第7話 タイムテーブル
護衛隊長ボルガンは、恥ずかしさのあまり逃げ出した。
しかし、魔王からは逃げられない!
いやまぁ、私は魔王ではないけどな。
「ほら、ボルガン。どうした?
ここから改善して見せるんだろ?まだ一年あるんだぞ?」
発破をかけてやるが返事がない、ただのしかばねのようだ。
「閣下、今日のところはその辺で…聞いたかボルガン、閣下のありがたいお言葉を。
閣下の言う通り幸いまだ一年ある。各隊員の弱点耐性を改善するだけでも違うだろう。この事を知らずに各隊員の強化を図るだけでは一年後もまた同じ展開になっていたことを思えば、良かったではないか。」
とハキムはボルガンに告げた。
返事がない、やはりただのしかばねのようだ。
「仕方ない。閣下、今日のところはボルガンは休ませます。後ほど私がフォローしておきますので。…タリアト、ボルガン殿を少し休ませてやれ。」
タリアトはボルガンに離席を促し退室、どこかへ連れて行った。
…あいつ、ボルガンにトドメさしてないよな?
数分後、少しすっきりした顔のタリアトが戻ってきた。
…なんで?
「さて、閣下。最終決戦自体についてもう少し詳しくお聞かせ願えますか?介入・改善の余地を探したいと思います。」
とハキム。それに応えてホワイトボードに書いていく。
[第18回最終決戦布陣図]
12月31日 エルデネサントの野
2万 6万 2万
[人類軍左軍] [人類軍中軍] [人類軍右軍]
vs
[魔王軍左軍] [魔王軍中軍] [魔王軍右軍]
5万 10万 5万
「相手側からすると左軍と右軍が逆だが魔王軍視点でいいだろう。
戦場と布陣自体はこんな感じだな。基本的にエルデネサントの野は平坦だが魔王軍中軍が陣取る位置がなだらかとはいえ少しだけ小高い位置にあるため中軍だけ地形的にはやや有利ではある。見ての通り魔王軍が人類軍の倍いるので、このまま戦い続ければ夕方には人類軍は敗走するだろう。しかも人類側は夜に戦えない。そのまま夜間の魔王軍の追撃戦によって敗走が壊滅~壊走となるだろうな。」
[第18回最終決戦タイムテーブル]
07:00 開戦
(この間、戦況はほぼ互角で推移する)
10:30 人類軍決死隊(勇者一行含む)が魔王軍中軍に対して、突撃開始
10:55 決死隊が血路を切り開き、魔王軍総本陣に到達
11:00 魔王軍総大将アドラブルと勇者一行との戦いが始まる
11:03 アドラブル護衛隊壊滅
11:28 勇者一行を除く決死隊がほぼ討ち取られる
11:30 勇者が残りの力を全て込めてアドラブルに突撃するも敗北し死亡
11:33?時は巻き戻る
「こんな感じであったはずだ。」
「なるほど…最後は、決死隊が全滅したから勇者は決着を急ぎ、それを凌いだ閣下が勝利したと。そしてそれ以前に戦場全体での魔王軍の勝利が揺るぎないので、人類軍は決死隊による総大将撃破…閣下打倒による早期勝利を目指したと。」
「そうなるな。」
「そうするとこちらは当初の予定通り、魔王軍を更に強化して戦場での優勢をより確保する事により
・決死隊が簡単に突破できないようにする
『決死隊―勇者一行に手傷を負わせたり、余力をそこで出来るだけ使わせる』
・決死隊の壊滅時刻11:28が早まるようにする
『アドラブル閣下と勇者一行との1対4の時間を減らす』
を狙う事が出来ますね。
それと同時に開始3分であっさりと壊滅した護衛隊を含むアドラブル閣下以外の対勇者への直接戦力を充実させることにより『アドラブル閣下と勇者一行との1対4の時間を減らす』を改善することが出来ますね。」
開始3分であっさりとか…この場にいないとはいえ、ハキムも結構な
ここで初めてエルデネトが口を挟む。エルデネトは狐人族だ。びっくりすると尻尾がぴんと立つのが少し面白い。まぁ、諜報部隊長であるエルデネトをびっくりさせるのは中々至難の業ではあるのだが。
「魔王軍を全体的に強くすることもそうだが、魔王軍中軍の中央部―突っ込んでくる決死隊のルート上及びその近く―に中央突破を目論む決死隊にダメージを与えたり、中東突破後に勇者一行以外の決死隊を全滅させたりする役割を果たす精鋭を配備することでより有利に戦えるのではないか?全体を強化する方が価値があるのは確かだが、労力がかかるし時間もかかる。比較的優秀なやつを全体から引っこ抜いてくる方が効率はよさそうだ。
本来はそれをやると全体がバラバラになってしまうのだが、それでも魔王軍全体の優勢は動かないから、要点たる中央部に精鋭を重点配備するべきなのではないか?」
「ふむ…各部隊からの反発も予想されるが、それなりの待遇と名誉を与えれば精鋭部隊自体は作れそうか…ありよりのありだな。」
「そこはハキムに任せるとして…私はもう一つの勝利へのアプローチを探ろう。」
「何をするつもりだ?エルデネト。」
「ここまで触れられてこなかったが、決死隊構成員約100名の質でも量でもどちらでもいいがそれを落とすことが出来れば、それもまた『アドラブル閣下と勇者一行との1対4の時間を減らす』を満たせるのではないか?」
「確かに。」
とハキム。エルデネトはこちらに向き直り、
「最終決戦地がエルデネサントの野ということであれば、恐らく帝国軍要塞エルグレアが人類側の最終集結地点となりましょう。そこでの破壊工作及び決死隊メンバーの暗殺を試みるのが我ら諜報部隊の役目かと。今のうちならまだ最終決戦の準備はされておらずエルグレアの警備は薄いでしょう。薄い今のうちに潜入しておくのが吉というものかと。」
エルデネトが死に場所を見つけたとばかりに進言してきた。
いや、死んでくれたら困るんだけど。
---------------------------------------
レビューいただきました。
ありがとうございます!(感無量
嬉し過ぎて前倒し更新です!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます