第29話 襲撃

《side ザイール》


 ルナと二人、魔物討伐を終えて街に戻ってきた時、俺たちは信じられない光景に遭遇した。


 さっきまで平和だった港街ハマーべが、まるで戦場のように荒れ果てていたのだ。


 街中には瓦礫が散乱し、建物は崩壊しいた。火の手が上がって、遠くからは悲鳴や怒号が聞こえてきた。何が起きているのか理解できず、俺は足を止めた。


「何が…あったんだ?」


 俺が呆然と立ち尽くしていると、ルナが冷静に俺の袖を引いた。


「主人様、あそこ」


 ルナの指差す方向には、人々が何かから逃げるように慌てて走り回っている姿があった。俺はすぐに駆け寄って、一人の商人らしき男を捕まえた。


「おい! 一体何が起きてるんだ?」


 商人は息を切らしながら、俺に答えた。


「魔族の強硬派が…突然街を襲ってきたんだ! 奴らは穏健派が守っていた食料庫を狙っているんだよ! 俺たちは無関係だっていうのに…」


 強硬派? 穏健派? 何の話だ? 俺は頭の中で整理しようとするが、そんな余裕もない。目の前の混乱が全てを物語っていた。


「とにかく、早く逃げろ! 奴らは容赦なく襲ってくるぞ!」


 商人はそう言い残して、再び走り出した。

 俺はその言葉を聞き流すことはできなかった。


「ルナ、行くぞ!」


 俺たちは商人の言葉を受けて、街の中心部に向かって駆け出した。

 どこからか聞こえてくる怒号と金属がぶつかり合う音が、俺たちの行く手を急がせた。


 ほどなくして、俺たちは街の広場に到着した。そこには何人かの武器を持った魔族たちが、必死に抵抗している姿があった。


 しかし、相手は明らかに圧倒的な力を持つ者たちだった。


「ぐはっ!」


 一人の魔族が斧を振り下ろされ、地面に叩きつけられる。


 その背後には、巨大な体躯を持つ魔族が立っていた。そいつの口元には獰猛な笑みが浮かび、その手にはまだ血の滴る斧が握られている。


「おいおい、まだこんなもんか? 穏健派ってのはどうしようもねぇな!」


 巨漢の魔族は俺たちに気づき、ニヤリと笑った。


「なんだ? 人間。殺されたいのか? 俺たちは貴様らを従えるか殺すか、二択しかもっていないぞ」

「お前たちが強硬派ってやつか?」


 俺はそいつに向かって問いかけた。すると、巨漢は肩をすくめるようにして笑った。


「くくく、まぁその通りだ。俺は魔王軍ハンロス、この街を取り仕切る穏健派なんざ、俺たち強硬派の敵じゃねぇ。こいつらの守ってた食料庫も、街も、全部いただいたぜ!」


 ハンロスと名乗った巨漢の魔族が手下を指揮しているのか、周囲には同じような狂気じみた笑い声が響き渡っていた。


「主人様、どうする?」


 ルナが指示を持つように首を傾げて問いかけてくる。

 俺はその手を優しく握り返しながら、ハンロスを見据えた。


「お前らなぁ〜、わざわざ俺がいる時にしなくてもいいだろうに」

「あぁ?」

「あいにく、俺はそういうことされると面白くないんだよ。せっかく綺麗な街並みが台無しだ。それに俺はこの街を気に入っていたのに」


 俺はハンロスの方へ歩み寄った。手下たちは俺を見て嘲笑を浮かべるが、そんなものは気にしない。


「おうおう、人間如きが英雄気取りか? お前ごときにこの街が守れるとでも思ってんのか? 勇者でもあるまいし」

「残念だな。お前が目の前にしているのは勇者だよ」

「なっ!?」


 ハンロスは俺の言葉に鼻で笑い、斧を軽く振り上げた。


「面白いこと言うじゃねぇか。いいぜ、そこのガキでも女でも、俺の斧の錆にしてやろう」


 俺は聖剣を抜き放ち、ハンロスを切りつけた。


「遅い」


 その瞬間、俺の体から放たれた光がハンロスに向かって一直線に走った。彼の笑い声が止まる間もなく、聖剣の光が彼の斧を弾き飛ばした。


「ぐっ…! こいつ…!?」


 ハンロスは驚愕の表情を浮かべ、後ずさる。だが、再び聖剣を振るい、ハンロスの胸元に深い一撃を与えた。


「うっ、がぁぁぁ…!」


 ハンロスは断末魔の声を上げて倒れ込む。俺はすぐに彼の周りを取り巻く手下たちを見渡し、にやりと笑った。


「次はお前たちの番だ」


 手下たちは俺の一言に震え上がり、次の瞬間には敵の首を全て飛んでいた。


「ルナ」

「はい!」


 このまま遺体を残すことのないように全てを灰にする。


「主人様、すごい…」

「ルナもすごいぞ」


 俺は羊の角がある頭を優しく撫でる。


 そんな俺の手を気持ちよさそうに受け入れるルナ。


「ハァ〜乗り掛かった船だな。まだ、終わってないだろう」


 俺は目の前の混乱した街の様子を見ながら、次に何をすべきか考え始めた。


 こんなにも弱い強硬派ではないだろう。


 あくまで実行犯で、ボスは他にいる。


 ならばそいつを処理しないとな。


「仕方ない。気分を害されたお礼をしに行こうか」

「はい! どこまでもついていきます」


 ルナと腕を組んで、大きな魔力を放つ気配へ向かって歩き出した。


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