第57話 雌雄を決するとき

第22周回 12月31日午後 エルデネサントの野 勇者と呼ばれる男


メルウェルの放った極光魔法(という名前の魔法らしい、後で聞いた)は、その直線上にいる敵兵全てを消滅させながら丘上の魔王軍本陣へ一直線に向かっていく。

この直線上にアドラブルがいるか分からんけど…いや、たまたまこの光線の直線上にいる可能性なんてとても低いだろうけど、もしいるならそのまま倒してしまうんじゃないかと思える威力だった。

空気を読めないメルウェルだからこそ、逆にそんな展開もありうるのでは?と希望を抱かせる思わせたその極光魔法は敵本陣の正面簡易門を根元からぶち折りながらなおも突き進んだところで


―――バババババッ!


極光魔法が何かとぶつかったのかそのような大きな音とともに1~2秒押し合いになっていたようだがその後


―――バイーン!!!


というそのぶつかった何かが弾かれたような衝撃音とともに、極光魔法は逸らされてしまったのかそこから上方向…上空に向かい、そのまま天高く雲を突き破って行ってしまった。


「つーか、なんちゅう威力だ。」


横にいるタスクは呆れたように光線が消えていった上空の雲にぽかんと穴があいた様子を見上げている。周囲のみんなも大体そんな感じで空を見上げている。

気持ちはわかるが、極光魔法が通った後に敵本陣までの道が出来ている。今のうちに敵本陣に突入すべきだろう。勇者は道を指し示した。


「道は開かれた。みんな行くぞ、突撃だ。」


すると皆我に返ったようで移動する様子を見せた。そして勇者が先頭に立っていざ敵本陣へ向かおうとした時だった。


「ぜぇはぁ。ちょ、ちょっと待って。今むりぃ…。」


と弱弱しい声に止められる。

振り返るとそこにはへろへろになって今にも倒れそうなメルウェルがいた。顔色は悪く、その顔からは汗がだらだらと流れている。一目で分かる典型的な魔力切れだ。


…あんな魔法使えばもあらんという感じだ。


っていうか、あの割と感動レベルのすごい魔法を見てしまって忘れていたけど、君は魔力温存しろって言われた直後だったよね?まぁ、こうやって敵本陣への道が出来たから無駄ではなかったけど、元々メルウェルの魔力を温存するために一旦休止したのに、逆に自分だけ一気にアクセル全開にしてガス欠のエンストまで一気に行くってどういう事よ!?

といった感じで勇者はジロりとメルウェルを見た。


「だって、私の見せ場はここしかないって脳内のメルウェルが…」


はぁぁ。溜め息しか出ない。とはいえ今更か。


とにかくこの機を逃すべきではないし、メルウェルが多少休憩したところで、ラスボスであるアドラブル相手に満足な魔法が撃てる訳ではなさそうだし、メルウェルは置いていくしかないか。対アドラブル戦の終盤で魔力が回復して復帰ってパターンがワンチャンあるかも?ってくらいで。


「メルウェル、お前はここでしばらく休んでろ。動けるようになったら来い。よし、みんな行くぞ!」


―――オオーッ!


メルウェルを置いて、勇者一行は魔王本陣へと続くなだらかな上り坂を駆けあがる。決死隊も半分くらいはついてくるようだ。残り半分の決死隊メンバーは先へ進む勇者一行が孤立しないように、このあたりでを死守するべく動くようだ。


魔王本陣入口の木製の扉は根元を残して吹き飛んでおり、それ以外の周囲の様子も凄惨な姿があちこちに見られ、メルウェルの極光魔法のすごさを改めて思い知る。そしてその先にはいつもアドラブルの傍にいた護衛兵のうち3人が息はまだあるようだが、もう戦闘などとてもできそうにない姿で倒れていた。その近くには半ば溶けて赤熱状態になっている白銀の盾が3つ見える。


あの盾で防いだのか?というか、よく防ごうという気になったな。しかし、あの程度の盾ではあの魔法は防げないと思うが…何か他に機構があったのか?まぁいいか。

あの護衛兵達が厄介なのは分かっているから、本当は確実にトドメを刺しておくべきなのかもしれないが…やめておこう。もうこの戦闘中に復帰する事は無さそうだし、負傷兵のままの方が救助する事に敵兵の手がとられるからな。本当だぞ?現に他の無傷の護衛兵がやられた護衛兵を後方に運ぼうとしているのも見えるし。


そんな感じで周囲の様子を窺いながら状況確認をしていると正面の一際大きくて立派な天幕から、黒光りする角を額からはやした偉丈夫が側近を引き連れて出てきた。自分以外の皆はアドラブルは初見のはずであるが、言われずとも分かるのだろう。その圧倒的存在感に皆の間で緊張が走る。だが、俺は武者震いが止まらないっ。


さぁ、アドラブルよ。ラストバトルを…今度こそ決着を付けようか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る