第46話 経験値げっと。
第22周回 4月下旬 帝国北東部戦場 勇者
勇者は目印となった火球を打ち上げると、時を置かずして手筈通りに左右の森に伏せていた兵が魔王軍に奇襲をかけたのが確認できた。
「どうやら上手くいったようだな。」
先程左右の森から一斉に矢が放たれ、その後聖女率いる左軍とモブ指揮官率いる右軍が突撃を仕掛けた。魔王軍の中央部は大混乱でこのまま問題無く分断できそうな勢いだ。
これでこちらの本体が引き返して魔王軍を攻撃すれば中央部から前半分は孤立する事になり、文字通り包囲殲滅出来るだろう。とはいえ、こちらに全く問題が無いわけではないのだが。
さっきまで帝国兵は命懸けで逃げていたので、事前に伝えてはいるのだがそれでも急に部隊を反転させて反攻に転じるのは難しいのか、再編成にちょっと手間取っている。今しがた仕掛けてくれた伏兵部隊は総兵数が少ないので、あまりにも再編が手間取って逆に先に魔王軍に立て直されてしまうとまずいのだが、見たところ
とはいえ、帝国軍本体が再編に手間取っているところを更に一度は足が止まったはずの魔王軍のヤケ気味の突撃をくらって、タスクも頑張っているがそこら辺は経験が不足しているのか、部隊をまとめるのに苦戦しているようだ。
「お前ら、落ち着け。敵の後方をよく見てみろ。事前の作戦通りに味方が奇襲を仕掛けて敵は大混乱に陥っている。それに今受けている攻撃も散発的なもので、先程までの勢いはないぞ。」
勇者は指揮官としてよく通る声で味方に声をかけた。
すると、波が伝播していくように兵達が落ち着きを取り戻していくのが見えた。
――よし、これでいけるな。
一部の魔王軍の最後っ屁のような突撃を受けた中央部より、左右の端の方が立て直しは早く魔王軍にそのまま突撃していく。あんまり部隊が突出するのは好ましくないが、この戦はこうなったらもう勢いが大事なので、お前らどんどん行ってしまえとばかりに勇者は
突撃してきていた魔王軍もこちらの混乱に乗じて最初は善戦していたようだが、中央の帝国軍の部隊も再編成が終わり槍を揃えて反撃に転じると、なけなしの気力を使い果たしたのかみるみるうちにその数を減らしていった。
魔王軍の本体を叩こうと、勇者は摺り潰されて今にも消え去ろうとする魔王軍の突撃部隊を半ばスルーする形で進軍しようとしたが、その突撃部隊の中央に位置する敵部隊がなかなかしぶとく、帝国軍に少なくない被害を与えている事に気付いた。
ほとんどがゴブリンで構成される魔王軍にしては珍しくリザードマンを中核とした部隊だった。その中核の10名程のリザードマンで構成されたその戦士達は見事な力量と連携で、後に最終決戦で
しかし、数には勝てずリザードマンの戦士達は、一人また一人と力尽き倒れていく。その強さを惜しいと思う気持ちと帝国軍の被害がこれ以上はあまり増えなさそうで良かったという思いとがごちゃ混ぜになりながら、勇者は複雑な気分でそれを見ていた。するとリザードマンの戦士達も粗方倒れて残り2~3人となったところで、隊長格のリザードマンが勇者に気付いたのか名指しで声をかけてきた。
「ソコニイルノは名のアル戦士とオ見受ケスル。最期に一手オ相手シテイタダケナイダロウカ。」
惜しいと思いながら見ていた勇者は、周りの者が止めるのも聞かずにそれに応じた。
「良いだろう。私は人族の希望――勇者と呼ばれる者だ。冥途の土産に我が剣を受けていけ。行くぞっ」
「オオ、相手にトッテ不足無シ。感謝スル。」
しかし既に満身創痍であったギラルは、勇者相手では長くはもたずそのまま斬って捨てられた。ただしその剣技は見事で、もしギラルが無傷であったらまだレベルが低く聖剣を持っていない今の勇者では勝てなかったかもしれないと思わせる程であった。
思わぬ足止めをくらってしまった勇者だったが、その間にタスクが混乱を収拾し、完全に部隊を掌握した事を考えればそれほど悪い事ではなかった。
――名うてのリザードマン戦士と戦う経験も得られたしな。ファンファーレこそ鳴らないが、レベルが上がったのが分かる。経験値げっとだぜーと喜びたいところだが、あの戦士に敬意を表して心の中で思うだけにしておくか。
勇者は前後に分断されつつある残りの魔王軍を包囲殲滅すべく、兵を引き連れて進撃を再開した。
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※ギラルの喋る言葉にバルダッシュと違って一部ひらがなが混じるのは、バルダッシュよりちょっとだけ共通語を話すのが上手いとかそういう設定です。
(割とどうでもいい)
本当は逆にしたかったけど、気付いた時にはバルダッシュは既出だったという
(書籍化される時には直すかも←黙れ)
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