第15話 最終決戦の最終決戦

第19周回 12月31日11時 エルデネサントの野 魔王軍総本陣


「なぜだ!なぜ護衛隊達は挑発に乗ってこない。ここに来て、難易度アップなのか?」


勇者一行は護衛隊を釣り出そうと挑発を続ける。時間の経過は魔王軍に有利な要素であるため、私はそれを見守った。時間稼ぎも兼ねたガード主体からのカウンターという基本姿勢は崩さない。


「くそっ、しかしこれ以上は時間が惜しい…仕方ない、強引にでも仕掛けるぞ!メルウェル魔法使いは敵の護衛隊をなるべく早く片付けて、こっちを手伝ってくれ!」


一向に挑発に乗ってこない護衛隊に業を煮やしたのか、勇者が聖剣を片手に突っ込んでくる。勇者一行のレベルが前回より1低いという疑問点はあるが、それを考えるのはとりあえず後だ。

その場に留まりながら勇者の力強い攻撃をさっといなして、返す刀で勇者に痛打を与えんと攻撃する。…が、勇者一行のメンバーである重戦士タスクが大きな方盾を持って割り込んで、私のその攻撃を防ぐ。こいつがここで攻撃を防いで来なければ、結構な痛手を勇者に与えられるのだがな。いつも良いタイミングで勇者を守られてしまう。

勇者もそれを分かっていて、重戦士タスクを信頼しているからこそ思い切りの良い攻撃をしてきている。敵ながら天晴れな連携だな。まぁ、そう敵を褒めてばかりもいられないのだが。そこで割り込んできた重戦士タスクを、ガードしてきた方盾の上から思い切り蹴飛ばす。

最近はこのタイミングで魔法使いの攻撃が飛んで来るので、そちらの対応をしなければならないところだったのだが、今回はこのタイミングで火球の魔法が3つ、私ではなく私の横を素通りして斜め後方に飛んで行く。護衛隊への魔法攻撃だ。護衛隊達は大盾を前に構え万全の防御態勢で待ち構えている。しかし、レベル差は如何いかんともしがたいのか、大盾できっちり防いだにも関わらず、護衛隊達3人はすごい勢いで後方に吹っ飛ばされていったのを感じた。

が、残りの3人が大盾を構えて吹っ飛ばされた他の護衛隊員の場所を埋めるべく私の斜め後方に金魚のフンのように付き従う。…いや、流石に味方に対して金魚のフンはないか。親ガモを追いかける子ガモくらいにしておくか。…いやでもそれだとちょっと可愛すぎねーか?


…こんな他愛もないことを考えられるというのも、後方まで吹っ飛ばされた護衛隊3人が立ち上がるのが感じられたからだ。ノーダメージと言うことは無いだろうが、戦線復帰は十分にできそうな雰囲気だ。

3分クッキングとばかりに毎度3分で護衛隊が処理されるようになってから、もう何度周回を重ねただろうか。護衛隊が全滅したその瞬間から勇者一行と長い時間の1対4を強いられるようになっていた。それがもう当たり前だと思っていた。

だがそれは違うのだ。変われば変われるのだ。当たり前の事に気付けなかった。半ば諦めて私はそれを受け入れていた。


―――変われるって強いな。


勇者がお前の相手は俺だ!とばかりに斬りかかってくる。とはいえ、先程とは違い攻撃偏重ではない。重戦士タスクの戦線復帰への時間を稼ぐ狙いがありそうだ。

勇者と斬りあいながら、ふと思い出す。勇者一行のレベルが今回全体的に1下がっていた事を。

ふむ…?

ちらりと勇者の後方を見ると遠くで先程私が吹き飛ばした重戦士タスクに対して聖女が癒しの魔法を与えているのが見える。神々しい見た目の杖を使った癒しの魔法は前回までに見たものより明らかにまばゆい光が広がっていた。そして収束したまばゆい光のあたりにいたタスクは颯爽と立ち上がった。ダメージなど全く無いかのようだ。前回までの聖女とは癒しの力の強さが違うのは一目瞭然だった。聖女のレベルもまた前回より1低いにも関わらずだ。

あの杖の力か。

勇者はレベルを1下げてでもあの杖を手に入れる事を選んだのだろう。

短期決戦を見据えているのだから、重戦士の武器や魔法使いの杖などの直接火力を上げる武器もしくは火力を担う勇者などの防具の入手に力を割いた方が正直有用に思えるのだが…まぁ別の考え方もあるかもしれない。だが、勇者もまたレベルを1下げるというリスクを取ってまで変えようとしてきたのだ。

…レベルを1下げる?

あの杖を手に入れる代償にレベルが下がるのか…?確かに強力な杖だが、そんな事があるのだろうか。


私は…勇者は毎回蘇る度に前周回のレベルを引き継いで、まず帝国内の内乱鎮圧に多くの時間を割いて帝国軍の強化をメインとし、残りの時間で毎回勇者一行のレベルの上積みをしたり装備を整えたりして、戦力アップを図っているのだと思っていた。こうして最終決戦の場でまみえる勇者のレベルが、前の周回より下がるという事が一度としてなかったからだ。だが私は大きな誤解をしていたのではないだろうか。

この勇者は……もしかして毎回レベル1からスタートして毎回手を変え品を変え、限られた時間の中でも少しでも強くなれるように、毎回試行錯誤を重ね最終決戦に至る最善のルートを模索し、磨き続けてきているのではないだろうか。


「待たせたな。」

重戦士タスクが勇者にそう話しかけながら戦線に復帰する。


「どうだ?」


「極上だ。これならある程度のダメージも怖くない。ばっちこいだ。」


「おし、レベルが前より少し低くなっちまったが、そのリスクをとった甲斐はあったな。護衛兵が厄介だが、まだまだこちらにも勝機はある。」


私は勇者と重戦士の二人と戦いながらも、その二人の何気ない会話を聞き逃さなかった。

…そうか。やはりそうなのか。


火球が3発、また私の横を通り過ぎて護衛兵達に着弾する。護衛兵達もしっかりガードしていたようだが、やはり3人揃ってまた後方へ思い切り吹っ飛ばされたようだ。


19回目の周回に入ったということは勇者は18回の周回を敗北で終えたという事だ。最近でこそ勝利への道筋も見えるようになってきていただろうが、それまでの私との戦いは勇者側に勝ち目が全く見えないほどの惨敗続きだったはずだ。それに心折れず自分に変化を促し、立ち向かい続けてきたという事か。

…それは正しく勇者の名に相応しい。


「勇者よ、変われるというのは強いものだな。」


勇者と剣戟を交わしながら、勇者に問いかける。勇者はそれに対して怪訝な顔を見せつつも、重戦士タスクが戦線に復帰したせいか先程より力強い斬撃を返してくる。


「勇者よ、お前は強い。真に尊敬に値する。」


再度勇者に話しかける。うっせえ、いいから死ねとばかりの表情を浮かべ、力強い斬撃に時折フェイントを混ぜたり、タスクとタイミングを合わせた攻撃を加えてくるなど、私に息つく暇を与えぬかのように勇者は攻撃してくる。


それを確実にガードしながら、そのまま勇者と数合すうごう斬り結ぶ。同時に、左手で密かに用意した火球の魔法を重戦士タスクの足元で炸裂させタスクを怯ませる。タスクが勇者の援護が出来ないこのタイミングを作り出すと、私は破軍刀を力任せに勇者の持つ聖剣に対して強く薙ぎ払って、聖剣を持つその手を痺れさせながら勇者を数歩退かせた。

その勇者の状況を把握しながら納刀し、素早く懐に手を入れる。後方に控える癒しの魔法を使おうと精神集中を始めた聖女と護衛隊への魔法攻撃に注力していた魔法使いに対して、両手に3本ずつ投げナイフを持って投擲。不意を突く事に成功した両者に対して、小さくない手傷を負わせる事ができたようだ。

そして勇者を見据える。勇者は一瞬手傷を負った後衛の二人に意識を割いていたようだが、大事ではない事を確認するとすぐに負けん気の強い表情でこちらを睨み返してきた。


―――勇者よ。お主のその行動力と変化を恐れぬ心に敬意を表し、私もまた変わろう。


腰に差していた破軍刀を再度抜刀しながら、私は私の好敵手を見つめた。

返事はもらえないと分かっていながらも、好敵手に向かって今の想いを…胸の昂まり投げずにはいられなかった。


「勇者よ。此度こたびのアドラブルは、一味違うぞ?」


そう言って破軍刀を勇者に向けると、勇者は少し緊張したような表情を見せた。それに私は満足する。さぁ、勇者よ。此度の戦いに決着を付けよう!


「魔王軍総司令官アドラブル、推して参る!」


私は勇者に向かって駆けた。










第一部 完

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