第36話 大精霊の力?

第22周回 1月1日新魔王就任式


前話に続き時が巻き戻った場面である大魔王就任式にて、相も変わらず頭を抱えるアドラブル。


莫大な研究費が必要な研究にも金に糸目を付けず費用を注ぎ込む。(ジンベ!)でも巻き戻る分には費用がチャラになって研究成果だけが残る!(ジンベ!)…ループを逆手に取った、なんて素晴らしいアイデアなんだと思ったんだがなぁ。(ジンベ!)


ぐう。

こんな風に最終決戦を経ずにいきなり周回が終了するという可能性を考慮する必要があるのか…。(ジンベ!)研究成果を理解しつつ記憶するというとっても面倒な作業を最終決戦前に一夜漬けするのではなく、こまめにしないといけなくなるじゃないか!(ジンベ!)

まじか、まさかこんな手でこの作戦をいやらしく妨害してくるとは、勇者の奴め…これが孔明の罠という奴なのか。(ジンベ!)


ええい、大事?な思索に耽っているというのに、さっきからジンベジンベうるさ…い…?


「くぴ?」


と目の前で小首を傾げながら空中に漂っている大精霊ジンベと目があった。


「くぴくぴ♪」


私と目が合ったのが嬉しいのか、にこにこしながらぴちぴちと謎の水飛沫をあげて、アドラブル《自分》の周囲を楽しそうに一周して、また目の前に来てこちらを見つめながら小首を傾げる大精霊ジンベ


「ジンベ?」


何この生き物。めっちゃかわいい。


…じゃなくて。

えっ???なんで時が巻き戻ったのに大精霊ジンベが、この時点でここにいるの!?


慌てて周囲の様子を見回すも…

あれ?割と普通にアドラブルとそれに付き従う大精霊ジンベという存在が受け入れられて、主従ともども微笑ましく見つめられている…?


ええと…なんだ、この状況。意味が分からん。

私が見たことも無い精霊をつれていたら、普通は驚くだろう?神秘的である精霊と契約するというのは割と限られた存在だからな。

前回、大精霊と契約――他にも精霊と契約した兵士たちと一緒に――大森林から魔王都に凱旋した時は驚きと畏敬の念をもって諸将や帝都民に出迎えられたものだ。

でも、今は逆に普通に受け入れられている。


大精霊ジンベは、前回の周回の途中で初めて私と邂逅し付れ添ってくれるようになった訳で、それ以前の時であるこの1月1日に私が精霊をつれていた事実は無く、傍から見れば1月1日に急に私がいきなり精霊を従えているという構図になっているはずで、その事実は皆が驚く事象であるはずなのだが。


…違うの?



「ジンベ、お前何かしたの?」


「ジンベ?」


小首を傾げるジンベ。

とってもかわいい。いや違う、そうじゃない。


ええっとだな、一年前の一月一日はまだ私とジンベは会っていなかったよね?それなのにここにいるのはなんで?


「くぴぃ~」


だめ?とばかりに悲しげな声をあげるジンベ。

いや、だめじゃないんだ。とっても嬉しいんだ。でもちょっと不思議だから聞いてみたかったんだよ、ジンベ。


「くぴくぴ♪」


良かった事に嬉しいと言った傍からとっても喜んでいるジンベ。…喜びのあまり話の後半部分は全く聞いていなそうだったけど。

で、さっきの話もそうだけど、皆が不思議がってない理由も聞きたいんだけど…


―――くぴくぴぃ


だめだ、話が通じない。


うーむ…なんでなのかが、すっごい気になるのは確かだけど、まぁでも良しとするか。なんだかんだ言ってもジンベと時の巻き戻りで別れなくて済んだのだから。しかも、もしかしたらジンベと再会できておらず今回の周回で精霊との契約に挑んだ場合、ジンベではなく全く違う精霊との契約になった可能性もあるのだから、それを考えるとこんなにかわいい大精霊と別れずに済んだのは僥倖とも言えるだろう。

それに…もしかしたらこれが一番大きいかもしれないが、ループする度に苛まれる孤独感からやっとおさらばできたとも言えるのだから。

目の前でつぶらな瞳でこっちを見つめている大精霊を見てしみじみ思った。


「ジンベ?」


…やっぱり話は通じないけどな。

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