第30話 反撃

 街の混乱を後にして、俺とルナは強硬派のアジトへと向かうことにした。


 奴らが街を襲撃した原因を根絶やしにするためだ。ルナの魔力感知能力によれば、すぐ近くに奴らの拠点があるらしい。


「ここから少し行ったところに、大きな魔力の集中を感じます」


 ルナが俺にそう告げる。俺たちは迷わずその方向に進んだ。


 夜の闇が深まる中、俺たちは城へとたどり着いた。周囲には不気味な静寂が漂い、何かが起こりそうな気配が濃厚に漂っている。遠くからは、かすかに火の燃える音が聞こえる。


「ここが奴らのアジトか…」


 俺はルナと共に城の中へと足を踏み入れた。


 城の中は荒れ果てており、天井が崩れて星空が綺麗に見えていた。

 いくつもの階段が伸びている。あちこちで休息する魔族の姿が見えた。


「自分たちが襲撃されることなど微塵も考えていないようだな」

「そうですね」


 俺はルナにそう言いながら、堂々と城を歩く。


 城の奥に進むと、やがて大きな扉が見えてきた。扉の向こうからは、複数の魔族の気配が感じられる。


「どうやらここだな」

「強く魔力を感じます」

「奴らが集まっているみたいだな」


 俺は聖剣を手に取り、扉に手をかけた。扉を開けると、中には何人かの魔族たちが集まっていた。彼らは俺たちが入ってきたことに驚いたようにこちらを振り返り、すぐに武器を手に取る。


「何者だ!」


 一人の魔族が叫ぶが、そんな言葉に耳を貸さず、すぐに動き出した。


「ルナ」

「はい!」


 俺が合図すると同時に、ルナは動き出した。


 声を上げた者の瞬殺して、爪で切り裂いた。

 俺は聖剣を振りかざし、目の前の魔族たちを切り裂く。ルナは次の獲物へ向かって、しなやかな体をくねらせる。魔族たちを次々に倒していった。


「ぐあっ!」


 俺の一撃で倒れた魔族が悲鳴を上げる。だが、そんな声も一瞬でかき消された。俺たちは容赦なく敵を倒していく。


「くそっ、何者だ!」


 一番奥の椅子に座っていた敵のリーダー格らしき男が、俺に向かって斧を投げつけてきた。だが、そんな攻撃は俺には通じない。俺は斧を軽く受け流し、逆にその男の胸元を貫いた。


「ぐはっ…」


 男は断末魔の声を上げ、倒れ込む。俺はその姿を見下ろしながら、冷静に周囲を見渡した。


「どうやら、こいつらがこのアジトのボスらしいな」


 俺がそう呟くと、ルナが静かに頷いた。


「はい。でも、まだ気配が残っています。奥にもう一人、強力な魔力を持った者がいます」

「なら、そいつを片付けるまでだ」


 俺たちは再び廃墟の奥へと進んでいく。奥へ進むにつれて、空気が次第に重くなっていくのを感じた。敵のボスが近いことを示している。


「気をつけろ、ルナ」

「わかっています」


 ルナは力強く頷き、俺に続いて進んでいく。やがて、俺たちは城の奥深くにある大広間にたどり着いた。そこには一人の魔族が待ち構えていた。


「ようこそ、闖入者よ。うん? 貴様の見覚えがあるぞ。確か勇者ザイール…いや、噂に聞いた勇者崩れか」


 そいつは不敵な笑みを浮かべながら、俺たちを迎え入れた。

 挑発めいた言葉を発しているが、気にもならない。


 体格は普通だが、その全身からは異様な魔力が放たれている。


「お前がこのアジトのボスか?」


 俺が問いかけると、男はゆっくりと頷いた。


「その通りだ。俺の名はグレム、魔王軍の幹部の一人だ。この地を治めている。だが、ここで何をしているかは関係ない…貴様らのような人間がここに来ること自体が間違いだ」


 グレムの手には、禍々しい槍が握られている。その槍が黒いオーラを放ち、周囲の空気をさらに重くしている。


「人間が魔王軍の領地に踏み入るとは、愚か者め…その愚かさ、俺が成敗してやる! グラビティーランス!」


 グレムがそう叫び、槍を俺に向かって放った。

 先ほど斧を放った魔族よりも遥に鋭い。


 だが、俺は冷静に聖剣を握り直し、槍を吹き飛ばす。


「愚か者はどっちかな。俺たちがここに来たのは、お前たちが暴れたせいだ。さっさと始末して、帰らせてもらうぞ」


 俺はグレムに向かってゆっくりと歩み寄る。


「はは、どういうことだ?」

「お前、強硬派なんだろ? 俺はハマーべの街が気に入っている。お前を俺が気に入っている街を破壊した」

「おいおい、それだけの理由で勇者が城を攻めるのか?」

「十分だろ? 俺は自由な勇者でな。俺が気に入らない奴を殺す。魔王が気に入ったら殺さないし、お前のように強さだけを盾に弱い者を虐げて、俺のお気に入りを壊すなら、殺す」


 聖剣を一気に振り下ろした。グレムは槍を構えて迎え撃つが、俺の攻撃は止まらない。


「ぐっ!? おいおい、本当にお前人間かよ。魔族の俺よりも力があるんじゃねぇか?!」

「そうかもな!」


 ルナも俺に続いて、グレムに攻撃を仕掛ける。彼女の鋭い爪がグレムの防御を切り裂き、俺の聖剣がその隙を突いて一撃を加える。


「ぐあっ!」


 グレムは苦痛の声を上げ、後退する。だが、俺たちは追撃を止めない。ルナと息を合わせ、次々に攻撃を繰り出していく。


「貴様ら…俺が魔王軍の幹部なんだぞ! 俺にこんなことをしてタダで済むと思うのか?!」

「それがどうした? 魔王軍が敵になるのか? それならいつでも来いよ。俺はいつでも相手にしてやる。クソならいつでも殺してやる!」

「クソガーーーーー!!!」


 グレムは苛立った様子で叫ぶが、俺たちはそんな言葉に耳を貸さない。俺の聖剣が再び輝きを放ち、グレムの槍を砕いた。


「これで終わりだ!」


 俺は最後の一撃を放ち、グレムの体を貫いた。彼は断末魔の声を上げて倒れ込み、その姿は消えていった。


「終わったね…」


 俺も一息つき、彼女に微笑んだ。


「よくやったな、ルナ。これで街も少しは平和になるだろう」

「はい、主人様のおかげです」


 ルナは満足そうに微笑んでくれた。その笑顔を見て、俺は彼女を抱きしめた。


「さあ、帰ろう。まだやるべきことがたくさんあるからな」


 俺たちはアジトを後にし、再び街へと戻っていった。

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