第13話 勇者と呼ばれた男
第19周回 1月1日 帝都近郊某所
―――シュウウウウウウゥゥゥ
その石室を支配していた眩いばかりの光が段々と収束していくにつれ、部屋の中央に紫色に光る魔法陣を構成する線の一つ一つが血液が脈動するかのように妖しく蠢く。
魔法陣が一際大きく脈動し、そして完全に光が収まった後、そこには一人の男が立っていた。身長は高めで健康そうに見えるやや浅黒い肌に黒い短髪。少し軽そうな雰囲気はあるもののその眼にたたえた光は非常に意思の強さを感じられる。その男が身に纏っているのは先程までの魔王軍総司令官と戦っていた装備…ではなく、白いポロシャツに紺のジーパン。召喚直後の服装だ。その服装の上からでもその男は普段からスポーツでもしているのだろうか、それなりに引き締まった肉体である事は窺える。
その男が出現した…召喚された直後、濃い
シンとした空気の中、誰が一番最初に叫んだか分からないがそこら中で歓喜が爆発する。
「やった、遂に勇者召喚に成功したぞ!」
「これでとうとう魔族を根絶やしにできる!」
「帝国万歳!人類万歳!」
そこかしこで連鎖するように歓喜の渦が巻き起こる。
魔法陣中央に現れた男はそれらを冷ややかに見つめた。さもあらん、この男がこの光景を見るのはもう19回目だからだ。
「ちっ、今回も届かなかったか。とはいえ結構惜しかったと思うんだけどな。つか、分かっちゃいたけど、やっぱりあのオッサンつえーな。4対1なのに毎度毎度負けるとは。世界最強は伊達じゃないって事か。」
男は直前に斬られたであろう首のあたりをさすりながらそう独り呟いていると、魔法陣がある祭壇に向かって一組の男女が近付いてきたのが目に入った。
一歩前をあるく女性は、目を見張るような美女だ。その容姿は繊細な金糸を束ねたかのような金髪のストレートロングで、頭にはキラリと光る小振りながらも明らかに品のいいティアラを乗せている。衣装は純白で全身を少しゆったりとした形のローブで身を包んでおり、一目で高そうな生地で仕立てられているのが分かる装いだ。その女性のスタイルはこのゆったりとした衣装からでは分かりづらいが、非常に男好きのするスタイルである事をこの男は知っている。
また、それに付き従うように一歩下がって、これまた高そうな生地を濃い茶と緑からなるこの国の高位の正装に身に包み片モノクルを嵌めた男性が姿を現す。何度も見た顔だ。それぞれ帝国の第一皇女と軍務大臣である。
「勇者様、よくぞこの世界に…」
と第一皇女が言い始めたところで、その男はストップとばかりに手のひらを前に突き出してその会話を制止させる。
このやりとりも19回目だからな。勇者以外にループの記憶がないのが面倒だが、いくら死んでも何度でもやりなおせると思えば、それは許容すべきなのかもしれない。そして男は用意していた台詞を吐く。
「グランツ軍務大臣、ご苦労である。
今すぐ帝城の第一軍議場に現在帝都にいる主だった者を集めておけ。ここに来るときに竜車を2台用意して来ただろう?そのうちの1台を使って帝都へ急使を出せ。ムヤイル次官もここに来ているだろう?あいつなら上手くやるはずだ。」
いきなり初対面のはずの勇者に名指しで細かい指示を出されたグランツ軍務大臣(と言われた高そうな服を着た初老の男性側の方)は、何が何だか理解できない顔をしている。
「もう一台の竜車で帝都に帰るぞ。それにお前ら2人と同乗し、そこで状況を説明してやる。」
それでいいだろう?と伝えると、グランツ軍務大臣は目を白黒させながらも頷いた。そしてその後方に控えていた比較的若い文官たちに矢継ぎ早に今の事を指示していく。毎度の遣り取りなので俺の指示を素直に受け入れてくれるのは分かってはいたが、初対面の男にこんな事をいきなり言われてすぐに対応できるあたり、流石は大国の大臣だなといつも思う。
今の遣り取りを呆気にとられながらみていた第一皇女ルクレリナの手を恭しく取るとそこにキスを落とす。呆気にとられていた第一皇女はそれをもって再起動を果たした。皇女は目をぱちくりとさせ男の口付けられた手をじっと見つめた。そして何が起こったか理解すると、今度は上目遣いに
「行きましょうか、ルクレリナ様」
そう告げると、は、はい。と顔を赤くしたままか細く答える第一皇女。そして皇女は不自然な程に男の手を離そうとはしなかった。だがそんな
―――まぁ、第一皇女と恋仲になっておくのが、今後の攻略チャートの進行を考えると楽だからな。普通に美人だしスタイルもいいし金持ちだし悪くないのは確かだが…俺は
と、誠意の欠片も無い事を考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます