「江戸の知恵、現代に蘇る」
真夏の日差しが容赦なく照りつける土曜の午後、さくらハウスのリビングは静かな熱気に包まれていた。鷹宮澪、小鳥遊詩音、月城にこの三人は、それぞれの方法で暑さをしのごうとしていた。
澪は涼しげな浴衣姿で、大きな団扇を手に持ちながらソファに腰掛けていた。彼女の浴衣は淡い藍色の地に白い朝顔の花が描かれた上品なもので、帯には銀糸で織られた流水文様が施されている。髪は涼しげに高く結い上げられ、首筋に一筋の汗が光っていた。
詩音は大きなTシャツとショートパンツという普段着姿で、床に寝そべりながらスマートフォンをいじっていた。彼女の足元には小さな扇風機が置かれ、ゆるやかに髪を揺らしている。
にこは薄手のワンピース姿で、窓際に立って外を眺めていた。彼女のワンピースは淡いピンク色で、胸元にはレースの装飾が施されている。首元にはさりげなく、天然石のペンダントが光っていた。
「ねえ、この暑さどうにかならないかしら」
にこがため息まじりに言った。
「そうだね……エアコンつけようか?」
詩音が提案するが、澪が首を横に振った。
「できるだけエアコンは控えたいわ。電気代のこともあるし、環境にも良くないでしょう」
澪の言葆に、三人は考え込んだ。そして、詩音が突然顔を上げた。
「あ、そういえば昔の人って、どうやって暑さをしのいでたんだろう?」
この質問をきっかけに、三人の会話は昔の知恵へと向かっていった。
「そうね……打ち水とか、風鈴とかね」
にこが思い出したように言う。
「ああ、打ち水いいわね。庭に水をまくだけで涼しくなるなんて、すごい知恵よね」
澪が感心したように言った。
「風鈴も素敵よね。音を聞くだけで涼しく感じるなんて」
詩音が目を輝かせる。
三人は顔を見合わせ、にっこりと笑った。
「ねえ、私たちも試してみない?」
にこが提案した。
「そうね、いいアイデアだわ」
澪も賛同する。
「うん、楽しそう!」
詩音も嬉しそうに頷いた。
三人は急いで準備を始めた。澪は物置から古い木の桶と柄杓を見つけ出し、詩音はインターネットで風鈴を注文した。にこは台所から氷を持ってきて、ガラスの器に入れた。
「さあ、打ち水の準備ができたわ」
澪が嬉しそうに言った。
三人は庭に出て、順番に打ち水を始めた。水しぶきが飛び散る度に、ほんのりと涼しさを感じる。
「わあ、本当に涼しくなった気がする」
詩音が驚いたように言う。
「そうね。見た目にも涼しげだわ」
にこが感心する。
打ち水を終えた三人は、涼しくなった庭でしばらくくつろいだ。にこが持ってきた氷を浮かべたお茶を飲みながら、会話は再び昔の知恵へと戻っていった。
「でも、昔の人って本当に賢かったのね」
澪がしみじみと言った。
「そうね。限られた資源で工夫して生活していたのよね」
にこが同意する。
「あ、そういえば……」
詩音が突然思い出したように言い出した。
「江戸時代って、実は究極にエコでSDGsな時代だったって聞いたことがある」
この言葆に、澪とにこは驚いた表情を見せた。
「えっ、本当? どういうこと?」
にこが興味深そうに尋ねる。
「うん、確か……」
詩音は記憶を辿りながら説明を始めた。
「江戸時代の人々は、ほとんど全てのものをリサイクルしていたんだって。例えば、古着は何度も再利用されて、最後は雑巾になったりしたんだよ」
「へえ、すごいわね」
澪が感心したように言う。
「それだけじゃないの。食べ物の残りかすも、全て肥料として使われたらしいわ」
にこが付け加えた。
「そう、そう! それに、糞尿まで肥料として使っていたんだよ」
詩音が熱心に説明する。
「まあ、それは……ちょっと考えたくないわね」
にこが顔をしかめる。
詩音はかまわず話を続ける。
「でも時にはその糞尿の取り合いとかにもなったんだって!」
「まあ、確かにエコよね」
澪が真剣な表情で言った。
「今の私たちの生活と比べると、ずっと環境に優しかったのかもしれないわ」
三人は、現代の生活を振り返り、少し考え込んだ。
「でも、江戸時代に戻れって言われても困るわよね」
にこが冗談めかして言う。
「そうだね。でも、江戸時代の知恵を現代に活かすことはできるんじゃない?」
詩音が提案した。
「そうね。例えば、もっと積極的にリサイクルを心がけるとか」
澪が同意する。
「食品ロスを減らすのも大切ね」
にこも付け加えた。
三人は、江戸時代の知恵と現代の技術をどう組み合わせれば、より持続可能な生活ができるか、熱心に話し合い始めた。
庭で涼みながらの会話は、次第により具体的な行動プランへと発展していった。三人は、江戸時代の知恵を現代に活かすアイデアを出し合い始めた。
「例えば、クローゼットの整理から始めてみない?」
にこが提案した。彼女は髪を軽くかき上げながら、熱心に話し始めた。
「使わなくなった服は、リメイクしたりアップサイクルしたりできるはずよ」
「それいいね!」
詩音が目を輝かせながら言った。
「私、古着をリメイクしてオリジナルの服を作るの、好きなんだ。みんなの服も手伝えるよ」
「まあ、素敵ね」
澪が感心したように言う。
「私は料理の面で工夫できそうよ」
澪は団扇を軽く仰ぎながら続けた。
「野菜の皮や茎も捨てずに使い切る料理を研究してみるわ。江戸時代の人は、本当に食材を無駄にしなかったそうだから」
「それ、面白そう!」
にこが賛同する。
「私も、コスメの使い方を見直してみようかしら」
にこは首元の汗を優雅に拭きながら言った。
「使い切れなかったリップを溶かして新しい色を作ったり、ほんの少し残ったファンデーションをハイライターと混ぜて使ったり……」
三人は、それぞれのアイデアに刺激を受け、次々と新しい提案を出し合った。その様子は、まるで江戸時代の女性たちが知恵を出し合っているかのようだった。
「あ、そうだ!」
詩音が突然思いついたように声を上げた。
「私たちで『現代版江戸エコ生活』みたいなプロジェクトを始めてみない?」
「それ、面白いわね」
澪が興味深そうに言う。
「そうね。SNSで発信して、みんなで楽しみながらエコな生活を広めていけるかも」
にこも賛同した。
三人は、このアイデアにすっかり夢中になった。にこはスマートフォンを取り出し、早速インスタグラムのアカウントを作成し始めた。彼女の繊細な指先が画面上を軽やかに動く。
「ハッシュタグは……#現代江戸エコ生活 でどう?」
にこが提案する。
「いいね! 覚えやすい!」
詩音が賛成した。
澪は立ち上がり、家の中から紙と鉛筆を持ってきた。彼女の浴衣姿が、風に揺れる庭の木々と調和して美しい。
「具体的なプロジェクトの内容を決めましょう」
澪が言いながら、紙に項目を書き始めた。
「まずは、衣・食・住の3つの分野で考えてみるのはどう?」
「賛成!」
にこと詩音が声を揃えた。
三人は、それぞれの得意分野を活かしながら、プロジェクトの内容を詰めていった。にこはファッションとビューティーの面でのエコな工夫を、詩音はクリエイティブなリサイクルアイデアを、澪は食生活と住環境でのエコな取り組みを担当することになった。
話し合いが進むにつれ、三人の表情はどんどん生き生きとしてきた。真夏の暑さも忘れ、江戸時代の知恵と現代のテクノロジーを融合させた新しいライフスタイルのビジョンに、すっかり心を奪われている。
「ねえ、このプロジェクト、意外と大きくなるかもしれないわね」
にこが少し興奮気味に言った。
「そうだね。私たちの生活を変えるだけじゃなく、他の人にも影響を与えられるかも」
詩音も目を輝かせながら言う。
「そうね。小さな一歩かもしれないけど、大切な一歩になるわ」
澪が静かに、しかし力強く言った。
その時、風鈴の音が涼やかに響いた。詩音が注文した風鈴が届き、早速軒先に吊るしたのだ。
「ほら、聞こえる? 江戸の音だよ」
詩音が嬉しそうに言う。
三人は目を閉じ、風鈴の音に耳を傾けた。その瞬間、彼女たちの心の中で、過去と現在が不思議なハーモニーを奏でているようだった。
風鈴の音色に包まれながら、さくらハウスの三人は、新しいプロジェクトへの期待と興奮を胸に、静かに夕暮れを迎えていった。江戸の知恵が現代に蘇る。その小さな、しかし確かな一歩が、ここから始まろうとしていた。
(了)
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