第六部 終章
第76話 帝都発義勇軍
第25…最終周回 6月 帝都近郊魔王軍陣地 アドラブル
グダンネッラが主張していた召喚魔法陣の移設の件だけど、結局ダメ元でやるだけやってみるかと地面を切り出して持ち出そうとしたのだが、入口でつっかえてぶつかって壊れた。
形ある物はいつかは壊れる。仕方ないね。
土台が壊れるとともに魔法陣を構成した一部が欠けると、魔法陣も力を失ったのか禍々しい色で脈動していたものが止まり、魔法陣を構成していた血管のような立体的な部分はほぼ失われ、後には血痕のようなものだけとなった。魔力的な波動も感じられなくなったので、機能は停止したとみていいだろう。
「これでもう勇者が復活する事は無いのか?」
「わからん。恐らくそうだろうという希望的観測だけじゃな。」
グダンネッラの回答は素気なかった。まぁそうとしか言い様が無いという事なのだろうが。さて本当に勇者の無限復活問題を解決できたかは分からないが、とりあえず帝国内に侵攻した目的は果たした。攻城兵器も用意してないので高い城壁を持つ帝都など落とせる訳も無いので、早々に退却したい。とりあえず要塞エルグレアまで戻ろう。それ以降の事はその後考えるとしてだ。
「よし、我が軍は無事目的を達した。全軍撤退するぞ。とりあえず要塞エルグレアまで退く。」
帝都と東の森の間に敷いた陣を引き上げさせる。そして一日北上したところで、斥候よりこの先で勇者軍が街道を陣取り待ち構えている事を知った。その数三万程度との事だ。うーん、我が軍は七万程度おり倍以上の兵数を擁しているものの、不安材料は枚挙に暇がないほどだ。
[魔王都]
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[要塞エルグレア]
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|――――[帝国北部諸都市]
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|――[大都市ゴブラン]
[勇者軍]
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[魔王軍]
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[帝都]
今の配置を略図化するとこんな感じだろうか。魔王軍の不安点としてはまず
・敵領地である帝国内の奥深くである
・要塞エルグレアとの連絡が途絶えている。
・後背に帝都が控えており、勇者軍とで挟まれている
簡単に思い浮かぶだけでもこれだけある。
勇者軍の数も大して多い訳ではないが、地の利は敵にある。強引に突っ切るというわけにもいかないだろう。出来なくはないがその場合、故国に帰れる兵士は2~3割くらいになるのではないだろうか。
状況を整理しよう。まずこちらの方が兵が多い。なので正攻法で勇者軍を撃退すべきだろうという事になった。そして勇者軍を撃退できたら深追いせず、要塞エルグレアに帰還する事をまず目指す。これで行くべきだろうと。それを軍議で共有し、明日にでもとりあえず攻めようという方針を決めたところで、帝都方面の斥候から続報が入る。
帝都からほぼ義勇兵で構成された一万五千の兵が出撃してきたということだ。
これは義勇兵といえど無視できない数だな。義勇兵というのは一般人が武器を手に取っただけで士気は高いが練度はない。だから攻勢に回っている間はその高い士気でなんとかなるが、練度が無いから守勢に回ると脆い。
義勇軍にとっても我が軍がいるので、勇者軍と合流するのは容易ではないだろうが、そうでなくても勇者軍と激突中に背後から攻撃されてもたまらない。
ああそれと義勇兵についての補足だが、普段から訓練をしているわけではないから体力がなく、長距離の行軍とかも向いていないな。だから帝都からほど遠くないこの距離で魔王軍が勇者軍と激突中に後背から魔王軍を襲う、という一方的に攻撃できる状況を作るのが彼らにとってのベストか。そういう意味でもわざわざ勇者軍との合流は無理に狙わず、ひたすらこちらの背後を狙ってくる事になるだろうな。そこまで分かってしまえば、この義勇軍部隊をこのまま放置して北上するというのは悪手になるだろう。
はてさて、勇者はこの義勇軍の存在を知っているのだろうか。
軍議を開き以上の展開予測を伝える。そして、今夜全軍を引き返し義勇軍を夜襲する方針である事を伝えた。そのため、昼間は勇者軍と対峙するかのように防御陣を構築させる様子を見せた。勇者軍の斥候も義勇軍側の斥候も遠くからこの様子を見ているだろう。
さて、夜も更けた。精鋭部隊を先発させて本体も続々出発、南下させる。精鋭部隊は義勇軍陣地を横から回り込ませるつもりだ。本体は正面から。精鋭部隊の方が移動距離が長くこれまでも使い倒している気がするが、ここではもうひと踏ん張り頑張ってもらおう。
本隊が義勇軍の陣の正面まで辿り着いた。敵は寝静まっているようだ。慣れない行軍で疲れているだろうし、魔王軍は北上して勇者軍に向かっているという情報で安心して眠りこけているのだろう。もちろん見張りはいるが大した数ではないし、陣の外を見回っている様子もない。我が軍はゴブリン兵がほとんどなので、一部統率がとれていないのか時折後ろからグギャグギャ声が聞こえるが、かろうじて敵陣までは聞こえていないようだ。これはとっとと攻めるに限るな。
「かかれ!」
短く全軍に指示を出すと、麾下のゴブリン兵達は一斉に陣に向かって攻撃を仕掛けた。ゴブリンは隠密行動に向いていないが、夜目が効く。夜襲にはもってこいである。寝静まっていた義勇軍は大混乱だ。
夜襲の華ともいえる敵の同士討ちが無い(さすがに夜襲で大混乱の義勇軍でもゴブリンと人は見間違えない)のが惜しくもあるが、それでも寝入っていた義勇軍は枯草を刈るかのように打ち倒されていく。
夜が明けると、そこには数えきれないほどの義勇軍の死体があった。帝都まで逃げ帰った敵兵も多そうだが、ひとまずこれは大戦果だ。周りでは勝ち鬨が上がっている。こちらの士気は上々だ。一方で帝都はしばらくはこちらを追撃するのは難しいだろう。物資もほぼそのまま打ち棄てられており、それらが大量に手に入ったのも嬉しいところだ。
ただ完璧な夜襲をもって敵兵一万五千を撃破したのだが、ゴブリン兵の被害も千を超えた。倒した敵の数を考えれば文句はないはずなのだが、ここが敵地で兵の補充が難しいことと相手が義勇兵という弱兵相手でしかもここまでキレイに夜襲が決まったのにゴブリン兵の被害も大きかったのは正直不満だった。これがゴブリンという兵の弱さというところなのだろうな。
なお、精鋭部隊はほぼ被害なしのようだ。
千以上のゴブリン兵の被害を出したものの、帝都からの義勇軍を完膚なきまでに撃破した。物資をかなり手に入れることが出来たが、帝都方向へ一日分の距離を後退し要塞までは少し遠くなった。これをプラスとみるかマイナスと見るかは難しいところだ。帝都は百万人都市だ。やろうと思えば、義勇兵中心であれば何杯でもおかわりができるだろうからな。
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