第28話 デート

 街についてのんびりとした魔族の街のおかげで、これまでの人生をやりなせそうな気がしてくる。


 俺はザイールであって、ザイールではない。


 ザイールが、どんな人生を歩んできたのか、知識として知ってはいても、それがなんだと思う。


「ルナ、海が綺麗だな」

「ザイール様は海が好き?」

「う〜ん、見ている分には好きだよ」

「なら、私も好き」


 ルナはとても従順で俺のことを大切にして、一番に考えてくれている。

 それだけで、俺は十分に幸せだと思えていた。


「ザイール様、少し周囲の偵察をしてきたいと思います」

「ああ、頼む」


 レイナも魔族領に帰ってきたことで、魔王軍の幹部として連絡もあるのだろう。


 一時パーティーを離脱した。


 彼女にも彼女の立場があるだろうから、そこは自由だ。

 いつもは従者のように付き従ってくれてる彼女を、信用としていないが、信頼はしている。


「ザイール様、私は少し偵察に行ってまいります。しばらくの間、ルナと二人でお楽しみください」


 そう言って、彼女は軽やかに街へと消えていった。残された俺は、ルナと二人っきりになったわけだが、別に特別なことをするつもりはない。ただ、こうして二人で過ごすのも悪くないと思っていた。


「ルナ、せっかくだから街の外にでも行って、少し魔物でも討伐しに行くか?」

「主人様についていく」

「ルナはしたいことはないか?」

「う〜ん、夜にいっぱいして」


 うっ、ルナの爆乳で腕を挟まれる。

 

 ハァ〜俺ってマジで幸せ者だと思う。


 俺たちはさっそくデート気分で、港町ハマーべを離れて、近くの森へと向かった。


 魔王領の森はどこか禍々しく見えるが、俺としてはここまで気分良く過ごしていられる。どんな強力な魔物が出てきても負ける気がしないな。


「どうやらここは魔物の巣がたくさんあるみたいだな」


 森に入ると、すぐに異様な雰囲気が漂い始めた。


 周囲の空気がピリピリとした緊張感を醸し出し、魔物の気配が至る所から感じられる。まるで、こちらの存在に気づかれたかのように、じわじわと近づいてくるようだ。


「ビリビリして気持ちいい」

 

 魔族領にきてからルナの体調はかなり良くなった。

 こちらの大陸の方が、魔素領が多く。

 魔族には過ごす安いようだ。


「主人様、あそこに魔物がいます」


 ルナが指差した先には、大きな木の陰から覗く魔物の姿が見えた。それは一体の巨大な狼と熊を合わせたような魔物で、全身が黒い毛で覆われており、鋭い牙を剥き出しにしている。


「おお、なかなかの大物じゃないか。ルナ、一緒に戦うか?」


 ルナはコクリと頷くと、両手の爪が伸びて剣のようになる。


 俺も聖剣を構え、彼女の後に続いた。

 戦闘は、まさに俺たちにとって体を動かすことができるデートスポットとしては気楽に声れていい。


「ルナ、隙を見て攻撃しろ」


 俺は軽く助走をつけてから、聖剣を一振り。強力な一撃が巨大な魔物の前足に直撃し、魔物が大きくのけぞった。


 一撃で倒せそうではあるが、ルナに倒させるためにチャンスを作る。


 その瞬間を逃さず、ルナが素早く接近し、鋭い一閃で魔物の側面を斬り裂いた。


「ナイスだ、ルナ!」


 ルナは無言のまま、しかし満足そうに微笑んでいた。


「快感!」


 彼女の恍惚とした表情は美しい。


「これで終わりだ!」


 一気に力を込めて、聖剣を振り下ろすと、魔物の爪を打ち砕き、そのまま喉元を突き刺した。


 大量の魔物は断末魔の叫びを上げ、やがて力なく崩れ落ちた。


「ふう、なかなか手応えがあったな」


 俺は現れた魔物を一刀で全てを切り伏せる。


 ちょっとかっこいいところを見せたくてやったので、ルナに目を向ける。

 彼女の俺を見つめる瞳は熱を帯びていて、満足そうな表情を浮かべていた。


 やはり、彼女も戦うことが好きなようだ。


「いい感じだな、ルナ。次の魔物を探しに行こう」


 俺たちはさらに森の奥へと進んでいった。すると、今度は何匹もの小型の魔物が群れを成して現れた。どれも王国では見たこともない獰猛な顔つきをしているが、さっきの大物に比べれば小物だ。


「ルナ、さっきのように連携してやるぞ」


 ルナは頷き、俺たちは再び戦闘態勢に入った。


 今回は数が多いだけに、一つ一つを的確に仕留めていく。


「いくぞ!」


 俺が先頭に立ち、群れに突撃する。聖剣で魔物たちの動きを封じて、ルナが後ろから援護してくれる


「このまま押し切るぞ、ルナ!」


 俺たちは次々と襲いかかってくる魔物を相手に、見事な連携を見せていく。

 ルナの素早い動きと俺の力強い一撃が、次々と魔物を薙ぎ倒していく。


 そして、最後の一匹を斬り伏せた時、俺たちはその場に立ち尽くした。


「ふぅ、やったな、ルナ」


 ルナは無言で頷きながらも、その瞳には達成感が漂っていた。俺も同じ気持ちだった。こうして二人で戦いながら、少しずつ互いの信頼を深めている気がした。


「よし、今日はこの辺で切り上げるか」

「うん。楽しかった」


 ルナは小さく頷き、俺の隣に寄り添うように歩き始めた。


 二人で森を抜けると、夕焼けに染まる港町が見えてきた。こうして何も考えずに、戦いを楽しめる時間が、俺にとっては何よりも心地よかった。


「次はどんな冒険が待ってるのか、楽しみだな」


 俺はそう呟きながら、ルナと共に街へと戻っていった。彼女との魔物討伐デートは、俺にとっても、彼女にとっても、いい気分転換になるな。

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