第10話 魔王軍強化計画

第19周回 2月某日 魔王城総司令部


「閣下、閣下の第一軍団自体の強化を図りましょう。」

とハキム。


「ん?装備の手配は終えただろう?」


「ええ、そうですね。長年の懸案でありながらも、なんだかんだで人類への侵攻が上手くいっているのと予算の関係で有耶無耶になっておりましたが、ゴブリンどもの武装化を実現させた閣下は偉大だと思います。

が、元々使い捨てのようなゴブリン兵どもですが、戦闘訓練を積ませるのもまた意味があるかと。上手くいけばゴブリン戦士ソルジャーのようなより上位の存在にランクが上がる兵も出てきましょう。」


「ふむ、だが奴らに模擬戦などの訓練が出来る知能は無いぞ?」


「そうですね。ですので、帝国との国境地帯に向かって軍として行動し、略奪目的の実戦を訓練としてゴブリン兵を鍛えていきましょう。ただの訓練ならともかく、ゴブリンどもも略奪であれば士気も高くなるでしょうし、城を攻め落とす必要が無いのであれば、許容範囲内の犠牲でいい戦闘訓練になると思われます。」


「目下の敵である帝国を一地方とはいえ消耗させる事ができ、ゴブリンどもには戦闘経験をつませられる…か。ゴブリンどもは繁殖力が旺盛で多少減っても問題はないしな。金がかかる事だけがネックだが、そこは何とかしよう。」


「はっ、では準備させましょう。…目標はどこにいたしましょうか。」


「帝国北東部の先端に位置するサボック子爵領にしよう。あそこは帝都との距離は遠く、なおかつ間に内乱地帯が多い。帝都からの援軍も簡単には来れまい。サボック子爵自体は有能のようだが、たかだか子爵領では兵数五百、頑張っても千人が精々だろう。我が軍の出撃兵数はそうだな…5万、5万で圧倒するのだ。領都を遠巻きに取り囲んで周囲の街や村を略奪するのだ。」


「ははっ、かしこまりました。早速準備いたしまする。出発は…そうですな、2週間…いや10日後には。」


「いけるか?指揮官は…そうだなバルダッシュを呼べ。」


最終決戦では魔王軍左軍の指揮官になるバルダッシュ。蜥蜴人族リザードマンである彼は一兵士からの叩き上げで軍指揮官にまでなった、数多くの古傷がいい味を出している老獪な優れた将である。


「バルダッシュ、命に従い参上いたしました。」


「おお、よく来た。バルダッシュ。

今まで対帝国は調略メインで対処してきたが、それも実を結びつつあり帝国は大きな軍事行動を取れなくなっている。そんな今、地方から少しずつ帝国の手足を奪っていこうと思う。ただ、本格的な魔王軍の侵略と捉えられて、外敵に一致団結して当たるという機運が生まれ、内乱が一気に収束するという話になってもつまらん。貴様に5万の兵を与えるので、あくまでも魔王軍の侵略ではなく、魔物どもの大規模な略奪行動でその地方の運が悪かった、と思わせるように侵略せよ。」


「ははっ。かしこまりました。5万の兵を上手く回転させて効果を上げてみせまする。」


「いいか。この侵略は今後に控える大戦争に向けての戦闘訓練がメインと考えている。領都を落とせる状況でも落とすな。それと近隣から援軍が来るようなら退いていい。素ゴブリン兵はいくら犠牲が出てもいいが、それ以外の強兵の被害を出すのは極力避けよ。ある程度略奪し尽くしたと判断できたら、隣のゴーダッグ伯爵領やその他近隣領地に略奪目標を変えてもいい。色々と矛盾を孕んだ作戦ではあるが、臨機応変に動いて上手くやれ。」


「ははっ、閣下の期待に応えてみせます!」


リザードマンの老戦士は頼もしい表情で片胸を叩いて見せた。一つ大きくうなずいて送り出す。


同様に北西部にも最終決戦において右軍指揮官予定の将にゴブリン兵5万を預け、略奪という名の軍事訓練戦を仕掛けさせた。




なお、この帝国北東地方及び北西地方への略奪戦は、帝国の内乱がほぼ終結して帝国がまとまった討伐隊を派遣できる状況になる直前まで続き、両地方は各貴族の領都を除きかなりの土地が焼け野原になった。

魔王軍におけるゴブリン兵の犠牲は、両軍それぞれ一万以上と少なくない数になったものの、出撃した五万のゴブリン兵で生き残ったうちの約半数はその上位格であるゴブリン戦士やそれ以上の存在になる事ができた。(減ったゴブリン兵は繁殖させて最終決戦前までには補充された)

そしてこの作戦もまた、周回を重ねる毎に洗練されていくことになる。

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