「古いアルバムの思い出」

 さくらハウスの大掃除の日、リビングは埃っぽい空気に包まれていた。鷹宮澪、小鳥遊詩音、月城にこの三人は、それぞれが掃除道具を手に、黙々と作業を進めていた。


 澪は髪を大きめのクリップでまとめ上げ、古びたTシャツにジーンズという普段見られない姿だ。普段の完璧なメイクも控えめで、素顔に近い状態。それでも、肌の手入れは怠らず、ナチュラルな輝きを放っている。


 詩音はバンダナで髪を縛り、大きめのTシャツとショートパンツ姿。顔には埃よけのマスクをしているが、その上からでもわかる愛らしい瞳が印象的だ。


 にこは、掃除用のエプロンを身に着けているが、そのデザインは他の二人のものより明らかにオシャレだ。淡いピンク色で、レースの縁取りがされている。髪は丁寧に編み込まれ、軽めのメイクも崩れていない。


「はぁ……終わりが見えないわね」


 にこがため息をつく。


「そうだね。でも、やるしかないよ」


 詩音が励ますように言う。


「そうよね。あとちょっとだわ」


 澪が決意を新たにする。


 三人が黙々と掃除を続けていると、突然、詩音の声が響いた。


「あれ? これ、なに?」


 詩音が古い段ボール箱を開けながら言う。中から出てきたのは、埃をかぶった古いアルバムだった。


「わぁ、懐かしい!」


 にこが目を輝かせる。


「これ、私たちが一緒に住み始めた頃のアルバムじゃない?」


 澪も興味深そうに近づいてきた。


「本当だ。すっかり忘れてたな」


 三人は掃除の手を止め、ソファに腰掛けた。詩音がそっとアルバムを開く。


「あ! これ、引っ越しの日の写真だ!」


 最初のページには、荷物に囲まれた三人の笑顔の写真が貼られていた。


「ねえ、見て。私たち、なんて若いの!」


 にこが驚いたように言う。


「そうね。でも、今の方が魅力的だと思うわ」


 澪が微笑みながら言った。


「うん、同感。経験を重ねた分、表情に深みが出てるよ」


 詩音も頷く。


 ページをめくるたびに、懐かしい思い出が蘇ってくる。最初の食事会の写真、休日のピクニックの様子、夜更かしして語り合った日の自撮り写真……。


「あ! これ見て!」


 詩音が指さす写真に、三人は目を見開いた。


「ああ……初めての合コンの日ね」


 にこが赤面しながら言う。


「うわぁ、私の髪型! なんであんな派手なメイクしてたんだろう」


 澪が顔を覆う。


「私なんて、このファッション、今考えたらちょっと……」


 詩音も恥ずかしそうに言う。


 その写真には、明らかに気合いの入った三人の姿が写っていた。澪は普段の落ち着いた雰囲気とは打って変わって、派手なアイメイクにボリュームのある髪型。にこは今でこそ上品なファッションを好むが、その頃は露出の多い大胆な服装。詩音は普段のラフなスタイルとは違い、ぴったりとしたドレスに身を包んでいる。


「でも、楽しかったわよね」


 にこが懐かしそうに言う。


「うん。あの頃は毎日が新鮮で、色んなことに挑戦してた」


 澪も同意する。


「そうだね。今思えば、あの経験も私たちを成長させてくれたんだと思う」


 詩音が深く頷く。


 アルバムをめくり続けると、それぞれの仕事の写真も出てきた。


「これ、私の初めての個展の時ね」


 詩音が嬉しそうに言う。写真には、緊張しながらも誇らしげな表情の詩音が写っていた。


「覚えてるわ。素晴らしい作品ばかりだったものね」


 にこが優しく言う。


「そうそう。今でも詩音の才能には感服するわ」


 澪も付け加えた。


「ありがとう。でも、あの時はすごく不安で。今の方が自信を持って作品を描けるようになったかな」


 詩音が照れくさそうに言う。


 次のページには、にこが店長に就任したときの写真があった。


「わぁ、これ」


 にこが懐かしそうに見つめる。


「にこ、すごく緊張してたよね」


 詩音が思い出したように言う。


「そうだったわ。でも、今のにこを見れば、あの頃の心配が杞憂だったって分かるわね」


 澪が優しく微笑む。


「ありがとう。本当に、あの頃は自信がなくて。でも、みんなに支えられて、少しずつ成長できたのよ」


 にこの目に、感謝の色が浮かぶ。


 そして、澪の大きなプレゼンテーションの日の写真も出てきた。


「ああ、この日は忘れられないわ」


 澪が懐かしそうに言う。


「そうね。澪、すごく緊張してたもの」


 にこが思い出し笑いをする。


「でも、結果は大成功だったじゃない」


 詩音が誇らしげに言う。


「うん。あの時の経験が、今の私を作ってくれたのかもしれないわ」


 澪が深く頷く。


 アルバムの最後のページには、三人で温泉旅行に行った時の写真があった。


「ああ、この旅行は最高だったね」


 詩音が嬉しそうに言う。


「そうね。仕事の疲れを忘れて、思いっきりリラックスできたわ」


 にこも同意する。


「私たち、こうして支え合って来たのね」


 澪が感慨深げに言う。


 三人は、アルバムを見終わった後、しばらく沈黙した。そして、にこが静かに口を開いた。


「ねえ、私たち、結構成長したわよね」


「そうだね。見た目も、内面も」


 詩音が頷く。


「本当ね。今の私たちは、あの頃より強くなった気がするわ」


 澪も同意する。


 三人は、現在の自分たちと過去を比較し、それぞれの成長を実感していた。


「でも、変わらないものもあるわよね」


 にこが優しく言う。


「うん。私たちの絆は、むしろ強くなってるかも」


 詩音が嬉しそうに言う。


「そうね。これからも、一緒に歩んでいけたらいいわ」


 澪が心からの笑顔を見せる。


 その時、にこが突然立ち上がった。


「思い出した! 私、実家から持ってきた古いアルバムがあったわ」


 にこは自室へ向かい、すぐに古びた小さなアルバムを持って戻ってきた。


「これ、私の子供の頃の写真よ」


 澪と詩音は、興味津々でにこの周りに集まった。


「わぁ、可愛い!」


 詩音が声を上げる。開いたページには、幼稚園くらいの年齢のにこが写っていた。真っ白なフリルのワンピースを着て、大きなリボンを頭に付けている。


「このころから、おしゃれだったのね」


 澪が微笑みながら言う。


「ええ、母が私を可愛く着飾るのが好きだったの。でも、正直窮屈だったわ」


 にこが少し照れくさそうに答える。


「あ、これは?」


 詩音が指さす写真には、小学生くらいのにこが大きな花畑の中で笑っている姿が写っていた。


「ああ、毎年行っていた菜の花畑よ。この頃が一番楽しかったかもしれないわ」


 にこの目が懐かしそうに潤んだ。


「にこは昔から綺麗だったんだね」


 詩音が感心したように言う。


「そうね。でも、今の方がもっと魅力的よ」


 澪が優しく付け加えた。


「もう、照れるじゃない」


 にこが頬を赤らめる。


「じゃあ、次は私の番ね」


 澪も自室から古いアルバムを持ってきた。


「見て、これが私」


 開いたページには、短い髪の毛の少女が真剣な表情で習字をしている写真があった。


「わあ、澪らしいわね。小さい頃から真面目だったのね」


 にこが感心したように言う。


「うん、でも実はね……」


 澪がページをめくると、次の写真には同じ少女が泥だらけになって笑っている姿があった。


「えっ! これも澪なの?」


 詩音が驚いて声を上げる。


「そう、実は私、外で遊ぶのも大好きだったの。でも、親には内緒にしてたんだ」


 澪が少し照れくさそうに言う。


「素敵ね。澪にもこんな一面があったなんて」


 にこが嬉しそうに言う。


「うん、意外な一面を見れて嬉しいな」


 詩音も同意する。


「じゃあ、最後は私の番だね」


 詩音も自室からアルバムを持ってきた。


「これ、見て」


 開いたページには、大きな絵を抱えた少女の写真があった。


「わあ、これがあの有名な絵?」


 にこが驚いたように言う。


「うん、小学校の絵画コンクールで優勝した時の写真。この時から、絵を描くのが好きだったんだ」


 詩音が懐かしそうに言う。


「素晴らしいわ。才能は昔からあったのね」


 澪が感心したように言う。


 しかし、次のページをめくると、詩音は少し恥ずかしそうな表情になった。


「あ、これは……」


 写真には、派手なメイクと奇抜な髪型の中学生くらいの詩音が写っていた。


「まあ! これも詩音なの?」


 にこが驚いて声を上げる。


「うん、中二病真っ盛りの頃かな。自分を表現したくて、色々やってたんだ」


 詩音が赤面しながら説明する。


「素敵よ。自分を表現しようとする姿勢は、今にも繋がってるわね」


 澪が優しく言う。


 三人は、それぞれの子供時代の写真を見ながら、笑いあり、驚きあり、感動ありの時間を過ごした。


「ねえ、私たち、本当に色んな経験をしてきたのね」


 にこがしみじみと言う。


「そうだね。恥ずかしい思い出も、嬉しい思い出も、全部が今の私たちを作ってくれたんだと思う」


 詩音が深く頷く。


「本当ね。過去の自分たちを見て、今の自分たちの成長を感じられるって、素晴らしいことだわ」


 澪が感慨深げに言う。


 三人は、子供時代の写真を通して、お互いのルーツと成長の軌跡を共有し、より深い絆を感じていた。それは、彼女たちの現在の幸せをより一層輝かせるものだった。


「これからも、一緒に新しい思い出を作っていけたらいいね」


 詩音が明るく言う。


「ええ、そうね。今日という日も、きっと素敵な思い出になるわ」


 にこが優しく微笑む。


「そうよ。私たちの物語は、まだまだ続いていくんだもの」


 澪が力強く言った。


 窓の外では、夕暮れの柔らかな光が差し込んでいた。過去と現在、そして未来へとつながる時間の流れを感じながら、さくらハウスの三人は、新たな明日への希望を胸に抱いたのだった。


(了)

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