第8話 諜報活動

「エルデネトよ、そなたらにまだ伝えておらぬ情報があったようだ。」


何でしょうかと皆が聞く態勢をとる。


「帝国内での工作は初回に限っていえば場合によっては成功するが、成功した周回の次以降は必ず失敗するのだ。…なぜかは分かるな?」


思わず、あっという顔をするエルデネト。あ、尻尾がぴんとなった。かわいい。


「そうだ。2回目からはその工作の存在を知った帝国内にいる勇者一行が直接対処するからだ。そこではその破壊工作なり暗殺なりがある事を知った前提での行動をとるために、諜報員たちからすれば完璧ともいえる隠密行動や隠蔽工作であったとして、不自然というか理不尽ともいえる行動で工作は防がれ、工作員は勇者に狩られる事になるのだ。

…帝国内だけはダメだ。後日、人類側に結果という形が残らない情報収集のような活動であれば構わないが、そうではない具体的な工作を帝国内でしてはならない。下手をすれば現在存在する工作とは関係ない情報収集だけの諜報拠点すら毎周回でいきなり潰されてしまう事にもなりかねない。」


「なるほど、そういう事でしたら残念ですが、かしこまりました。

…そういえば、弱点が判明するだけであっさりやられちゃった精鋭部隊とか最近聞いた気がするので、暗殺等の直接的な手段ではなく決死隊の構成員の情報を探っていくのもいいかもしれませんね。」


エルデネトも中々な死体ボルガン蹴りしてるなぁ。


「そうだな。それと決死隊を構成する手練れは帝国外からも呼び寄せているだろう。そちらは情報収集だけでなく、暗殺工作を行っても良いかもしれないな。ただ、決死隊メンバーということは個人戦闘能力が高い手練れゆえにそれを暗殺するのは大変そうだが。」


「そうですね。諜報網の行き届いていない遠方での工作はより困難になるでしょう。無理はしない事とします。」


「私が最終決戦における決死隊の面々を記憶しておいて次回の周回でお主らに誰がいるのかを教える事が出来ればよかったのかもしれないが、決死隊の役割としては勇者一行が私の元まで辿り着くために魔王軍内の血路を切り開くのがメインで、私とは戦場での直接の遣り取りは無いのだ。勇者一行との戦闘が始まってしまえば勇者の後方に位置している決死隊員を気にする余裕なんて全く無いからな。」


「最終決戦で我らが決死隊のメンバーの事を記憶しても次回に持ち越せませんからね。」


「そうなのだよな。

…ああ、そういえば帝国の第一皇女とその取り巻きの八剣だったか?あいつらはいたと思うぞ。それは記憶にある。」


「なるほど、確かに突入部隊にいそうですな。少なくともそやつらの情報は探っておくとしましょう。もし今回最終決戦前に相手の事を丸裸に出来てしまえばその情報は閣下に記憶しておいていただいて、次回の周回では丸々別の決死隊メンバーの調査にリソースを回せますな。」


「そうだな。…思えばこの勇者対策会議はとても有意義な集まりだ。希望が見えてきた。絶望していた先日がまるで嘘のようだ。皆、感謝する。」


その言葉に対して、皆、無言で頭を下げていた。




~閑話休題~

「ところで、理不尽な破壊活動の防がれ方ってどんな感じなの?」


「うーむ、例えば暗殺しようとして天井裏に忍び込んで夜を待つとするだろう。暗殺に失敗する場合は、天井裏にいる間に気配に気付かれて失敗とか暗殺しようと深夜に直接的な行動に動いた時に標的が想像以上の達人で殺しきれない…とかが主な失敗原因になるんだろうけど、理不尽な防がれ方の一例としては町を歩いててあの屋敷の天井裏に忍び込もうかなーって下見してるところで白昼堂々いきなり路上で背後からばっさり斬られるとか?」


「スプラッタ!?え、そんな事許されるの?」


「人類の希望たる勇者だしねぇ…身分は保証されていると思っていい。それにそんな諜報員の身体調査されたら何か出そうだよね。そんなタイミングで殺されるなんて思ってないから。」


「ふーん、まぁそうかもねー。一つの失敗…いや、失敗してなくてもか、次回以降の負債になってしまうと。護衛隊もまぁまぁ不幸だったけど、諜報員とこの勇者の無限周回との相性も悪過ぎるね。」


---------------------------------------

なんと2つ目のレビューいただきました。

ありがとうございます!

これが盆と正月がいっぺんに来たという奴ですね!(違

嬉し過ぎて更に前倒し更新です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る