第4話 謁見
勇者パーティーを後にして、ようやく自由を手に入れた。
とりあえず、最悪の絶望的な状況は脱した。
脱したはずなんだけど、街を歩いていると、王国の近衛騎士たちに囲まれたわけだ。
多分、戦えば勝てる。
勝てるけど、勇者のパトロンは王様だ。
色々と便宜を図ってもらってる相手が会いたいというなら、会いにいくしかないな。
「やれやれ、ようやく自分の時間ができたと思ったのにな」
「勇者ザイール様ですね。王様がお呼びです。すぐに城へお越しください」
近衛騎士のリーダーらしき男が冷たい声で告げてきた。
勇者ザイールの評価は底辺だからな。
近衛騎士からも嫌われているな。
「ああ、わかった」
俺はため息をつきながらも、抵抗せずに近衛騎士たちについていく。
彼らの態度は無礼ではないが、明らかに緊張感が漂っている。
こちらの戦力がわかっているから、お互いに警戒しているということだな。
「王様が俺に何の用なんだ?」
悪態口調なのは、ザイールのデフォルトなのだが、礼儀作法とか習ったら直るかな? 心の中で不安を抱えつつも、抵抗するつもりはない。
城に着くと、すぐに謁見の間に通された。
王座に座る王様の横には王女様が立っていた。
俺はその前で礼を尽くした。
「ザイール、お主がパーティーを抜けたと連絡が入った。これは本当か?」
王様の声は厳しく、鋭い目が俺を見据えていた。
「はっ! 俺はパーティーを抜けました。あいつらとは反りが合わなかったので」
王様にもこの口調なんだな。
とりあえず、真実を隠さずに答えた。
「反りが合わなかっただと? お主は勇者であろう? 勇者とは民を守り、導き、無償の愛を提供するものである。パーティーを守るのも其方の役目だ。なぜその役目を放棄したのだ!?」
王様の言葉に、俺の心は苛立ちを感じる。
当たり前だろ! このままなら俺はザマァされるだけの存在なんだよ。
「王様、俺がパーティーを抜けた理由はただ反りが合わないからだけじゃないんだ。もっと深い理由があるんだよ」
「ほう、申してみよ」
王様の興味が引くことができたな。
「パーティーの仲間たちは確かに強いが、俺の存在が彼らの成長を妨げていると感じたんだ。彼らが真に強くなるためには、俺がいない方がいい。俺がいると、彼らは俺に頼りすぎて、自分たちの力を十分に発揮できない。だから、あえて俺が抜けることで、彼ら自身の成長を促そうと考えたんだ」
くくく、完全に戯言だな。
馬鹿者って怒鳴りつけられて、勇者の役目を剥奪されるだろう。
立場的には落ちぶれるが、力を失うわけじゃない。
勇者を辞めて、のんびり田舎で暮らすのもいいな。
王様は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「なるほど。お主はパーティーの成長を考えた上で、自ら退く決断をしたというわけか。確かに、彼らが自立し、真に強くなるためには、それが必要なのかもしれない」
おいおい、この王様マジか! 今の胡散臭い綺麗事を信じるのかよ! いや、一国の王なんだ腹の探り合いをしているだけかもしれない。
ここは俺も合わせるか?
「そうなんですよ! 奴らは経験も浅くて弱い。でも、俺がいないことで、奴らは自分たちの力を鍛え、成長することができる。俺はそれを信じているんです」
王様はしばらく沈黙した後、深く息をついた。
おっ! さすがに胡散臭いと思ったか?
「ザイールよ。お主の決断は確かに勇者として素晴らしいものだ。しかし、お主一人で何ができる? 彼らはそれぞれの分野のエキスパートだ」
まぁ、能力だけは無駄に高いが、トールが覚醒したら全部が意味ないんだよな。
「王国に与える影響も大きい。お前の行動が正しいと信じるならば、しっかりと見守っていくが、万が一問題が起きれば、即座に対処してもらうぞ」
うわ〜マジか、勇者剥奪はならずかよ。
これはもう少し強引なことをした方がいいかもしれないな。
「ありがとうございます、王様。俺は自分の道を進むだけです。あいつらがどうなろうと知ったこっちゃない。ただ、奴らが成長して活躍してくれるでしょう」
だから、あいつらに面倒事は回せよ。
どうだ? 無礼にも程がある言い方だろ? どんな反応をする?
俺がワクワクして待っていると、王の横に立っていた王女様が前に出る。
見た目はあの王様から生まれたとは思えないほどの超絶美人だ。
薄い衣からハミでそうな爆乳を凝視する近衛騎士もいるだろう。
俺にも目線が隠れる兜をくれるよ。
お前らだけ狡いぞ。
王女は美しいドレスを纏い、微笑みを浮かべて俺に近づいてきた。
「お父様、失礼いたします。ザイール様にお話があるのです」
王女様の声は甘く、優しい。
しかし、その背後には強烈な意図が隠されている。
てか、この女も地雷なんだよなぁー。
「ザイール様、あなたがパーティーを抜けた理由はわかりました。ですが、勇者の力が王国には必要なのです。どうか私のために、もう少し頑張っていただけませんか? 私のためなら、何でも無償でやってくださいますよね?」
出た出た出た! 自分が超絶美人な王女様だからって、なんでもやってもらえると思ってやがる。それは労働の搾取なんだよ。
普通の男なら、喜んで返事をするだろうがな。
「王女様! 俺はもうパーティーを抜けました。面倒な仕事はトールがリーダーを務める天空の聖剣にお願いします。王が言われるように、彼らは各分野のエキスパートです。どんな仕事でも成功してきてくれるでしょう。また、それが彼らの成長になります!」
はっ! 絶対にお前の言うことを聞くかよ!
王女様はその答えに微笑みを崩さず、さらに一歩近づいてきた。
「そんなこと言わないでください、ザイール様。私のために、もう一度考え直していただけませんか? あなたの力が必要なんです」
うわ〜自分の言うことを聞かない者を許さない、権力者様の発言だぜ。
その言葉に、俺は苛立ちを感じつつも、冷静に答えた。
「重ねて申し訳ありません。俺には俺の道がありますので、やるべきことがあります。王女様であっても、勇者としてあなただけの言うことは聞けません」
「なっ!」
それまで完璧に表情を崩さなかった王女様は、微笑みを浮かべながらも、その目には冷たい光が宿っていた。
「そうですか……残念です。でも、あなたの決断を尊重します」
王様は王女様のやり取りを見守りながら、深く頷いた。
「ザイール、お前の決断を尊重しよう。しかし、今後お前の行動が王国に害を及ぼすようなことがあれば、容赦しない。援助は打ち切る」
いやいや、むしろそれを切って、いっそ縁も切りたいんだけどね。
よし! 決めた。
「それはいいな。王様がそういうことを言うなら、こっちにも考えがある。援助はいらない。代わりに王国の願いも聞かない。それでいいか?」
「お主っ!? 血迷ったか? 近衛騎士たちよ! 勇者は命が惜しくないようじゃ」
おうおう、怖いね。
これは指名手配とかされるかな? なら、こっちも遠慮しなくていいよな。
「聖剣よ! 我が手に」
うわ〜、厨二病だな完全に。
「貴様! 勇者が王の前で剣を抜くなど、何を考えておる!?」
「はぁ? 先にふっかけてきたのはそっちだろ? なら、単純な話だ。ここで逆らったと騒がれるぐらいなら全員殺せばいい」
「なっ! 何を!」
聖剣の力は凄まじい。
召喚した瞬間に全知全能の神になった気分だ。
一振りで近衛騎士は誰も立ってなくなった。
殺してはいない。この場で動けなくしただけだ。
「さて、王様、王女様。話し合いをしょうか?」
「わっ、わかった。これからも其方を勇者と認め、援助を続ける!」
「そっ、そうですわ! 魔王を倒してくだされば、私の身を如何様にでも!」
はぁ、頭がお花畑だな、この王族は。
「わかってねぇな。お前らなんて俺の敵にすらならねえよ。俺は魅力の魔眼を使えば好きなだけ、人を操れるんだからな」
「うっ! わっ、わしらをどうする気じゃ!」
「辱めるのですか?!」
俺は二人に向かって、邪悪な笑みを浮かべる。
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