第17話 20周回目の魔王軍
第20周回 1月2日 魔王城総司令部
新魔王就任式から一夜明けた2日目。
いつもであれば、魔王陛下就任後の訓示及び初指令を行っている頃だが、それを午後一に後ろ倒し―前夜の新魔王就任の宴で飲み過ぎて二日酔いの者が多かったので、これ自体は歓迎された―にして、午前中は勇者対策会議の面々を総司令部に呼び出していた。
ハキム『閣下!次の周回を無事迎えたという事は、やりましたな…』
エルデネト『閣下、我らが考えた作戦の成果はいかがでしたでしょうか。ささ、勿体ぶらずに早う教えてくださいませ…』
ボルガン『なんのなんの、我ら護衛隊は今度こそ汚名返上してみせた事でしょう。我ら護衛隊こそが勲功第一位かと。我らの奮闘ぶりをとくとご紹介あれ…』
タリアト『憂いの表情を浮かべる推しもいいが、無邪気に喜んでいる推しが尊すぐる…』
目を瞑れば、勇者対策会議の面々がそう言ってくれていたであろう姿が容易に脳裏に浮かぶ。そして、目を開ければそこには私を含めいつもの5人の姿がある。
だが勇者対策会議の5人ではない。いや、正確に言うとまだ勇者対策会議の5人ではない。目の前に座る4人は不思議そうな表情を浮かべながら、私が彼らを集めた理由を話し始めるのを待っている。私がタリアトに命じこの4人を集めさせたのだが、現時点ではこの集められた4人に共通項なぞ何もないのだから。
堪える…これは堪える。
この4人に対して労をねぎらいたかった。お前らの作戦はうまくいったぞ、と。護衛隊の努力の跡は顕著だったと。実に見事であったと。私は非常に心強かったと。勝利の喜びを分かち合いたかった。そしてそれをもって次の周回への糧としたかった。
前回までの出口が見えない孤独の奮闘も辛かった。
だが、今回のこれもまた違った孤独感を際立たせるものだ。あの男…勇者もまた毎回この苦痛を…いや毎回どのように乗り越えてきているのだろうか。
アドラブルは知らない。
召喚された勇者とは全く別の世界の住人である事を。そしてこの世界に対してゲーム感覚であるがゆえに周回毎の想いをひきづる事が無いことを。そして異世界より召喚されたがゆえにこの世界の住人と元々の繋がりがある訳でもなく、対人関係が毎回0にまでリセットされる事もそれに一役買っていたであろうか。
私は、目の前の4人に今日何故呼んだのかを話し始めた。勇者を倒しては勇者は時間を戻して蘇ってくる、そしてまた挑んでくる勇者を倒す…を繰り返すという一連の流れを目の前の面々に説明した。そして、前回からはこのメンバーで勇者の対策を行う事にして、それが見事にハマって勇者を楽に撃退する事に成功した事を皆に話し、感謝の意を伝えた。しかし、目の前の4人の反応は前回と違い、私が思っていた反応とは違っていた。
「そうですか。なるほど、
ハキムは割とのんびりとした調子でそう答えた。もどかしい。
他人事…とまではいかないまでもそこまでの危機感が無いようだ。前回のハキムであれば、もっと打てば響くように反応してくれていた。これならば情けなくタリアトに心のうちを明かした前回の展開の方がマシであったように思える。
「んー、そうですなぁ。少なくとも前回の序盤の行動はやった方が良さそうですね。この後、訓示がありますよね?側近達に前回と同様に指令をお出しください。」
エルデネトはハキムよりはマシか。私の話を信じてくれたのかはよく分からないが、諜報部隊長としての視点から最適解を考えてくれているようだ。作戦や謀略を考えるのが好きなだけかもしれないが。
―――とくとくとく
タリアトが紅茶を淹れてくれている。
美味しい。美味しいが、タリアト自体はなんで自分がこの場に呼ばれたのかがよく分かっていないようだった。私の話自体は興味深く聞いてくれてはいたが。
「…。」
護衛隊長ボルガンは無言だ。目を瞑ったまま黙して語らず。
恐らく不満と不信の塊なのだろうな。精鋭中の精鋭たる自分達護衛隊より遥かに強いと言われた人類である勇者一行のその強さにも存在自体にも。勇者一行に対するとても信じ難い情報とそれをもたらしたアドラブルへの今までの敬意と信頼とが、心中で戦っているのだろう。もしかしたら今のボルガンには、アドラブルが乱心してしまったという話の方が、信憑性があるかもしれない。
前回への想いを引きづるアドラブルが、序盤の最適な行動パターンを確立するまではまだまだかかりそうな雰囲気だった。
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