「真夜中の星空カフェ」
さくらハウスの静寂を破ったのは、ベランダから聞こえる小さな物音だった。真夜中を過ぎた頃、小鳥遊詩音が一人、星空を見上げていた。
詩音は大きめのTシャツとショートパンツという寝間着姿で、髪は無造作にまとめられている。素顔には、夜用の保湿クリームがほんのりと光っていた。彼女の手には、愛用のスケッチブックが握られている。
「眠れないの?」
突然背後から声がして、詩音は少し驚いて振り向いた。そこには、月城にこが立っていた。
「あ、にこ。ごめん、起こしちゃった?」
詩音が申し訳なさそうに言った。
「ううん、私も眠れなくて」
にこは優雅な足取りでベランダに出てきた。彼女はシルクのパジャマ姿で、髪は丁寧にまとめられ、顔には高級ナイトクリームの艶が光っている。
「二人とも、こんな時間に何してるの?」
鷹宮澪の声が聞こえ、彼女もベランダに姿を現した。澪はスポーツブラとジョギングパンツ姿で、少し汗ばんでいる。
「澪も眠れなかったの?」
詩音が尋ねた。
「ええ、明日のプレゼンが気になって。それで少し運動してたの」
澪が答えた。
三人は顔を見合わせ、くすりと笑った。
「せっかくだから、真夜中の星空カフェでもやる?」
詩音が突然提案した。
「いいわね」
にこが賛同する。
「私も参加するわ」
澪も頷いた。
にこは優雅な動きでキッチンに向かい、ハーブティーを準備し始めた。彼女は棚から、特別な日にしか使わない高級茶葉を取り出した。
「カモミールとラベンダーのブレンドよ。リラックス効果があるわ」
にこが説明する。
澪は冷蔵庫から、手作りのクッキーを取り出した。
「この前の休日に焼いたの。まだ美味しいはずよ」
詩音は、テーブルの上に星座早見盤を広げた。
「今夜はどんな星が見えるかな」
三人はベランダのテーブルを囲み、即席の「星空カフェ」を開いた。にこの淹れたハーブティーの香りが、夜の空気に溶け込んでいく。
「ねえ、あれ見て」
詩音が空を指さした。
「大きな北斗七星が見えるよ」
澪と詩音が顔を上げると、確かに大きな柄杓の形をした星座が見えた。
「きれい……」
にこがため息をつく。
「ねえ、星座の話、詳しく聞かせて」
澪が詩音に尋ねた。
詩音は嬉しそうに星座の話を始めた。彼女の目は輝き、手振りを交えながら熱心に説明する。にこと澪は、詩音の話に聞き入りながら、ハーブティーを楽しんでいた。
「北斗七星は、実は大熊座の一部なんだ。昔の人は、この星座を見て方角を知ったんだよ」
詩音の説明に、にこと澪は感心した様子で頷いた。
「星って、昔から人間の生活と深く結びついてたのね」
にこが感慨深げに言った。
「そう、だから私、星をモチーフにしたイラストをよく描くんだ」
詩音が答える。
会話は自然と、それぞれの仕事や夢の話に移っていった。
「私ね、最近新しいブランドラインの構想を練ってるの」
にこが、少し興奮気味に話し始めた。
「星空をイメージしたドレスコレクションよ」
「それ、素敵!」
詩音が目を輝かせた。
「私のイラストと、コラボできたりしない?」
「いいわね、それ」
にこが賛同した。
「私も、次の広告キャンペーンで宇宙をテーマにしたものを企画してるわ」
澪が加わった。
「みんな、星に魅せられてるのね」
にこが微笑んだ。
三人は、それぞれの夢や目標について語り合った。星空の下で、彼女たちの想像力は限りなく広がっていく。
そんな中、突然の光が夜空を走った。
「あ! 流れ星!」
詩音が声を上げた。
「みんな、願い事!」
にこが言う。
三人は目を閉じ、それぞれの願いを心の中で唱えた。
しばらくして目を開けると、三人は顔を見合わせて微笑んだ。
「何を願ったの?」
詩音が好奇心いっぱいの表情で尋ねた。
「それは秘密よ」
にこが神秘的な笑みを浮かべた。
「そうね、言わないでおくのが流れ星の願い事のルールだもの」
澪も同意した。
しかし、三人の表情からは、きっと似たような願いを持っているのだろうということが伝わってきた。それは、お互いの幸せや成功、そしてこの絆が永遠に続くことへの願いだったに違いない。
夜が深まるにつれ、三人の会話はより深みを増していった。仕事の悩み、恋愛の話、将来への不安……。普段はなかなか口に出せないようなことも、この特別な時間の中では自然と言葉になる。
「ねえ、私たち、こうして過ごすの久しぶりよね」
にこがしみじみと言った。
「そうだね。いつも忙しくて、ゆっくり話す時間もなかったもんね」
詩音も同意する。
「でも、こうして時々立ち止まって、星を見上げるのも大切ね」
澪が言葉を添えた。
三人は、この予期せぬ「星空カフェ」が、かけがえのない時間になったことを感じていた。日常の忙しさの中で見逃しがちな、小さな幸せや気づきを、星空の下で再確認したのだった。
「また、こういう時間を作りましょうね」
にこが提案した。
「うん、定期的にやりたいね」
詩音が賛成する。
「そうね。忙しくても、時々は星を見上げる時間を作る努力をしましょう」
澪も同意した。
東の空が少しずつ明るくなり始めた頃、三人は名残惜しそうに「星空カフェ」を終えた。しかし、この夜の経験は、彼女たちの心に深く刻まれ、明日からの日常に新たな輝きを与えることだろう。
(了)
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