「湯船の中の女子会」

 さくらハウスの自慢は、三人が同時に入れる広々としたバスルームだった。この日、鷹宮澪、小鳥遊詩音、月城にこの三人は珍しく揃って入浴することにした。


 にこが最初に浴室に入った。彼女は高級シルクのバスローブを脱ぎ、丁寧に折りたたんでいく。その動作一つ一つに気品が感じられる。


「お湯の温度は、ちょうどいいわ」


 にこが湯船に足を入れながら言った。彼女の肌は磨き上げられたような艶を放っている。


 次に入ってきたのは澪だった。スポーツブラとショートパンツという普段のトレーニングウェアを脱ぎ、タオルで体を包む。筋肉質な体つきが、日頃の努力を物語っている。


「あぁ、今日は疲れたわ」


 澪が深いため息をつきながら、湯船に浸かる。


 最後に詩音がやってきた。大きめのTシャツを脱ぐと、柔らかな曲線美が露わになる。


「わぁ、気持ち良さそう」


 詩音が嬉しそうに湯船に入る。


 三人が揃うと、バスルームは柔らかな湯気と心地よい空気に包まれた。


「ねえ、みんなのお風呂グッズって何使ってるの?」


 詩音が興味深そうに尋ねた。


「私はね、フランスの老舗メゾンのバスソルトを愛用しているの」


 にこが答える。彼女は湯船の縁に置かれた、エレガントなガラス瓶を手に取った。


「ラベンダーとローズの香りがブレンドされていて、リラックス効果抜群よ」


「へぇ、素敵」


 詩音が感心したように言う。


「私は、オーガニックのボディスクラブを使ってるわ」


 澪が言った。彼女の隣には、シンプルでナチュラルなパッケージの容器が置かれている。


「天然の海塩とエッセンシャルオイルのブレンドで、肌がすごくなめらかになるの」


「私はね、韓国コスメのバブルバスを使ってるんだ」


 詩音が嬉しそうに言う。


「泡がふわふわで、まるで雲の上にいるみたい」


 三人は、それぞれのこだわりのバスグッズについて語り合った。にこの高級志向、澪の実用性重視、詩音のトレンド好きという、性格の違いがバスグッズの選び方にも表れている。


「でも、たまにはこうしてみんなで入るのもいいわね」


 にこが穏やかな表情で言った。


「そうだね。普段はバタバタしてて、ゆっくり話す時間もないもんね」


 詩音が同意する。


「確かに。こうしてるだけで、心も体もリラックスできる」


 澪もため息をつきながら言った。


### 章タイトル: 「湯けむりの絆」


 さくらハウスの広々としたバスルームは、薄暗い外の光がうっすらと差し込む中、柔らかな湯気に包まれていた。湯船の中で顔をほてらせる三人の女性たちは、それぞれの心地よいリズムで会話を続けていた。


「……そういえばさ、最近ちょっと疲れてきたわよね?」


 澪が静かに口を開いた。


「うん、わかるよ。毎日忙しいから、たまにはこうしてのんびりしたいよね」


 詩音が湯船の中で手足を伸ばしながら応じた。


 その瞬間、にこが笑みを浮かべた。


「ねえ、せっかくだから、今日は特別なお手入れでもしてみない?」

「なになに?」


 その提案に二人は興味津々の表情を見せた。

 にこは自慢のコスメバッグから、一つの小瓶を取り出し、キラキラと光るラベルが特徴的な「オーガニックアロマオイル」を見せた。


「これ、最近私がハマってるやつ。ちょっと贅沢だけど、肌がすっごく潤うのよ。今日はこれを使って、お互いに体を洗い合わない?」


 その言葉に、澪と詩音は少し戸惑いを見せながらも、にこの提案に同意した。

 三人は湯船から出ると、それぞれが柔らかなタオルで体を包み、にこの指導のもと、体を洗い始めた。


 にこがまず澪の背中に手を伸ばす。オーガニックアロマオイルを手に取り、軽く温めてから、優しく肌に塗り込む。澪の背中はスポーツで鍛えられたしなやかな筋肉が浮き出ており、にこはその手触りを確かめるように丁寧にマッサージする。澪はくすぐったそうに身をよじらせるが、にこの手のひらの心地よさに徐々に身を委ねた。


「やっぱり、誰かにお手入れしてもらうのっていいわね……普段、自分じゃここまで丁寧にできないもの」


 澪がリラックスした声で言った。


 次に詩音がにこの背中に手をかける。

 詩音の手は柔らかく、それでいて確かなリズムでにこの肌を撫でていく。詩音の目は少し夢見がちで、彼女はにこの背中に描かれる微細な線や肌のトーンの違いに興味を持っていた。詩音は韓国コスメの最新トレンドにも敏感で、その知識を活かしてにこにアドバイスをしながら、丁寧に彼女の肌をケアした。


「にこって、やっぱり肌が綺麗よね。いつもどうやってケアしてるの?」


 詩音が尋ねた。


「うふふ、秘密だけどね、実は夜は絶対にスキンケアをサボらないの。それと、日々の食生活も気をつけてるのよ。美容は外側だけじゃなくて、内側からもね」


 詩音がにこの話を聞きながら、彼女のスキンケア方法に真剣に耳を傾けていると、自然と二人の間にリラックスした空気が流れた。


 最後に澪が詩音の体を洗う番だった。澪は普段の真面目な性格とは裏腹に、手のひらで詩音の柔らかな肌を感じながら、慎重に彼女の背中を洗っていく。詩音の背中は小柄で、どこか無防備な印象があり、澪はその柔らかさに触れると、自然と優しい気持ちになった。


「詩音って、やっぱり可愛いよね……こうしてると、まるで妹みたい」


 澪がポツリとつぶやいた。


「えー、ほんと? でも、澪の方こそ頼りがいがあってお姉ちゃんみたいだよ」


 詩音が笑いながら答えた。


 こうして、三人はお互いに体を洗い合う中で、日頃の疲れを癒し、心も体もリフレッシュしていった。湯船の中では得られない親密さが、この特別なケアの時間を通して育まれていた。


 バスルームの明かりがやわらかに反射し、三人の女性たちの裸の肌が艶やかに輝いていた。美容やファッションに対するこだわりが、ここでもしっかりと発揮されている。そして、そのひとときは、彼女たちがもっと深く理解し合い、互いの存在を大切に思う瞬間となった。


 湯気が立ち上る中で、三人は再び湯船に浸かり、体の隅々までリラックスさせながら、穏やかでゆったりとした時間を共有した。肌に触れる感覚、香り、温もり……そのすべてが、彼女たちの友情を深めていく。


 三人は日頃の悩みや楽しかったことを語り合う。仕事の愚痴、恋愛の悩み、将来の夢……。普段なら口にしづらいことも、湯船の中では自然と言葉になる。


「ねえ、最近気になる人いる?」


 詩音が突然尋ねた。


「えっ」


 澪が少し赤面する。


「あら、いるのね」


 にこが興味深そうに澪を見る。


「ま、まあ……ちょっとね」


 澪が照れくさそうに答える。


「詳しく聞かせて」


 にこが身を乗り出す。


「そうだよ、教えて!」


 詩音も興奮気味だ。


 澪は、ためらいがちに職場の後輩との出来事を話し始めた。にこと詩音は、熱心に聞き入りながら、時にアドバイスを送る。


「やっぱり、一歩踏み出してみるべきよ」


 にこが意見する。


「うん、澪なら大丈夫だよ」


 詩音も励ます。


 話題は、にこの仕事の悩みや詩音の創作の行き詰まりにも及んだ。三人は互いの悩みに耳を傾け、時に励まし、時にアドバイスを送る。湯船の中で、彼女たちの絆はより一層深まっていった。


「そろそろ出ましょうか。皮膚がふやけちゃう」


 にこが言う。


「そうだね。でも、なんだかもっとここにいたい気分」


 詩音がくすくすと笑う。


「わかるわ。でも、次はお茶でも飲みながらおしゃべりを続けましょう」


 澪が提案した。


 三人は湯船から上がり、それぞれのお気に入りのバスローブを纏う。にこのは上質なシルク製、澪のは機能性重視の速乾素材、詩音のは可愛らしい花柄のもの。


 鏡の前に立つと、三人三様のスキンケアが始まる。にこは高級美容液を丁寧に肌に馴染ませ、澪はさっぱりとした化粧水で肌を整え、詩音は韓国発の最新シートマスクを顔に貼る。


「ねえ、こうして見ると、私たち本当にお互い変わってるよね」


 にこが鏡越しに言う。


「そうだね。でも、それがいいんだと思う」


 詩音が笑顔で答える。


「確かに。お互いの違いを認め合えるのが、私たちの良さよね」


 澪も同意した。


 バスタイムを終えた三人は、リビングに集まった。にこの淹れた香り高いハーブティーを楽しみながら、さっきの話の続きを始める。湯船の中で芽生えた親密さは、そのまま夜更けまで続いた。


 この日の入浴は、さくらハウスの三人にとって特別な時間となった。日常の喧騒から離れ、ゆったりと自分と向き合い、そして何より大切な仲間との絆を確かめ合う。そんな贅沢な時間を過ごせたことに、彼女たちは心から感謝していた。


 窓の外では、夜空に星々が輝いている。それは、三人の輝く未来を暗示しているかのようだった。


(了)

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