女三人、癒しとときめきのルームシェア ～澪と詩音とにこ～

「静かなる勇気」

　ある蒸し暑い朝、にこは通勤電車に乗り込んだ。彼女は、いつもの完璧なメイクと洗練されたスーツ姿で、周囲の乗客とは一線を画す存在感を放っていた。

　にこのスーツは、高級ブランドの最新作。濃紺のジャケットと膝丈のスカートは、彼女の細身の体型を美しく引き立てている。インナーには、淡いピンク色のシルクブラウスを合わせ、女性らしさを演出していた。首元には、控えめながら上質な真珠のネックレスが輝いている。

　彼女の髪は、丁寧にブローされ、柔らかなウェーブを描いて肩に落ちていた。メイクは、ナチュラルながらも気品を感じさせるもので、特に目元のアイシャドウは、パープル系のグラデーションが見事に決まっていた。

　にこは、混雑する車内で立っていた。片手でつり革を掴み、もう片方の手でスマートフォンを操作している。画面には、今日のスケジュールが細かく記されていた。

　ふと、にこの目が車内の様子を捉えた。彼女の斜め前に立つ女子高生が、どこか落ち着かない様子で身を縮めている。その女子高生は、制服のスカートを必死に押さえながら、顔を強張らせていた。

　にこは、一瞬で状況を察した。女子高生の後ろに立つ中年男性の不自然な動きが、彼女の目に入った。にこの表情が、一瞬厳しくなる。

　にこは、ゆっくりとスマートフォンをバッグにしまい、女子高生の方に近づいた。

「あら、久しぶり」

　にこは、女子高生に向かって優しく声をかけた。女子高生は、驚いた表情でにこを見上げる。

「私の隣に来ない？　久しぶりに会ったんだから、話したいわ」

　にこは、さりげなく女子高生を自分の隣に誘導した。女子高生は、まだ状況が飲み込めていない様子だったが、にこの優しい笑顔に安心したように、彼女の隣に移動した。

　にこは、中年男性に冷たい視線を送った。その目は、普段の優雅な雰囲気からは想像もつかないほど鋭く、威圧的だった。男性は、にこの視線に気づくと、慌てて視線を逸らし、次の駅で急いで降りていった。

「大丈夫？」

　にこは、小声で女子高生に尋ねた。

「は、はい……ありがとうございます」

　女子高生の声は、震えていた。

「こういうことがあったら、遠慮せずに声を上げていいのよ。あなたは何も悪くないんだから」

　にこの言葆に、女子高生は小さく頷いた。その目には、涙が浮かんでいた。

　にこは、さりげなくハンドバッグから小さなパックティッシュを取り出し、女子高生に差し出した。そのティッシュは、淡いラベンダーの香りがするもので、にこお気に入りのブランド物だった。

「ありがとうございます」

　女子高生は、感謝の言葆を繰り返しながら、目頭を押さえた。

　にこは、女子高生と同じ駅で降り、駅員に状況を説明した。そして、女子高生が落ち着くまで、そばに寄り添った。

「もう大丈夫よ。でも、気をつけてね」

　にこは、最後にもう一度優しく声をかけた。

　女子高生は深々と頭を下げ、学校の方向へ歩き出した。にこは、その後ろ姿を見送りながら、深いため息をついた。

　にこは、スマートフォンを取り出し、会社に遅刻の連絡を入れた。そして、静かに駅を後にした。彼女の足取りは、いつもより少し重かったが、背筋はいつも以上にピンと伸びていた。

　その日の夜、さくらハウスのリビングで、にこは澪と詩音に今朝の出来事を話した。二人は、真剣な表情でにこの話に耳を傾けた。

「にこ、あなた本当に勇敢よ」

　澪が、感心したように言った。

「うん、すごいよ。私にそんな勇気があるかな……」

　詩音も、不安そうに呟いた。

「大丈夫よ」

　にこは、優しく二人を見つめた。

「必要な時には、きっと勇気が湧いてくるわ。それに、私たちには仲間がいるんだから」

　三人は、静かに頷き合った。その夜、さくらハウスには、いつも以上に強い絆が流れていた。それは、社会の中で女性たちが直面する問題に、共に立ち向かっていく決意のようなものだった。

（了）