女三人、癒しとときめきのルームシェア ～澪と詩音とにこ～

「夕暮れのストレッチ」

「夕暮れのストレッチ」

　さくらハウスのリビングに、疲れ切った様子で鷹宮澪が帰ってきた。彼女は普段のきりっとしたスーツ姿とは打って変わって、肩を落とし、髪も少し乱れている。

「ただいま……」

　澪の声に、小鳥遊詩音と月城にこが顔を上げた。

「おかえり、澪。今日も大変だったの？」

　詩音が心配そうに声をかける。彼女は床に座り込み、スケッチブックを膝に乗せていた。大きめのTシャツとレギンス姿で、髪は無造作にまとめられ、顔には軽いナチュラルメイクが施されている。

「本当に、顔色が悪いわね」

　にこも心配そうに言った。彼女はソファに座り、雑誌を読んでいたが、澪の様子が気になって集中できずにいた。にこは家でもおしゃれを欠かさず、シルクのブラウスに上質なリネンのパンツを合わせ、首元にはさりげなくパールのネックレスを着けている。

「うん、今日はずっとデスクワークで。肩と首がパンパンよ」

　澪がため息をつきながら言った。

「あ、それなら私がいつもやってるストレッチ、試してみない？」

　澪は少し驚いた表情で詩音を見た。

「詩音がストレッチ？　珍しいわね」

「うん、最近始めたんだ。結構効くよ」

　詩音が立ち上がり、スケッチブックを置いた。

「私も興味あるわ。一緒にやってみましょう」

　にこも雑誌を閉じ、立ち上がった。

　三人は、リビングの真ん中に集まった。夕暮れの柔らかな光が窓から差し込み、部屋を優しく照らしている。

「じゃあ、まずは深呼吸から始めよう」

　詩音が指示を出す。三人は目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整え始めた。

「息を吸いながら、両手を上げていくの」

　詩音の声に合わせて、三人はゆっくりと両手を上げていく。にこの動きは優雅で、まるでバレリーナのようだ。澪は少しぎこちないが、真剣な表情で取り組んでいる。

「そして、息を吐きながら、前屈していくよ」

　三人がゆっくりと前屈すると、にこが小さな悲鳴を上げた。

「あら、思ったより硬いわね」

「にこ、普段運動不足なんじゃない？」

　澪が少し意地悪な笑みを浮かべて言う。

「黙っていらっしゃい。私だってヨガくらいはしてるわよ」

　にこが少し拗ねたように言い返す。

　詩音はクスクスと笑いながら、次のポーズに移る。

「次は、肩を回していくよ。ゆっくりと大きな円を描くように」

　三人は肩を回し始めた。澪の表情が少しずつ和らいでいく。

「あ、少し楽になってきた気がする」

「でしょう？　私も最初は半信半疑だったんだけど、続けてみたら結構効果があるんだよ」

　詩音が嬉しそうに言う。

　ストレッチが進むにつれ、三人の動きも徐々にスムーズになっていった。にこは完璧主義な性格から、細かい動きにもこだわりを見せる。澪は効率重視で、素早く正確にポーズをこなそうとする。詩音は自由奔放に、時には自分なりのアレンジを加えながらストレッチを楽しんでいる。

「ねえ、このストレッチ、どこで覚えたの？」

　澪が詩音に尋ねた。

「YouTubeだよ。最近、健康系の動画にハマってて」

「へえ、詩音らしくないわね」

　にこが驚いた様子で言う。

「でも、健康って大事だなって最近思うんだ。仕事のパフォーマンスにも影響するし」

　詩音の言葉に、澪とにこは深く頷いた。

　ストレッチが進むにつれ、三人は自然とその日あった出来事を共有し始めた。

「今日ね、新しいクライアントとの打ち合わせがあったの」

　澪が言う。

「それで、緊張しすぎて、朝からずっと肩に力が入ってたのよ」

「大変だったわね。でも、きっと上手くいったんでしょう？」

　にこが優しく言う。

「うん、なんとかね」

　澪が少し照れくさそうに答える。

「私は今日、新作のアイデアが全然浮かばなくて」

　詩音が言う。

「それで、イライラしてたんだけど、このストレッチを始めたら、少しずつアイデアが湧いてきたんだ」

「そうなの？　素晴らしいわ」

　にこが感心したように言う。

「私も、今日は店でトラブルがあって……」

　にこが話し始める。三人は、体を動かしながら、それぞれの一日を振り返り、共有し合った。

　ストレッチが終わりに近づくころ、三人は深い呼吸を繰り返した。

「最後は、目を閉じて、深呼吸をしながら、今の気分を感じてみて」

　詩音の声が静かに響く。

　三人は目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。窓から差し込む夕暮れの光が、彼女たちの表情を柔らかく照らしている。

「はぁ……すっきりした」

　澪が目を開けながら言った。

「本当ね。体が軽くなった気がするわ」

　にこも同意する。

「でしょう？　これ、毎日続けると、もっと効果があるんだよ」

　詩音が嬉しそうに言う。

　三人は顔を見合わせ、笑い合った。

「ねえ、これからは毎晩やってみない？」

　詩音が提案する。

「いいわね。仕事の後のリフレッシュになりそう」

　澪が賛同する。

「私も参加するわ。美容にも良さそうだし」

　にこも頷いた。

　夕暮れの柔らかな光の中、さくらハウスの三人は新たな習慣を見つけた。それは単なるストレッチではなく、お互いの一日を共有し、心も体もリフレッシュする大切な時間となった。

　窓の外では、夕日が美しく沈んでいく。三人は、この瞬間が特別な時間であることを感じながら、明日への活力を得ていた。

（了）