第38話 魔王軍vs帝国軍
第22周回 4月上旬 帝国北東部入口
勇者と呼ばれる男は帝国北東部に向けた街道を北上していた。
その背後には勇者一行といわれる仲間3人だけでなく、二万弱の帝国軍兵士が勇者に付き従い整然と進軍していた。周回開始直後である年初に勇者が率いる帝国兵は五千程度だったが、勇者一行率いる帝国軍が帝国内の反乱の鎮圧を重ね、反乱軍の残存兵を吸収し続けた結果二万弱まで増えた。
なお、これから向かう帝国北東部と北西部ではゴブリンばかり…とはいえど、帝国内の不備不和の隙を突いて5万もの魔王軍の侵略を許していた。魔王軍は彼の地で虐殺と掠奪を繰り返しており、現地の状況はまるで地獄絵図のようだとの話が流れてきている。
なぜこのような惨劇を帝国が放置していたかといえば、まず帝国の方針としては帝国内で長く
あまり豊かではない北東部と北西部の被害だけならば帝国としても許容できる範囲ではあったが、被害が拡大するにつれて北東部や北西部からはその近隣の領地に救援要請がより大きくなっていた。
侵略地の近隣の地域からは侵略地へ救援物資が運ばれる事になり、それゆえに救援元は物資が不足気味になり、結果的に最終決戦への物資の供出が困難になっていた。また兵力という点でも近隣の領地が襲撃されているのだから、次は我が身かとその地の防備に兵力が割かれる事になり、結果的にその侵略被害があった近隣地方からも最終決戦に向けて兵力も、そしてまた前述のように物資も送られてこないことになり、その地方が丸々最終決戦から離脱になる事とほぼ同義となっていた。
最終決戦に向けて最低でも魔王軍20万の半数である10万の兵士とその10万人分の糧食を集める必要があるのだが、ここ数回の最終決戦ではそれを確保するのに相当苦労しており、北東部北西部への侵攻を許していた事がその一因となっていた。
それまで勇者一行はアドラブルとの戦闘において個人戦闘能力が重視されていたため、そちらを伸ばすやユニーク装備を集める事を優先としていたが、勇者は今周回の方針をがらっと変えて帝国軍の強大化を図りこの状況を打破する事にした。序盤、勇者一行の個人強化は程々に、帝国軍増強をメインに据えて帝国内の反乱鎮圧を中心に行動したのだ。(ゆえに現在の勇者一行の平均レベルは20を超える程度で、聖剣他もユニーク装備も何も無いため個人戦闘能力としてはそれなりに強い冒険者一行程度の実力しかなかった)
しかし、勇者は指揮官としてもステータス上ではそれなりに有能であったため、帝国兵を増やして早期に帝国軍を魔王軍にぶつけても面白いのではないかと思った。
もしかしたらそこには、今後の周回に向けてより良いチャートを組む要素があるのではないかと。それでこの帝国軍を強化して最終決戦に臨むルートを一度体験しておいてもいいのではないかと思ったため、このような
魔王軍が侵略地でとっていた戦術は単純明快だった。多数の兵で各貴族の本拠地である領都を包囲し、周辺各地へ援軍を出せなくして、残りの兵で無防備な周囲の町や村を略奪する。
領都は略奪出来た時の旨味も大きいが、貴族の見栄や保身のために立派な城壁を備える事が多く、まず基本的に防御力が高かった上にゴブリン兵は城攻めが苦手だったのでより苦戦が予想された。その上、領都では領地を治める貴族の中核兵が存在していたために、城攻めを行えば激しい抵抗とそれに伴う甚大な被害が予想された。
そのため包囲のみという戦術が採られる事となった。
一方で貴族の規模にもよるが子爵男爵程度だと数百も常備兵がいればいい方であり、伯爵でも千を多少超える程度であろう。ゴブリンは弱いとはいえその包囲軍は10倍以上いるため、包囲している敵陣…魔王軍に突撃するのは頼みとなる城壁も利用できないため中々難しいものがあった。そして何よりも、包囲するだけで領都には攻撃をしてこないのだから、大多数の臆病で怠惰な貴族達は自分たちの保身のために決して兵士達に出撃を許さなかった。その方針は多数の市民を抱える都市防衛の観点からは決して間違ったものではなかったが。
そして、その無抵抗な貴族領を思うままに略奪し尽くした魔王軍は、得る物が無くなったとみるやその地を放棄し、他の貴族の領地に移動してまた領都を大軍で包囲し同様に周囲を略奪する…を繰り返し、各領都を除く北東部を焼け野原にしていった。
次の領地を攻める際にそれまでの領都の包囲を解いたら、他の貴族領を襲っている時にそれまで襲撃していた領都に駐留している兵達が援軍に来てしまうのではないかと危惧する方もおられるかもしれない。
いやいや、自らの領地を散々に荒らされた後の貴族に、他の貴族を援護するなどという義理も余裕も無かった。その貴族の荒らされた各地でかろうじて生き残っている民を保護し、各地の治安を回復してまた税収があがるように整備していく必要があったのだから。それに侵略してきた敵兵であるゴブリンは規律が薄いため、他の領地への転進命令に従わず目の前の貴族領に留まり続けて略奪を継続したゴブリン兵もそれなりにいた。それらの排除する兵力も必要であった。
他所への援軍を派遣する余裕などとても無かった。
そんな展開であるので、魔王軍は領都の包囲に多数の兵を充てる必要があったものの、ほぼノーリスクで各地を略奪してまわっていたのだった。そこに緊張感は無く、規律も緩みまくっていた。
そんな中で勇者率いる帝国軍は北東部に到着した。
目の前にはとある子爵領の領都を囲む一万近いゴブリン兵が無防備な後背を晒している。
勇者と呼ばれる男はモブ指揮官に全体の指針と指示を出すと、
「勇敢なる帝国兵たちよ、ここはやつらゴブリンどものいるべき場所ではないことを思い知らさせてやれ。
行くぞ、全軍突撃しろ!」
自らは先陣を切って全軍突撃させた。
正規兵とゴブリン兵では、普通に対峙した場合は1対1ならばまず正規兵が負ける事は無いだろう。1対2でもそれなりに良い勝負になるだろう。それくらい正規兵とゴブリン兵には戦闘能力にまず差がある。軍隊行動となれば更にだ。規律など無いに等しいゴブリン兵であるのならば、戦場にて正規兵で構成された軍隊と戦うとなれば少なくとも倍の兵数をぶつける形が求められる。
ゴブリンは森の種族であるため、森などの足場が悪かったり視界が悪かったりする場所では、正規兵相手でもそれなりに戦えるが、ここは城の周りの拓けた土地である。そんなところで、無防備な後背を晒した規律など無いに等しいゴブリン兵どもを相手に兵として優秀な帝国兵が数ですら上回って攻撃する。
もうそこに細々とした戦術など不要で、ただ勢いのままに突撃するのが正しいのを勇者は感覚で分かっていた。
この突然の背後からの襲撃により元より大した規律も無かったゴブリン兵は動揺の末に右往左往し、魔王軍指揮官は立て直す事など出来なかった。そしてゴブリン兵たちはロクな抵抗も出来ないまま枯れ草を刈るように帝国兵に狩られていった。その様子を見た城内から少ないながらも領兵も出陣した結果、更に挟み撃ちの状態になり戦場の趨勢は決定的なものになった。
勇者率いる帝国軍は、この子爵領の領都を包囲していたゴブリン兵をさしたる被害も出さずに壊滅することに成功した。
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