第4話 勇者対策会議発足

第19周回目1月6日 魔王城総司令部


先日、娘のようなタリアトに悩みの一部をつい明かしてしまったが、実際それで何かが好転する訳でもなく、ただ気恥ずかしさが残るばかりであった。

その後、特筆すべき何かをしていた訳ではないが、特に何か目新しい事をしていなくても魔王軍総司令というのはそれなりに忙しい。

何もしていない訳ではないのだが、アドラブルの中では無為に時間を過ごしたという気持ちと焦りだけが残る。

そんな中…


―――コンコン

「閣下、失礼いたします。」


「ハキムか。もう戻ったのか。早いな。武器の手配は無事終わったのか?」


「一次手配は終わりましてございます。今後は経過を見つつ更に武器の質を上げていくべきと考えております。」


「そうか、ご苦労だった。」


「して、お悩みがあると聞いております。」


―――ちっ、タリアトめ。外には漏らさないと言っていたくせに。


思わず苦虫を噛んだような表情になる。


「…そこまで聞いているのだ。勇者の話も聞いたのであろう?」


「はっ。お許しをいただけるのならば、閣下とその話を共有したく。」


「………。まぁいい。話せば長くなる、そなたも掛けよ。

おい、誰か茶の用意をせよ!」


呼びかけに応じ入ってきたのはメイドのタリアトだった。

しれっと茶の用意をし、そしてまたしれっとハキムの隣に座るタリアト。

じろりと睨みつけるが、まるで効いた感じがしない。


「ハキムよ。お主は娘の育て方を間違えたのではないか?」


「長年仕えた自身でも突き止める事のできなかった主君の胸の内を明かすことができるまでに育つとは正直驚きました。誠に良き娘に育ったと思っております。」


にこりと笑いながら言い放ちおった。


「娘が娘なら、父親も父親よな…ふぅ。」


紅茶をすする。いつものことながらタリアトの紅茶を淹れる腕は確かだ。

目の前に犬人族わんこが二人お行儀良く座って俺が話すのを待っている。なごむ。その雰囲気に流されるかのように、紅茶を飲みながらそれまでの周回の話を二人にゆっくりと話した。


「…俄かには信じられませぬが、事実なのでありましょうな。

げに恐ろしきは何度でも何度でも蘇ってくること。しかもより強くなって。」


タリアトも心なしか青褪めた様子だ。

ここまで私が追い詰められているとは思っていなかったのだろう。


「申し訳ないことに、今すぐには解決策が見当たりませぬ。

…というか、先日の一斉指令はこれまでの周回の成果という事ですか。あまりにも整然とした指令が一斉に発せられたと驚いたものでしたが。」


しばし無言になるハキムとタリアト。

先日の鮮やかな指令をもって逆に事態の難解さを噛みしめているようだ。


「閣下、次回はエルデネトも加えましょう。

…そういえば最近見ておりませんが、あやつはいずこへ?」


エルデネトというのは、『月夜の影』と呼ばれる魔王軍諜報部隊の隊長の名前だ。魔王直下の部隊ゆえに正式には私の部下ではないが、魔王陛下が未だ幼いため後見人たる私が有効活用させてもらっている。本人も了承済だ。


「勇者の足取りが分かっているのは最速でも約4か月後からだ。帝国内のどこかにいるとは思うのだが、今までの周回で足取りが掴めた事は無い。それでも少しでも手がかりをと思い毎周回捜索場所を変えて探らせている。今回は帝国北東部を中心に探らせている。」


「人類側も魔王軍に対策を立てさせないため…かは分かりませんが、ある一定期間までは勇者一行の存在を隠す事に尽力しているという事ですな。その辺りに勝機がありそうな気もしますが…とにかくエルデネトも話に加えたいと思います。」


「分かった、調査は引き続き行わせるが、奴自体には送還命令を出しておこう。」


「それと…最終決戦時の閣下の周囲の護衛兵を強化いたしましょう。

勇者一行にどれだけ抗しえるかは不明ですが、少しでも長くもたせる事が出来れば、勇者一行と1対4といった数的不利になる場面を減らす事ができるかもしれません。

そうですな、閣下の護衛兵長であるボルガンもここに加えましょう。今後は週の始めにこの勇者対策会議を行っていきましょう。」


こうして、なにやら分からぬままに勇者対策会議が発足した。これで何かが変われば良いのだが。


が、正直に言えば一人で策も無くただ悩むだけという状況から脱する事ができたという点だけでもとても喜ばしい。

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