第二部 第20周回
第16話 20周回目の勇者
第二部書き終わったので投稿します。
第15話とこの第16話の間に、第一部に登場した用語や人物(特に容姿についての描写が薄かったのでその辺を多めに入れたつもりです)の説明及び紹介回を入れてあります。良かったらどうぞ。
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第20周回 1月1日帝都近郊某所
「だあああああ!何だいきなり。急に強くなったぞ、あのおっさん。ラスボスによくありがちな第二形態ってやつか?でもそういうのって大抵見た目自体も変わるし、生命力がある一定より減った状態でなるもんだけどなぁ。今回、ほとんど減らしてないし外見も変わってないのに、急に強くなるとかおかしいでしょ。」
地団駄踏んで悔しがる勇者と呼ばれる男。
「つうか、今回から急に挑発に全く釣られなくなった護衛隊といい、交戦直後に第二形態になるアドラブルといい、一気に難易度上げ過ぎやろう。ちょっと
神とやらが本当にゲームマスターであるのかどうかはさておき、この場にいない神に対して一通り罵声を浴びせる勇者と呼ばれる男。それで気も収まってきたのか、少し大人しくなった。
勇者召喚の光が収まり辺りが暗くなる。勇者召喚に沸き立つ周囲の人間たち。だが、それも毎度のことであるのでその男…勇者は全く気を惹かれなかった。
前回…第19周回の最終決戦で色々変わってしまった…一気に難易度が上がった事に暴言を吐きつつも、今回の周回では最終決戦までどういう道のりでアプローチしていくのが最適なのかを考えていた。それを考える事は男が一番好きなことではあるので、言葉とは裏腹に楽しくて楽しくてもう頭の中はそれでいっぱいだった。
男は、元の世界ではRTA(リアルタイムアタック)と呼ばれるゲームの特殊な楽しみ方の一分野において、その界隈では有名な
1分1秒でも短時間でクリアするためにゲームクリアまでの最適な行動を吟味し、そのルートを定め、その決めたルートを予定通り行動できるように何度も繰り返し練習しタイムを削る。そしてそのタイムを競う。そんな遊びだ。
尤もこの世界に関しては、まず全ての情報が出揃っている訳ではない。それゆえに、選択肢自体を手探りで探していき、その上で自分で見つけた選択肢を吟味し最適と思われるルートを策定していく事になるが、まずそれ自体を男は楽しんでいた。その上で、普段行っている
そして1分1秒を削っていくRTAとは少し違うが、1年という限られた時間を有効に使うために無駄を削っていく行為はRTAの本質と似通っているし、未だ知らない有効手段を探しながらチャートの組み合わせを考える事は、男にとってまたとない楽しいものであった。
アドラブルは男の事を変化を恐れない敬意を払うべき男と評したが、何てことは無い。その男にとってはまだやった事の無い自分の大好きなゲームをしているという感覚だった。
今のところゲームのような世界という感覚が、逆にどこかで必ずクリアできる方法が用意されているという意識に繋がっており、20回近くも1年間をやり直すという繰り返しにも心が折れない…どころかむしろ楽しんでおり、極めて良い方向に作用しているといえよう。
ただし、この男のこの世界に対するこの感覚が今後も吉と出るかあるいは凶と出るかはまだ誰にも分からない…。
「勇者様、よくぞこの世界に…」
と毎度の如く第一皇女ルクレリナが言い始めたところで、男は手で発言を制止させる。
男はこの世界をゲームのような世界と捉えていると言ったが、この世界の住人はAIで自分が相手に対して何をしてもいいと思うような頭のネジがぶっ飛んでいる人間ではなかった。なぜなら言葉尻一つ変えるだけ…ましてや同じ言葉でも乗せる感情を少し変えるだけで、ちゃんと違う反応をするのだから現実世界にいる人間一個人と同様と感じまたそのように接していた。
ゲームのような世界だが、ゲームではなくここにいる人間は皆リアルに存在する世界なのだと。
とはいえチャートはチャートである。リアルな人間は乱数で行動を変える事もまたないので、同じタイミングで決まった反応をすれば必ず決まった反応を返す。
確かに気分屋や
そしていつもの予定通りの行動を男は第一皇女ルクレリナとグランツ軍務大臣にしていく。
内心ではこんな会話をさっさとほっぽりだして、今回の周回に対するチャート生成に対してあーでもないこーでもないとじっくり検討したかったが、今後の事を考えれば既に確立させた序盤の最適化済行動パターンは逃せない。
頭の中は新しいチャートに気を取られつつも前回のように第一皇女ルクレリナとグランツ軍務大臣を動かして、序盤の
20周回目、男にすれば一気に難易度が上がったこの世界だが、まだまだやる気である。
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