第9話 護衛隊強化計画
第19周回目 1月某日 魔王城総司令部
護衛隊長ボルガンは、自身を含む6名の護衛隊員が勢揃いした事を確認すると会議の開催を宣言した。
「集まってもらったのは他でもない。我らが護衛隊の存在意義についてだ。」
自分の執務机で書類仕事をこなしている私アドラブル。
まるで私など最初からいないかのように護衛隊の隊員たちは総司令部の来客用ソファーを占領して会議を始めた。
「なんで君らここでやるの?余人を交えず、自分たちだけでやった方がいいんじゃないの?」
って聞いたら、
「閣下の護衛隊たる我々が一人も閣下の傍についていないなどありえない。だが、この会議は全員で行いたい。だから閣下はそこにいてください!」
だそうだ。あっ、そう。
「存在意義とは穏やかではないな…何かあったのか?無駄飯食いって事で護衛隊の解散でも命じられたか?まぁ確かにアドラブル閣下に護衛兵が必要とも思えんしな。ガハハハハ。」
と粗野な笑い声をあげる
「とはいえど、閣下に護衛兵が一人もおらんでは格好がつかないのではないか?」
と筋肉を誇示するようにマッスルポーズをとる
「閣下の面子を気にするのであれば、君達はもう少し品をよくするべきではないかね?」
と
護衛隊紅一点である
こいつらの会議なんて気にせずに溜まった書類仕事片付けようと思ってるんだけど、やっぱり気になる。ってかこいつら声でけーし。
…ちなみにタリアトは私の書類仕事のサポートをする必要があると主張してここにいる。によによしながら会議をがっつり聞いてる。お前は仕事しろよ。
やいのやいの好き勝手言ったり好き勝手やってる隊員達を横目に見ながら護衛隊長であるボルガンは大きく溜め息をついてから話を続けた。これから説明する事を思うと気が重いんだろうな。
「存在意義の有無という話が出たが、理由は簡単だ。
…それは我々護衛隊が弱く何の役にも立たないからだ。」
好き放題話していた護衛隊の面々が思わず固まった。
アドラブルには遥か及ばないとしても、それでも彼らは一部の将官を除けば、まさに魔王軍の精鋭中の精鋭と言って良いメンバーだった。彼らはそれを自負し、また誇りにも思っていた。それを弱くて存在する意味も無いとまで言われてしまえば黙っていられるはずも無かった。
「隊長、あんた今なんて言った?昼間っから酒でも飲んでるのか?」
とビッグス。もし飲んでたら減給だな。飲んでないけど。
「護衛隊が弱い…カスみたいな存在だからだ。と、言ったのだ。」
(俺そこまで言ってないんだけどな)
なんだと!という声とともに激高したウェッジが筋肉にまかせて、会議室の机を思い切り殴りつけ破壊した。
(おいおい、その机高いんだぞ)
ボルガンはそれを冷めた眼で見ている。
「隊長、それはあんたも含めての事なんだろうな。それとも俺らだけの事か?」
返答次第では隊長とてタダでは済まさんとばかりに鬣をぴくぴくさせながら、かろうじて怒りを抑えているのが丸わかりな態度でトマージが言う。むしろ今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。うーん、もしかしたら
「まぁ、隊長である俺を含む全員だな。」
あまりの会話に驚いたのかなぜかいつのまにか本が逆さまになっているラドクゥ。さっきまで普通に読んでたはずのに何がどうなったらいきなり本が逆さまになるのか。というかその状態で読もうとするな。
「…そんな事を言い出したやつはどこのどいつで?」
キッと目を釣り上げてちょっと怒ってるコナタム。普段は割と垂れ目なのに、その姿もなかなか凛々しいね。
「そうだな…話は長くなるからまず座れ。
…っつても、机壊れたな。ウェッジの来月の給料から引いておくからな。」
そんなー!という声を上げるウェッジ。自業自得だろ。…っていうか来月分だけじゃ足りないんじゃないか?少し落ち着いたのか、立ち上がって興奮していた面々もまずは話を聞こうと全員席に着いたようだ。
「さて。どこから話そうか…。ふむ、まずは勇者という人族に伝わる伝説的な存在は知っているか?」
ボルガンは先日、勇者対策会議諸々で聞かされた話を語り始めた。
…
…
…
「うおおおおおおおおおっ」
うわんうわんと大泣きしだしたビッグス。
護衛隊6人が呆気なくやられて、私が孤軍奮闘の末かろうじて勇者一行を退けた話をボルガンがした時だった。ビッグス以外の4人はその話自体が半信半疑と言った感じだったが、ビッグスは信じた。全く疑う事も無く。そして恥じた。敬愛するアドラブルにそのような苦しい目に遭わせた自らの失態を。
相手をするのが面倒とみたのかそれを横目にボルガンは話を続けた。
「いいか、もう一度言うぞ?3分だ。たったの3分で我ら6人は片付けられたのだ。乾麺にお湯を注いでもういいかな?というくらいの時間だ。まだ食べるどころか、割り箸を割ってすらもいない時間だ。」
(乾麺以下…の下りいる?)
うそだうそだうそだ!と連呼するウェッジ。それに対してボルガンは言った。その気持ちは十分に分かる。私も勇者対策会議でその話を聞いてから、自分の気持ちを整理してお前たちに話す気になるまで数日掛かった…と。
トマージは、鬣を手入れする素振りをしながら、ぶちぶちと鬣を引き抜いている。恐らく言われた話の内容を真剣に吟味しているんだろう…本当にそんな事がありえるのかと。でも、いいのか?自慢の鬣なんだろ?
ラドクゥは私は全く動揺していませんとばかりに本を読んでいる振りをしているが、実際はただ本をくるくると回転させている。…その行動に意味あるの?
更にその横のコナタムを見る。両手を机の上で組んで俯いて何事か考えているようだ。そんなコナタムが俯いたまま一言一言をゆっくり噛み締め振り絞るように言葉を紡ぎだした。
「どうやって…やられたのかは…分かり…ました。挑発を受けて…一人一人別々に突っ込んで…言われたような弱点をつかれれば…そのように負ける事は…確かにありうるかもしれません。ですが…肝心の内容を聞いておりません。我らはそれぞれ…なんと挑発され…相手の誘いに乗ってしまったのですか?」
あれ?コナタム、お前ってそんなキャラだったっけ。まぁいいか、肝心なところだからな。
「…そうだな。今後いかに我らが特訓して強くなろうと挑発されて各個撃破されてしまえば、結果は同じだからな。」
ボルガンは立ち上がって窓の外を見た。
「まず私だが…母の事に関して筆舌にしがたい罵倒を受け我を忘れて突撃したそうだ。…娼婦だとか
「隊長は母子家庭で、ご母堂を本当に敬愛されておりますものね。お怒りになるのも分かります。」
コナタムはやるせなさそうな表情をしている。
「とはいえ、それで閣下を危険に晒していたのでは、護衛隊の本分を忘れたと言われても仕方ない…それこそ母にも叱られてしまうだろうな。」
ウェッジは無様にやられアドラブルがただ独り戦う姿を見るしかない己の姿を想像したのか両拳を膝の上で握りしめている。
「で、他の面々だが…軽く聞いたところによると、
ビッグスは、アドラブル閣下の事を侮蔑され激高したそうだ。
ウェッジは筋肉を。トマージは鬣を。ラドクゥは目の前で焚書を。コナタムはよく分からなかったが、ハキアドの逆カプ?とやらで激しい言い争いになったらしい。」
意味わかる?とボルガンはコナタムに声をかけていたが、コナタムは一目見てわなわなと怒りに震えているのが分かる。すると突如コナタムは両手を机(の残骸)に叩きつけて立ち上がり叫んだ。
「よろしい。ならば戦争だ!」
おいおい、だからそれで怒ったらダメなんだってば。
つか、前途多難そうだな、うちの護衛隊。
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