第26話 最強タリアト
第21周回 1月6日午前 魔王軍総司令部
「…タリアト、ちょうどいいところに来てくれた。」
呼んでないけどな。
「はい、閣下の事は何でもお見通し…という訳ではなくて、そろそろティーブレイクをされても良いのではないかと思いましたので。」
…ねぇ、本当にそう?本当に冗談なの?ちょっと怖いんだけど。
とはいえ今大事なのはそこではない。タリアトが丁度良いタイミングで来てくれた事も確かだ。私は執務机の椅子から応接用のソファーに移動して、タリアトに対面のソファーに座るように指し示した。
「タリアト。大事な話があるのだが、聞いてもらえるだろうか。」
「はい、閣下。」
タリアトはにっこり笑いながら紅茶を淹れてくれている。淹れてくれた後、タリアトは私の正面のソファーに座る。淹れてくれた紅茶を少し飲む。美味しい。
…また飲む。美味しい。
…飲む。美味しい。
紅茶が無くなる…手持ち無沙汰になってしまった。
無言でお代わりを淹れてくれるタリアト。カチカチカチと時を刻む音だけが鳴り響く。
タリアトはティーカップを両手で持ちそちらに視線を落としている。特に急かす訳でもなく、無言で私が話し始めるのを待ってくれているようだ。
…なんで娘のような存在のタリアトに、率先して助けを求めようとしているのだろうか。腹心のハキムの方がよかったのでは?と思わずこの場を逃げ出したくなる。
が、前々回タリアトから始めて皆に伝わって上手くいったという実績があるのだ。既に上手くいった実績があるのに、わざわざ魔王軍の行く末をチップにしてギャンブルをする気にはなれない。
とはいえ気が重いな、はぁ。だが、こうしていても時間だけが過ぎていくだけで、埒が明かない。前回はタリアトに何と言って伝えたのだったかな。そういえば確かこんな感じの事を話したかな?
「タリアト…今の魔王軍をどう思う?」
「えっ?………え?」
なんか戸惑っているタリアトだったが、咳払いをして気持ちを落ち着けたようだ。
「ゴホンゴホン…いきなりどう?と言われましても、そうですね。世界各国への侵攻状況も聞く限りでは順調なのでは?としか。それとも何か問題でもありましたか?」
なんかよくわからんが、タリアトは拍子抜けしたような表情を見せ犬耳がへにゃっと垂れ下がったのだが、真面目な話だと知ってか咳払いをした後は姿勢を正して聞く態勢をとってくれた。
「勇者の存在を知っているか?」
「ええと、あの…人族の間で伝説の存在で、歴代の魔王陛下に匹敵する実力を持つといわれる?」
ちょっと慌てて受け答えしているような感じのタリアト。ちょっと話の展開が急過ぎたか?
「そうだ。この瞬間にも人族は勇者を旗印に魔王国への侵攻計画を進めている。そして今から丁度約1年後、エルデネサントの野において人類側は帝国軍を主戦力として我が第一軍団との間において最終決戦が行われる。勇者は戦場にてこの私を打ち倒さんと精鋭を率いて魔王軍本陣に突撃してくる。」
ちらりとタリアトを見やる。今は困惑した表情の奥にも、その内容を懸命に理解しようとしていてくれているように見える。そうだよな、いきなりこのような突拍子もない事、しかも未来の事を断定的に話されても訳が分からないよな。
「それは…ですが、如何に勇者が強くても、ここからの人類側の逆転は難しいのではないでしょうか。」
「普通はな。」
「勇者は、それを
「いや、そんな事は無い。確かに勇者一行の面々は強いは強いが、アンタッチャブルな強さという程ではない。」
「では、何が…?」
「勇者は負けても何度でも蘇ってくるのだ。勇者が勝つまでな。」
「…?魔王城に勇者が何度も攻めて来ていた…等という話は聞いたこともありませんが?」
ここでタリアトが誤解しているのが分かった。そうだよな、何度も復活するってだけならともかく、時間を戻して再チャレンジして来ているなんて思ってもみないよな。
「勇者はただ蘇ってくるのではなく、それまでの一年間を無かった事にして――時を巻き戻して蘇ってくるのだ。魔王軍に…私に勝つまでこの一年間を何度でも繰り返すつもりなのだ。」
そしてここで一息入れるために紅茶を飲む。
「先程言った1年後の最終決戦。私の知る限り、それはもう20回を数えている。なぜか私だけが、魔王軍では私だけがそれを認識出来ている。」
―――そう。なぜか私だけが…うん?そういえばどうして私だけなんだろうな?そして、人類側は勇者だけなんだろうか。それとも勇者以外にもいるのだろうか。
「初めのうちはとるに足らない勢力だった。タリアトも知ってのとおり、人類側の主力を担うべき帝国は、我らの暗躍のせいもあるが、内乱に明け暮れておりとても魔王軍と戦争出来る状態に無い。人類側はロクな戦力を揃える事も出来ず、最終決戦は鎧袖一触といった感じで魔王軍の圧勝に終わっていた。」
当然とばかりにタリアトは頷いている。
「だがいくら勝っても終わらないのだ、相手に勇者がいるせいでな。蘇る勇者は回数を重ねるごとに試行錯誤を重ねたのだろう。帝国の内乱は次第に収まっていき、人類の軍隊は魔王軍とまともに戦えるような戦力になるまで増えていった。最初は魔王軍の隊長格よりは強い程度だった勇者一行の実力自体も、回数を重ねるごとに強くなり、とうとう4人合わせると私と互角以上に戦えるまでになってきた。」
少し感情移入してきたのか、タリアトは手を握り締めて聞いてくれている。
「そして、先の戦いでは…。なんとか勇者一行――そのうちの2人は無理を押して倒す事が出来たのだが、その無理がたたって聖剣を持つ勇者に左腕を斬り落とされた。そのまま武器を弾き飛ばされ、私の魔力も尽き、最後は右腕を聖剣に貫かれ、もはや抵抗する
「なんということだ!!!
父よ!父よ!あなたはいつも肝心なところで役立たずだ!」
興奮して立ち上がり叫んでいるタリアト。感情表現豊かな
というかその前に思わず苦笑してしまうが、父親への評価がちょっと酷くないか?ハキムは全然役立たずじゃないぞ?そんなのハキムが聞いたら
「しかし、そこまで来るともう我ら魔王軍の敗北は動かなそうですけど、そこからどうやって生還――勝利したのです?」
落ち着いたのかタリアトは再びソファーに座るとそう聞いてきた。
―――!!!
その瞬間、あの最後の場面が思い出される。
自然とタリアトに対して
「え…何コレ。推しとなんか二人きりになる展開になったと思ったら、推しが終始無言でなんか話し辛そうにしてるし、え、これ、もしかしてもしかすると、ひょっとしてひょっとして告白されちゃったりなんかするの!?とか、しかもそのまま押し倒されちゃったりしてキャーとか妄想大爆発してドキドキしながら待ってたら、普通にマジメな話が始まって一気にテンション下がったけど、推しと二人っきりってシチュだけでもまぁ割とアリかな?とか思い直して、推しの前にマァ上司でもあるわけだし、一応?まじめに話を聞いてたと思ったら、イキナリ推しっていうか上司に頭下げられるとか、これもうどんな展開!?全っ然意味わかんないんですケド!」
あれ?タリアトなんでかおこです?
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