「パリの風と乙女心」
さくらハウスのリビングに、華やかな空気が漂っていた。一週間の海外出張から帰ってきたにこが、大きなスーツケースを引きずりながら部屋に入ってくると、澪と詩音が興奮気味に出迎えた。
にこは、長旅の疲れも見せず、完璧なメイクと髪型で現れた。彼女の身に纏うシャネルの香水の香りが、パリの洗練された空気を運んできたかのようだ。
「ただいま、みんな! パリはそれはそれは素敵だったわ」
にこが嬉しそうに言うと、澪と詩音は顔を見合わせて微笑んだ。
「おかえり、にこ。きっと素敵な思い出がいっぱいできたんでしょうね」
澪が言いながら、にこのスーツケースを持つのを手伝った。彼女は休日らしく、ゆったりとしたカシミアのニットワンピースを着ていた。その素材の上質さは、触れただけでわかるほどだ。
「うん、帰ってきてくれて嬉しい! お土産、期待しちゃっていい?」
詩音が、少し甘えたような声で言った。彼女は大きめのTシャツとレギンスという、いつものラフなスタイル。しかし、その素足にはネイルアートが施されており、パステルカラーの小花が可愛らしく描かれていた。
にこは満面の笑みを浮かべながら、スーツケースを開け始めた。
「もちろんよ。みんなのことを考えながら、いろいろ選んできたの」
彼女がスーツケースから取り出したのは、パリの高級ブランドの紙袋やボックスの数々。そのロゴだけで、澪と詩音の目が輝いた。
「まずは、澪のために選んだものよ」
にこが言いながら、エルメスのオレンジ色のボックスを取り出した。
「まあ、エルメス!」
澪が驚きの声を上げる。
「ええ、あなたにぴったりだと思って。開けてみて」
澪が慎重にリボンをほどき、ボックスを開けると、中から上品なベージュのカシミアストールが現れた。
「わぁ……これ、素敵」
澪が感動した様子で、ストールを広げる。その柔らかな手触りと、上品な色合いに、思わずため息が漏れた。
「仕事でも、プライベートでも使えるわよ。澪の知的な雰囲気にぴったりだと思って」
にこが嬉しそうに説明する。
「ありがとう、にこ。大切に使うわ」
澪が心からの感謝を込めて言った。
「次は詩音ね」
にこが言いながら、今度はディオールのピンク色の紙袋を取り出した。
「わぁ、可愛い色!」
詩音が目を輝かせる。
「開けてみて。きっと気に入ると思うわ」
詩音が紙袋から取り出したのは、ディオールの限定メイクパレットだった。パステルカラーのアイシャドウと、ナチュラルな色味のリップカラーがセットになっている。
「すごい! これ、日本じゃ手に入らないやつだよね?」
詩音が驚きの声を上げた。
「そうよ。パリ限定のコレクションなの。詩音の可愛らしさを引き立てつつ、大人っぽさも演出できると思って」
にこが得意げに説明する。
「ありがとう! 早速使ってみたい」
詩音が、子供のようにはしゃいだ。
にこは次々とお土産を取り出していく。フランスの老舗香水ブランドのミニボトルセット、パリのカフェで買ったおしゃれなマグカップ、エッフェル塔モチーフのキーホルダーなど、センス溢れるアイテムの数々に、澪と詩音は目を輝かせた。
「そして、これは三人で使えるものよ」
にこが言いながら、大きな箱を取り出した。
「これは……」
澪が箱を開けると、中から高級なティーセットが現れた。繊細な花柄が描かれた白磁のカップと、金色の縁取りが施されたポットのセットだ。
「パリの老舗カフェで使われているものと同じものよ。これで、私たちもパリの雰囲気を味わえるわ」
にこの言葉に、三人は顔を見合わせて微笑んだ。
「素敵ね。今度の女子会で使いましょう」
澪が提案した。
「うん、楽しみ!」
詩音も嬉しそうに頷いた。
三人は、にこの買ってきたお土産を囲んで座り、パリでの思い出話に花を咲かせた。にこは、シャンゼリゼ通りでのショッピング、エッフェル塔の夜景、セーヌ川沿いの散歩など、まるで夢のような一週間を生き生きと語る。
澪と詩音は、にこの話に聞き入りながら、それぞれのお土産を手に取っては感触を確かめたり、香りを楽しんだりしていた。
「でも、パリの女性たちって本当に美しいのね」
にこが少し感慨深げに言った。
「ナチュラルメイクなのに、どこか品があって……私も少し影響を受けちゃった」
彼女は自分の化粧ポーチを取り出し、新しく買ったコスメを見せ始めた。
「これ、パリジェンヌに人気のリップよ。ナチュラルな発色だけど、つけ心地が最高なの」
にこが言いながら、薄いピンク色のリップを澪の唇に軽く塗った。
「わぁ、確かに自然ね。でも、なんだか色っぽい」
澪が鏡を覗き込みながら言った。
「そうそう、それがパリジェンヌの魅力なのよ。自然なのに、どこか色気がある」
にこが得意げに説明する。
「詩音にも似合うわよ。ほら、つけてみましょう」
にこは、今度は詩音の唇にリップを塗った。
「うわぁ、なんか大人っぽくなった?」
詩音が驚いた様子で言う。
「そうよ。メイクってね、その人の魅力を引き出すものなの。パリの女性たちは、それをよくわかっているの」
にこの言葆に、澪と詩音は真剣に聞き入った。
「でも、美しさって外見だけじゃないわよね」
澪が少し考え込むように言った。
「そうね。パリの女性たちって、内面からの自信に満ちているように見えたわ」
にこが同意する。
「どうやったらそんな自信が持てるんだろう」
詩音が少し不安そうに言った。
「それはね、自分を大切にすることから始まるのよ」
にこが優しく言う。
「例えば、毎日のスキンケアを丁寧にする。好きな香りに包まれる。自分に似合う服を選ぶ。そういった小さなことの積み重ねが、自信につながるの」
澪と詩音は、にこの言葆に深く頷いた。
「そうか、だから外見を磨くことも大切なんだね」
詩音が気づいたように言った。
「でも、それだけじゃないわ」
澪が付け加える。
「内面を磨くことも同じくらい大切よね。新しいことに挑戦したり、自分の価値観を大切にしたり」
「そうそう、その通りよ」
にこが嬉しそうに言った。
「パリで感じたのは、そういった内面と外面のバランスが取れている女性たちの美しさだったの」
三人は、お互いの顔を見合わせて微笑んだ。にこのパリ土産は、単なる物だけでなく、新しい価値観や気づきももたらしてくれたようだ。
「よし、私たちもパリジェンヌに負けないくらい素敵な女性になりましょう」
澪が決意を込めて言った。
「うん! でも、日本女性ならではの魅力も大切にしながらね」
詩音が付け加えた。
「そうよ。私たちなりの美しさを見つけていきましょう」
にこが満面の笑みで言った。
さくらハウスのリビングは、パリの洗練された空気と、三人の若い女性たちの希望に満ちた雰囲気で溢れていた。にこの海外出張土産は、単なるモノ以上の価値あるギフトとなったのだった。
(了)
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