第14話 賞罰

第19周回1月1日 帝都近郊竜車内


「まぁ!それでは、勇者様はこの度が19回目の挑戦だと?」


「そうなるな。魔王軍に負けて死んでも毎回時が巻き戻って復活している事になるのだが、それは信じられるか?」


帝都への帰り道、俺は第一皇女ルクレリナとグランツ軍務大臣に今までのあらましを説明していた。なお、ルクレリナは着替えを済ませていた。ルクレリナが最初ゆったりとしたローブのようなものを身に纏っていたのは、その内側に軽鎧を装備していてそれを隠すためで、皇族である第一皇女ルクレリナが防具も身に着けずに訳のわからん男の前に出る訳がないのだ。今は身体のラインが出る服を着ている。眼福、眼福。


「はい、そこはまぁ。勇者様は魔王を倒すまで何度でも蘇り続けると伝承にありましたので大丈夫です。ただ、時間が巻き戻る事までは伝わっておりませんでしたが。」


と、皇女ルクレリナ。

このやり取りも何度したかわからないが、ここの二人への説明で手を抜くと後で誤解が発生して面倒な事になったりスムーズな進行を欠いたりするので、面倒でも丁寧に説明した方がいい事が分かっている。


「先程グランツ軍務大臣に手配してもらった第一軍議場で、帝国の主要メンバーが揃った時に詳しく説明したいと思っているが、二人にはよく分かっていて欲しいのでここで簡単に説明しておくと…今日が基点となる勇者召喚日1月1日。約1年後の12月31日にエルデネサントの野において帝国が中心となる人類連合軍対魔王軍で最終決戦が行われる。ここで魔王軍の事実上のトップであるアドラブルを倒せれば恐らく人類の勝利だ。まだ倒したことが無いから確定ではないけどな。」


「そこまでの経緯がいまいち分かりませんが…とりあえずは、あの世界最強アドラブルをですか。話を聞く限りあれはとても単独では勝てるような存在には思えないのですが、それも勇者様ならではという事でしょうか。」


「そうだな。今回も敗れたとはいえ、あと一歩というところまでは追い詰めた感触もある。」


そうだな…と話しながらステータスと呟くと目の前の中空に白いウインドウが現れる。これは勇者である俺以外には見えないものだ。勇者の神より授かりし祝福の一つだとか適当な事をルクレリナとグランツに言いながら指でなぞりながら操作していく。すると目当ての項目が見つかる。

おっ!?


[賞罰]

◯『聖女といえば純潔だろ』:生存しているにも関わらず、最終決戦に参加する事無く周回を終えた事がある

[永続:聖女とえっっが出来なくなる]


〇『千里の道も一歩より』:最終決戦にてアドラブルに1以上のダメージを与えた事がある

[永続:経験値効率が10%アップする]


〇『聖剣こそ勇者の証』:聖剣を手に入れた事がある

[永続:聖剣の地にいけば即座に聖剣を取得可能(聖剣初回取得時に必要だった種々のクエストを再度クリアする必要なし)]


〇『帝国街道ビルダー』:前回の周回で帝国の主要な街道を全て整備した

[1回:全ての街道整備に掛かるコストが20%減る]


×『最強要塞のススメ』:前回の周回で帝国軍要塞エルグレアの防御を限界まで強化した

[1回:城や砦等全ての防衛施設の建設に掛かるコストが20%減る]


×『我こそが神の遣い』:前回の周回でイケルカムイ神聖国の不穏度を0に下げた

[1回:イケルカムイ神聖国の初期兵数と兵質が10%上がる。最終決戦の援軍に神聖兵が追加される。]


〇『確かな爪痕』:前回の周回でアドラブルの生命力を75%以下にまで減らした

[1回:経験値効率が10%アップする]


〇『人類に勇者あり』:前回の周回でアドラブルの生命力を50%以下にまで減らした

[1回:経験値効率が10%アップする]


〇『次こそがお前の命日だ』:前回の周回でアドラブルの生命力を25%以下にまで減らした[New!]

[1回:経験値効率が10%アップする]


ちなみにこの賞罰の項目について簡単に説明すると、

『〇』は今回の周回で効果を発揮するボーナス(ペナルティ)だな。『×』は反対に効果の周回では効果無し。

『永続』ってのは繰り返す周回において一度でも満たしたことがあれば、それ以降の周回では常にその対象のボーナス(もしくはペナルティ)を得る事が出来るって事だ。だから永続には自動的に全て『〇』が付く。

『1回』ってのは前回の周回でその条件を満たした場合は、次回の周回でそのボーナス(ペナルティ)を得ることが出来るって事だな。今回でいえば、『最強要塞のススメ』や『我こそが神の遣い』は以前どこかの周回で条件を満たしたことがあるから表示はされているが、前回の周回では条件を満たさないまま12月31日を迎えたからボーナスは発生しないって事だ。


で、今回の注目はこれだな。最後に表示された『次こそがお前の命日だ』での説明の内容にあるとおり、前回はアドラブルの生命力を25%以下にまで削ったらしい。

そのことをルクレリナとグランツに伝えると、―――おお、あのアドラブル相手にそこまで追い詰めたとは!―――とか感動してる。アドラブルの打倒すなわち人類側の勝利が十分に実現可能であるとみたのか、ますますやる気になってくれているルクレリナとグランツ。それ自体は歓迎すべき事だが、勇者と呼ばれる男は浮かれることなく今回の周回について思いを馳せる。


―――正直、もう大幅なチャートの改善点ってあんまり思い浮かばないのだけれど、少なくとも今回新たに得た経験値効率が10%アップで今回のレベル55よりもプラス3でレベル58、もうちょっと経験値効率のいい狩場を探してあわよくばプラス5のレベル60くらいで挑めれば…それならアイツアドラブルに勝てるかな?―――




~閑話休題~

「ん?賞罰の一番上にある『聖女といえば純潔だろ』について、あれは何だって?ああ、あのペナルティなー。」


男はちょっと遠い目した。


「最初の周回で聖女と出会って意気投合して、そのままえっっしたらあまりにもお互いの身体の相性がよくてさぁ。そのままロクに冒険もせずにえっっ三昧の生活を送っていたんだよね。それで、気付いたら12月31日を過ぎてたんだ。そしたら次の周回前に神に呼び出されて、

『理由は分かってるだろうけど、お前ペナルティな?

あー、やっぱり聖女といえば、純潔を守らないとだよなー(棒読み)

ってことで聖女とはえっっ禁止。』

って言われた。とはいえ、クリアしたら解禁してくれるらしいから頑張るけどね。」



「ん?デメリットがそれだけなら別に良いじゃないかって?いやぁ、これ地味に結構痛いんだよね。

実は聖女とえっっすると勇者(と聖女)の体力と魔力が全快するんだわ。流石に戦場である最終決戦の場でそんな事できんけど、レベル上げの狩場とかでヤれれば―他の勇者のパーティーメンバーの前でお前らするのか?とか残りのメンバー二人の体力と魔力は回復しないけどいいの?的な問題はあるけどさ―、これがあったらその都度回復のために町に戻ったりしなくていいから、レベル上げ効率全然違ったと思うんだよねー。」


はぁ、と溜め息をつく男。


「あーあ、色んな意味で勿体ない事したなー。」


第一周回において、人類側が何も得る事無く魔王軍に惨敗した理由が割と酷かった!

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