺしぺし叩いてる。出番を奪われたからって八つ当たりすんなや…いたわってやれよ。まぁいいや。二人のやりとりを放っておいて、簡易的な梯子をかけて天井に空いた穴を登っていく。


そのまま進めば、盆地の内側だ。夕暮れ時だったのでそこで少し休憩する。もう少し暗くなってから敵の本丸へ潜入だ。


約1時間後、日も暮れて辺りはすっかり暗くなったので行動開始とする。目指すはデネック子爵の領主邸である。ここは盆地である周囲の山が城壁みたいな扱いで、既にその内側にいるので普通に歩いていればそこはもう街の中だ。何度も来ているので領主邸の場所も道も分かっている。なるべく人とすれ違わない道を選び進んでいく。


領主邸自体はさすがに壁で囲われているが、警備が厳しい訳でもない事を知っているため、これからの潜入と戦闘を考えて緊張している3人を他所に、おもむろに裏手から塀をひょいと乗り越えて侵入する。そのまま裏口から入って厨房で働いていた下男を背後から物理的に黙らせる。そのまま領主の部屋まで向かい、裸で女と抱き合っている領主を有無を言わさず斬り殺して終了だ。反乱を起こしている大罪人だからね。


「よし、ミッションコンプリートだな。」


と言って振り返ると、領主邸に着いてからはただついてくるだけになっていた3人がぽかんとしている。あっさり終わってしまったからだろうか。

この反乱を鎮圧するのにレベル15までは上げる必要があるって言ってたし、領主邸がこんなにあっさり片付くと思ってなかったからかな?残念!レベルを15まで上げる必要があったのは、タスクの頭突きが天井を壊すのに必要だったからだよ!


翌日、領主の首をケルビン城砦まで持って行って守備兵を降伏させて、本当の本当にミッションコンプリート。そこから帝都に早馬を出してデネック子爵領の内乱鎮圧を報告させる。小規模とはいえ、長らく反旗を翻したままだった逆賊を討伐した事は、皇帝をはじめとする帝都のお偉方の面々も喜ぶだろう。で、勇者軍としても不正に蓄財していた子爵の財産を奪って最終決戦用の軍資金がちょっと増えたのと、最終決戦及びこれからの内乱鎮圧にに使える兵士が千人増えたのでとりあえずは満足といったところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る