第32話 魔王軍強化計画

第21周回 4月某日 魔王軍総司令部


―――ジンベ!ジンベ!


―――くぴくぴー!


今日も元気にジンベは、自分の名前を連呼したり鳴き声をあげながら、総司令部の中を所狭しとはしゃぎまわっている。そんなに気に入ったのかな?そんなジンベは姿形も幼生体だが、沢山の精霊達が集合・合体して出来たばかりの精霊のせいか、ジンベ自体の精神的なものも幼生体のようである。ようするに赤ちゃんという事だ。かわいいから何でもいいけど。


沢山の精霊が集合してできたせいか、並の精霊ではなく大精霊でありその力は並の精霊と比べられないほど強大なようだ。…もっとも精霊本人が赤ちゃんのせいで、あまり上手く役立てられそうな気がしないのだが。

とはいえ、流石大精霊なのかいるだけでアドラブル自らの活力が漲ってくるのは感じられる。水の大精霊という事で力や俊敏性といった直接戦闘力に大きく影響がある部分にはあまり影響が無いのが残念だが、体力や防御力や魔力量といった継戦能力が上がったのは嬉しいところだ。


とはいえ、そんなことよりジンベがすっごい嬉しそうな雰囲気でまとわりついてくるので、なんかかわいいしなごむ。癒される。総司令部に入ってくる事務方を始めとした面々も大体ジンベのかわいさにやられてる。それだけで結構プラスかもしれない。

とは言っても今は勇者対策会議中である。ジンベを肩に誘導して肩乗りさせてちょっと静かにしてもらう。ニコニコしているのがすっごい伝わってくる。


「コホン。閣下、始めてもよろしいでしょうか。」


真面目な顔をして私を窘めるようにしてハキムが言う。とりあえずうなづいておくけど、ハキムだってさっきまでジンベと遊んでいたのにな。しかもその辺にゴロゴロ転がってお腹の上にジンベを乗せていたりしていたんだが。まあいい。


「では、精霊族を味方に付けて、念願の閣下自体のパワーアップが為されたと思われます。精霊自体との連携はまだまだかもしれませんが、徐々に上手くいくでしょうし、現時点で少なくともいくつかの基礎能力の上昇が見込めるとの事で、勇者一行との戦いは少なくともここ数戦は上手くいくと思われます。」


皆、うなづいている。


「そこで次なる強化案なのですが…」


「待ってくれ。」


とハキムが次の議題に移ろうとしたところで、護衛隊長であるボルガンから待ったがかかる。


「閣下自体の強さが底上げされた事は重畳である。だが、我ら護衛隊ももう少し強化していきたい。勿論、相手の挑発に乗らず最後まで戦場に立ち続ける事が重要でまずそこからなのは分かっている。だが、勇者一行は緩やかにも毎回確実に強くなっているとの事。今は6人がかりでかろうじて魔法使いの攻撃の分散先として護衛部隊も機能しているが、そのうち6人がかりでも押し切られる時が来るかもしれない。もしくは我ら護衛隊が歯牙にもかける必要も無い存在にまで勇者一行との実力差が生じて、魔法使いの攻撃が我ら護衛隊を無視して全て閣下に向いてしまう…そんな事もあるかもしれない。護衛隊自体がそれ程強くなれないのであれば、そのような時は近い未来に来るだろう。」


「ふむ、確かにそれはあるかもしれない。ではどのように強化していくのか案はあるのか?」


ボルガンは横を向いて最近から会議に参加し始めたグダンネッラに頭を下げた。


「婆さん、恥を忍んでお願いする。護衛隊が確実に戦場の立ち続けられるようにまずは魔法への耐性が高い盾――魔法の大盾をつくってもらえないだろうか。」


そう。グダンネッラはまず魔法の大家であるが、魔法武具や魔道具の大家でもあるのだ。だが、グダンネッラは明らかに不服そうな表情を隠さない。


「ハン、婆さんと呼ぶようなお前らなんぞにそんな労力なんぞこれっぽっちもかけたくないのが本音だね。」


「グダンネッラ様、そこを伏してお願いする。」


ボルガンが更に席を立って、グダンネッラに土下座する。それをグダンネッラは冷ややかに見つた後、溜め息を一つ吐いて言った。


「お前らはともかく閣下のためになるのだからやっても良いとは思っている。だが、それ以前に護衛隊が今使っている盾だってそれなりの逸品だろう?それ以上となると中々無いよ。それを今から作れと言われても、期間が足りないね。」


ふむ、道理だな。確かにそれ程の逸品を今から…しかも6人分も用意するのはグダンネッラといえど、難しいだろう。だが…


「グダンネッラよ。それ程の盾を一から用意するとなると確かに難しいかもしれん。そうだな…護衛隊は、いつも三人一組で敵魔法使いの魔法に対応していた。三人の既存の魔法の盾の魔法防御力をかけ合わせるような魔道具を開発出来たりしないか?」


その瞬間、グダンネッラの眼がキラリと光ったように感じた。


「それは…面白いね。うん、実に面白い。この戦いに関係なく興味深いテーマだよ。よし、やるよ。お前たちに頼まれなくてもやるよ。もういいね。私はもう行くからね。」


と言って、さっさと部屋から出て行こうとする。グダンネッラの魔法研究意欲の琴線に触れたらしい。だが、そこをボルガンが止める。


「待て待て。まだ話は終わってないぞ。あまり攻撃は出来ていない現状だが、攻撃力の強化というか敵後衛に嫌がらせとなる攻撃くらいはしたい。近付く余裕はないから、遠距離攻撃という事になるが、聖女も魔法使いも魔法防御力は高いだろう。ワシらも魔法は使えないし、代わりになる魔道具でも敵後衛の嫌がらせになる程の威力の魔法はなかなか出せないだろう。ということで物理攻撃という事で投げ槍ジャベリンを考えているのだが、ただ投げても普通に避けられてしまうので、槍の先端に火薬なり爆発の魔法を込めるなりして、着弾時に爆発させて効果範囲を広げてより敵後裔の魔法発動の妨害をしたいのだ。」


「ふむふむ…それはそこまで難しく無さそうだな。弟子にでもやらせる。以上で良いな?ワシはもう行くぞ。」


と言い残すとグダンネッラはそのまま勢いよく今度は止める間もなく部屋を出て行った。取り残される勇者対策会議室の面々。

グダンネッラはよっぽどさっきの研究をしたいようだ。やる気がないよりはいいかな。

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