第31話 覚醒

《side トール》


 ザイールがパーティーを去ってから、僕たちは彼の不在を埋めるために、懸命に戦ってきた。それでも、彼の存在感が消えない。


 彼の強さを失った今、僕たちはその穴を埋められずにいた。


 今回は、僕たちの前に現れたのは、魔王候補たちの中でも特に強力な二人――強欲のヴィリスと、色欲のセイレーンだ。


 彼らの力は、これまでの敵とは桁違いだった。


「勇者を失った勇者パーティー? お前たちはただの雑魚に成り下がったという噂は本当だったようだな」


 ヴィリスは冷笑を浮かべながら、手にした黄金の鎌を軽く回している。その背後には、金銀財宝が山のように積み上げられており、彼の強欲さを物語っていた。


「ヴィリス、そうね。この連中なら私の色香に勝てるのかしら?」


 セイレーンは甘美な声で囁きながら、妖艶な瞳をこちらに向けてきた。


 彼女の姿は美しく、彼女が放つ魅力は、一瞬で心を奪うほどだった。しかし、僕は何とか理性を保とうと必死に抵抗した。


「みんな、気をつけて! セイレーンの魅力に惑わされるな!」


 僕は仲間たちに警告を発し、色欲の力に対抗しようとした。しかし、彼女の美しさは、僕たちの精神に徐々に侵食してきていた。


「トール、あいつら、ただの美男美女ってわけじゃない…」


 アネットが焦りの表情を浮かべながら服を脱ぎ始める。

 彼女もまた、セイレーンの魅力に引き込まれそうになっている。


「アネット、しっかりして! 負けるわけにはいかないんだ! 服を脱いじゃだけだよ!」


 僕は必死に声をかけ、彼女を支えようとしたが、その隙をヴィリスが突いてきた。


「欲しいものを手に入れるのが我が力だ。この世のすべては、俺のものだ! お金も女も権力もな! お前は奪われるだけの存在ってことだ!」


 ヴィリスの鎌が振り下ろされ、僕たちはその威力に圧倒された。金色の刃が地面を裂き、僕たちを一気に追い詰める。


「くっ…!」


 僕はなんとか魔法で防御を試みたが、ヴィリスの力は圧倒的だった。彼の強欲の力が、僕たちのすべてを奪い取ろうと迫ってくる。


「このままじゃ…」


 仲間たちの顔が浮かんだ。3人とも完全にセイレーンの魅力にやられて、服を脱いでしまった。


 僕も先ほどから3人を求める衝動を抑えるのに必死になっている。


 僕たちがこのままでは、勝てない。


 夜毎、一つになっているのに、僕の力が足りないせいで、みんなが危険にさらされている。


「トール、あなたが…!」


 聖女ジュナが清らかな体を晒して、僕に声をかける。

 彼女の言葉には信頼が込められている。

 それが痛いほど胸に響く。彼女が僕を信じてくれている。


 だけど、僕に何ができるっていうんだ? 補助魔導士でしかない僕を信じてくれる彼女たちに、僕は自分の力を信じ切れていない。


 その時、ヴィリスの鎌が再び振り下ろされた。今回は避けられない。僕たちはこのまま終わるのか…?


「嫌だ…僕は、みんなを守るんだ…!」


 アネットに鎌が向けられた瞬間、僕の中で何かが弾けた。熱い力が全身にみなぎり、僕は無意識に手を伸ばした。


「トール!」


 アネットの叫びが聞こえるが、それに応える暇もない。ただ、僕の手に何かが宿るのを感じた。それは光だった。まばゆい光が僕の手の中から放たれ、ヴィリスの鎌を弾き飛ばした。


「何だと…?」


 ヴィリスの表情が一瞬歪む。僕自身も驚いていた。この力は一体…?


「トール…! とうとう覚醒したのですね!」

「えっ? 覚醒?」

「私は信じていました。あなたこそが英雄であると!」


 ジュナが叫んだ。彼女の言葉は僕を信じてくれる言葉だった。

 僕がみんなを守りたいという強い思いが、この力を引き出したんだ。


「これで…終わりだ!」


 僕はそのまま、ヴィリスに向かって光を放った。彼は抵抗しようとしたが、僕の放った光が彼の鎌を粉々に砕き、そのまま彼の身体を貫いた。


「ぐあぁぁぁ…!」


 ヴィリスの叫びが響き渡り、彼の身体は光に包まれて消えていった。僕はその光景を見つめながら、力が満ちていくのを感じた。


 しかし、まだ終わっていなかった。セイレーンが不敵な笑みを浮かべながら、僕に向かってゆっくりと歩み寄ってきた。


「なるほど…あなたが覚醒したのね。でも、その力が私に通用するかしら?」


 彼女の声には甘美な毒が含まれている。それに反応するように、僕のイチモツが大きく揺れた。


 しかし、僕はもう惑わされない。自分の力を信じることで、彼女の誘惑を跳ね除ける。イチモツからも光が放たれて、力強く輝く。


「もう君たちの思い通りにはさせない」


 僕はそう言い放ち、セイレーンに向けて光る拳を放った。彼女は驚いた表情を見せたが、その瞬間には光の中に消えていった。


「トール、凄い…!」


 仲間たちの歓声が聞こえる。僕はその声に応えるように、拳を握りしめた。僕は覚醒した。そして、仲間たちを守る力を手に入れたんだ。


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