第80話 奇襲
最終周回 6月 帝国領北部街道 アドラブル
―――うおおおおおおっ!!!
後方で突如鬨の声が上がった。
義勇軍が来るには早過ぎると思いながら、そちらを確認すると帝国正規軍らしき旗指物が見える。数は数千…三千強くらいか。
先頭に立って斬り込んでこようとして来ている純白の鎧に身を包んだ女性には見覚えがある。帝国の第一皇女とやらだ。斥候による偵察結果では、正規軍(王都警備兵ではない)が構成に含まれているという報告は受けていない。恐らく義勇軍と同時に帝都を発つも道中は別行動をしていたのだろう。もしくは義勇軍の中において巧妙に隠しながら、直前で義勇軍本隊から離脱して義勇軍を置いて先に戦場に到着したか。
最終決戦でも決死隊を率いて先陣を切って突撃してくる程の跳ねっ返りだ。無策に義勇軍を魔王軍に当てては敗退するという状況に我慢がならなかったのかもしれないな。それで帝国の帝都にいる正規軍の一部を率いてきたというところか。もしくは第一皇女という身分ある者を援軍として送り出すのに、その構成兵が義勇兵だけという訳にはいかなかったのだろう。義勇兵だけでなく帝都に残る正規軍のうちの一部を第一皇女につけて援軍に出してきたのだろう。
そして第一皇女は義勇兵を置いて先に戦場に到達した。そんなところだろう。しかし、決死隊を率いてきたという訳では無さそうだ。とはいえ、相手は帝国軍正規兵。侮る事は出来ない。そしてもしかしたら強行軍で多少疲労している可能性はあるが、少なくとも連戦の疲れは無い。
そして、決死隊を毎周回見てきたが第一皇女はそれなりに優秀なのだろうな。配下の士気も高そうだ。後方で奇襲に気付いた指揮官が周囲のゴブリンを統率して、迎撃に当たろうとしている。が、ダメだ。ゴブリン達は突如後方からの奇襲に浮足立っているのが丸わかりで、上手く迎撃できていない。
精鋭部隊を後方に置いたままだったら、精鋭部隊をあの奇襲部隊にあてて、精鋭部隊以外の全軍が勇者陣を引き続き攻撃する…で乗り切れたかもしれないが、精鋭部隊は前線に出したばかりだ。そこをまたもう一度後方に戻して迎撃させるのは戦場に多大な混乱を招くだけなので、それは流石にできないな。仕方ない、更に前掛かりになるしかないか。
本陣より何名かを後方指揮をとらせるために指示を与え派遣する。そして一方で前線部隊は引き続き、より一層激しく攻撃するように指示を出した。
しかし、結果は芳しくないようだ。指示が届いた瞬間は、ちょっとだけ良くなったように見えたが、時間が経つにつれて魔王軍全体に後方が攻撃されているという動揺が波及しつつあり、先程まで攻め落とすまであと僅かと思われていた前方の勇者陣への攻撃も見るからに精彩を欠き出している。まずいな。
見たところ精鋭部隊は動揺も少なくフレッシュなため、勇者陣の左翼を圧倒出来ているようだ。本当はそこを皮切りに勇者陣全体を制したかったが、この展開になってしまえばやむをえまい。
「もうすぐ左翼を突破できる。左翼突破して、そこで全軍を立て直す。皆の者、あと少しだ。最後の力を振り絞って前進するのだ!」
―――おおーっ!
前を攻めながら後ろから攻められており、どうしていいか分からないゴブリンたちは少なからず動揺していたが、改めて前を攻めて突破するという方針を示され、動揺は少し抑えられたようだ。魔王国方面へ前進するという指示も良かったのかもしれない。魔王軍全軍は少し持ち直したようだ。
そのうちに精鋭部隊を中心に敵左翼陣を陥落させる事に成功した。そして精鋭部隊はそのまま左翼陣を占拠、確保維持するためにその場所に留まったようだ。
流石の精鋭部隊だな。帰国したならば大いにねぎらってやらねばなるまい。
さて、全体を見れば今のところなんとか持ち直して戦えているが、後方からの奇襲の動揺が大きくまたいつ崩れるかも分からない。敵の左翼陣を確保しているのだから、欲をかかずに左翼陣を通して全軍を撤退させるとするか。
そこで、アドラブルは魔王軍の左翼を担当する部隊から左翼陣を抜けて撤退するように指示を出した。しかし結果的にこれが誤りだったかもしれない。
指示する前から精鋭部隊は、友軍が勇者陣の向こう側に撤退するのを支援しているようだ。しかし、撤退…この不利な戦場から逃げられると分かった魔王軍のゴブリン兵は、逃げることに意識が集中し敵への攻撃も散発的になってしまった。そしてそれはアドラブルがまず撤退うる部隊と想定した魔王軍左翼軍だけでなく、全体に波及してしまった。中央軍も右翼軍もだ。敵左翼を撃破しているのは分かっているから中央の魔王軍も右翼の魔王軍も全体的に左方面へと逃げ腰になった。しかしそれぞれの正面に位置している勇者陣からの攻撃は続いているわけで、左翼側に逃げようとする魔王軍はどうしても今までの戦いよりも被害が大きくなる。
アドラブルも前線に出て、立て直しながら撤退をサポートするが上手くいかない。一旦逃げ腰になると、なかなか意識を戻せないものだ。そして反撃があまり来ないと気付いた勇者軍は思い切って攻めてこれるものだ。
だが、魔王軍の苦境はこれだけでは終わらなかった。
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