第31話 ジンベ!
第21周回 3月上旬某日 グランザール大樹海の湖の畔
湖の周り…樹海側に定期的に魔物が湧くが、そちらは定期的に兵士が排除している。
ああ、そうそう。魔王軍の兵士のほとんどが魔物と言っていたけど、この世の全ての魔物を魔王軍が使役しているなんて事は無い。むしろ、ほとんどの魔物は本能に従っていて、魔王軍がその一部である特定の魔物種に対しては、長年の支配関係によってその魔物種を丸ごと配下として従えているだけだな。
魔王とは、魔物の王ではなく魔族の王で魔王といった感じだ。
魔王軍が使役している魔物はゴブリン族やコボルト族あたりのむしろ極一部である。そこらへん大多数の人間族は誤解しているのだが、魔族の話など聞く耳持たない連中が多いので、そこら辺の誤解は解いていない。解かないメリットもあるからね。なお魔王軍では使役できる魔物を増やそうといった研究もされているようだけど、なかなか難しいみたい。
森の奥のきれいな湖の畔で皆で精霊と交信?する。割とのんびりしてて、兵士たちも交代で仕事しているが割とバカンス的な雰囲気。
3日目、早くも兵士の一人が精霊と契約を結んだ。鹿人族の兵士で、風の精霊と契約を結んだようだ。精霊を見せてもらったが、ツバメの形をしている。
「おお、風の精霊か。風の精霊は一般的には主に敏捷性などに助力をもらえるはずじゃ。精霊の姿形が鳥であるツバメのため、より敏捷性に秀でた精霊であろう。鹿人族であるお主と相性も良いはずじゃ、良かったな。」
その兵士はとてもうれしそうだ。精霊も嬉しいのかその兵士の周りをくるくると周っている。
前例が出たためか、より一層精霊との交信に力が入る兵士達。次の精霊との契約成功者は我らが
「雷属性か。4大精霊でないのは前例が少ないため習得が少し難しくなるが、その分対策もされずらいためより有用であるといえよう。タリアト、良かったな。」
グダンネッラは、『タリアトは精霊と親和性が高く契約出来る可能性が高い』と事前に言っていたため、その通りに契約できたのが嬉しそうだ。タリアトは早速雷鳥の姿の精霊をつんつん突いてかわいがっている。
「で、
グダンネッラとタリアトが二人してこっち見てきた。
こっち見んな。
それから一週間。更に数人の兵士が更に精霊との契約に成功した。が、
「ふぅむ、おかしいのう。ぼう…閣下は精霊に好かれると思ったからこの作戦を提案したんだがのぅ。」
とグダンネッラ。今、坊やって言おうとしなかったか?
それはさておき、肝心な私はちっとも精霊契約の成功の兆しが見えない。
「精霊自体は、すごい閣下の周りに寄ってきているように見えるのだが、契約が成立しそうな雰囲気が全く無い。なんでじゃろ。」
なんでじゃろ…それは私も知りたい。
「キホケムラ、なんでか分かる?」
グダンネッラは自身と契約した精霊と会話して聞いている。
「…そんな事があるのか?」
「いや、だがそれだと困る…なんとかならんか?ん、うーむ。まぁええじゃろ。やってしまえばええ。」
となんか不安になりそうな投げ遣りな言葉をキホケムラに伝えると、キホケムラは頷いて湖の上へとすーっと移動していった。そこで何か話しているよう――もちろん言葉などは聞こえないのだが――にしていると、そこら中でそれまでは軽く瞬くように光っていた精霊たちが、強く大きく発光するようになった。そして一つ一つの小さな光が集まって大きな光になって、それらがまた力強く発光するようになり、その光がまた集まって…うわ眩しい、もう見れん!
思わず目を瞑って顔を背けた。その直後、音は無いが空気を震わせるような振動が身体に伝わり、その振動の方向から可愛げな鳴き声が聞こえた。
―――くぴー!!!
くぴ?
目を開けると、お、もう眩しくないぞ?
目の前で、ちっちゃなきれいな水色の…輪郭がやや発光している水棲生物が水も無い空中なのにぴちぴちと尾っぽで水飛沫あげてる。
で、何これ?精霊なんだろうけど。
説明を求むとばかりに、ちらっと横のグダンネッラを見る。
「これは…ええとなんじゃったかな。そう、ジンベエザメだったかな。閣下は知らんかもしれないが、海中に棲んでおりその大きさは通常のドラゴン種を優に上回るそうそうじゃ。もっともこの姿はそのジンベエザメの幼生のようだが。」
「海中って…ここは、湖ではないのか?」
「まぁ、これ自体はジンベエザメではなくあくまでも精霊であり、その姿形は精霊にとって
「そういうものか。」
「で、話を戻すとじゃな。閣下がなかなか精霊と契約できなかった理由だが、精霊たちに閣下が人気過ぎて、閣下と縁を結びたいと精霊たちが殺到して、閣下と契約する精霊の座を争って、一つの精霊に絞られることがなかったため、契約できる状況になかったそうなのじゃ。で、面倒だから合体して一つになってしまえとけしかけたら、あんな事になって、で関係あるかわからんが、大きさの象徴でもあるジンベエザメになったんだろう。で、合体したばかり…イコール誕生したばかりという事で幼生ってことなんじゃろうな。知らんけど。」
「海に棲む巨大生物、ジンベエザメか。」
目の前をきれいな水色をしたジンベエザメという形をしたとっても小さな精霊がふわふわと浮かんでいる。…浮かんでいるというよりは、落ち着きがなく私の周りを飛び交っているという感じだが。
「ふふ、閣下は好かれておるのぅ。まぁもともと閣下との契約争いしてたくらいだからそうなんだろうが。そうじゃ、精霊に名前をつけてやるとよいぞ。精霊とより繋がりが出来るであろう。わしのキホケムラのようにの。」
「ジンベエザメか…ジンベエザメ…ねぇ。」
それまで落ち着きなく飛び交っていたジンベエザメの精霊が、目の前に来て小首を傾げてこちらを見ている。
「ジンベエザメ…名前…ジンベでいいか?」
その瞬間、グダンネッラを始めとして周囲の何人かすっころんだ気がするが、どうしたのだろうか。だが…
―――ジンベ?
―――ジンベ!
―――ジンベ!ジンベ!ジンベ!
と自分の名前を連呼して飛び回っている。どうやら喜んでもらえたようだ。
「閣下は色々とセンスがあるが、ネーミングセンスは皆無じゃったか。しかし、精霊の方もそんな安直な名前でもええんか。」
「いいんです。とってもアドラブル様らしくて。」
グダンネッラとタリアトが後ろで何かコソコソと喋っている。
―――ジンベ!ジンベ!
その間もジンベエザメの精霊――ジンベ――も、自分の名前を連呼しながら嬉しそうに私の周りをまわっている。
「ところで、タリアトはなんて名前にしたんじゃ?」
「私ですか?姿形が
「…タリアトもアドミラルと同類なだけじゃないか。」
グダンネッラは盛大に溜め息をついた。
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3連休なので毎日更新で3話更新してみました。
これからは1週間に1話くらいのペースで更新したいと思っております。
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