第45話 絶体絶命の魔王軍
第22周回 4月下旬 北東魔王軍総大将バルダッシュ
バルダッシュが追撃しているその目の前…少し前方で火球が打ち上がる。
「ン、アレハナンダ…?」
その火球はこちらに向かってくるでもないので、魔法攻撃をしてきた訳では無いようだ。その火球はそのまま空高く上がると
「何ガ起キテイ…ッ!?」
前を振り返ると、上空には火球の燃え滓のような煙がたなびいており、その空の下では反転迎撃をしようとする帝国軍がいた。逃げ続けようとする帝国軍と反転しようとする帝国軍がぶつかり、それはかなり手間取っているようだが、明らかに反転して攻撃に転じようとする意志が見える。
「アレハ合図ダッタカ…」
バルダッシュは、再度後ろを振り返る。
矢を一斉斉射した後は、左右の森から怒涛の如く帝国兵だ湧き出し魔王軍に突っ込んできていた。ゴブリン兵は右往左往しており、逃げようにもどこに逃げていいか分からないといった狼狽している様子が手に取るように分かった。逃げようとする前にまず戦えとバルダッシュは思ったが、低級のゴブリンでは無理も無い事だとも思った。
バルダッシュは、一度全体を確認する。
バルダッシュの周囲を固めるリザードマンの戦士達は、脳筋オブ脳筋といった感じではあるが、流石にこの状況はまずいと思ったのか、私の指示を待っているようだ。
一方でそこらにいるゴブリン兵達は、上からの指示を待つ感じではなく個々で勝手に逃げようとしているが、後ろに逃げれず前も今まで追っていた帝国軍がいて、どこに逃げて良いか分からないからそこにいて惑うだけといった感じであった。
前方の帝国軍の様子を見ると一部既に反撃に転じた部隊もいるようだが、全体としてみればまだ再編成に手間取っているように見える。まだ少し時間の猶予はありそうだ。
現在進行形で魔王軍の後背を左右から襲ってきた帝国軍は、疲労も無く非常に士気が高そうである。今攻撃されているあたりの魔王軍はまさに大混乱といった感じで、それを収拾できそうな指揮官もいないためロクに戦えないだろう。
このまま時間が経過すれば、魔王軍を前・中・後の三軍と考えると中軍は遠からず完全に崩壊し、前軍は反転した帝国軍と中軍を破った伏兵部隊に完全に包囲されて摺り潰されるだろう。後軍は逃げれば逃げれるかもしれない。むしろ、もう敗北は免れないから出来るだけ逃げ延びて欲しいところだ。
勝ち戦が一転して全軍の2/3は失う大敗だ。いや、元々作戦で負けていたのか。アドラブル様にあわせる顔が無い。いや、それを悔やむのは後でいい、今出来る事をするんだ、バルダッシュ!
バルダッシュは自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせると、もう一度前方を確認する。多少混乱しているとはいえ立て直し反転しようとしている前方の1万以上いる帝国兵をこの状況で抜くのは難しいとまず感じた。
ならば前方の帝国軍が立て直す前に反転して後方の敵伏兵部隊を攻撃して血路を切り開き、前軍と中軍の兵士を一兵でも多く後方へ逃がすのが最良か。疲労もなく士気が高い伏兵部隊を前方の帝国軍本体が立て直す前に血路を切り開いて後方に脱出する。とても厳しいが、これしか無さそうだ。
尤も、脱出した後も今度はこちらが追撃を受けながらの撤退戦になるわけだが…それでも何割かは逃げれるだろうし、それはその時に考えよう。このままでは前軍も中軍もさして抵抗できぬまま文字通り全滅するだけだ。
急ぎ考えをまとめたバルダッシュは近くの兵達にその方針を伝え、近くにいる伝令が出来そうな者に前軍の離れた位置にいる部隊長クラスにその方針を伝えるように指示を出す。
そこで彼の肩をとんとんと叩く者がいる事に気付いた。同族であるリザードマンのまとめ役ギラルだった。
「前方の帝国軍、立テ直シ手間取ッテル。デモ、バルダッシュが血路を切リ開クマデノ時間はモラエナイ。ダカラ、バルダッシュの時間を稼グタメニ、ココデ食イ止メル役が要ル。」
「ギラルガ、
「任セロ。コイツラとコノ辺ニイルゴブリンドモの指揮権はモラッテオク。」
「スマン。恩ニ着ル。」
「構ワン。時間が無イノダロウ?早ク行ケ!」
ギラルは、親指を1本立てて私に微笑むとリザードマンの戦士や近くにいるゴブリン兵たちを叱咤し、一声吠えるとまだ立て直しに手間取っている前方の帝国軍へと突撃していった。その吠え声に追従するかのように周囲の右往左往していた主体性のないゴブリンもギラルを追って帝国軍の方へ向かっていった。
少し離れたところにいるゴブリン部隊も下がる部隊と前に出る部隊が出ている。恐らく先程出した伝令が届き始めたのだろう。統率が取れているとは言い難い状況だが、とりあえずは右往左往するだけだったゴブリン兵達に指向性ができただけでも良いとしよう。右往左往するだけでそのまま討ち取られるよりも、前に進むにしろ後ろに退くにしろ、どちらかに進めば魔王軍としての利益になるだろう。丁寧に指揮をとる時間はないのだから仕方がない。時間が惜しいのだ、われらも行かねば。
「行クゾ」
本陣周りの側近や護衛に声をかけて、後ろに向かって進む。最後にもう二度と会うことのない
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あけおめ更新です。
ストックが切れたので、次はいつになるのか…。
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