第27話 到着

 魔物を片付けた後も、俺たちの船旅は順調に進んだ。青い海原を進んでいくと、次第に視界に陸地が見えてきた。あの陸地こそ、目的地である魔王領だ。


「ついに到着か…」


 俺は船の上から、遠くに見える街並みを眺めた。


 魔王領というからには荒廃した土地を想像していたが、実際には思ったよりも栄えているように見える。


「ザイール様、魔王領の港町ハマーべです。どうやら人間の国と唯一国交を結んでいる。商業が盛んな街です」


 レイナが隣で説明してくれる。


 彼女の情報によれば、この街は魔族や人間、そして異種族が共存している一風変わった場所らしい。魔王軍の直轄地でありながら、外部からの商人も多く集まり、活気に満ちているという。


「意外だな。もっと薄暗くて陰気な場所だと思っていたが、むしろ楽しそうじゃないか」


 俺は軽い驚きを感じながら、陸地に上陸する準備を始めた。

 ルナも静かにうなずいて、出発の準備を手伝ってくれている。


 船が港に着くと、俺たちはさっそく上陸することにした。


 港には多くの商船が停泊しており、各国からやってきた商人たちが忙しそうに荷物を運んでいる。


「おや、これは珍しいお客様だ。いらっしゃい、いらっしゃい!」


 上陸してすぐに、色とりどりの衣装を身にまとった魔族の商人たちが声をかけてきた。彼らは大きな笑顔で俺たちを迎えてくれる。


「何でも揃っていますよ! 魔王領の特産品や、他の国では手に入らない珍品も取り揃えています!」


 魔族の商人たちの活気に満ちた声が響き渡り、思わず笑みがこぼれる。どうやら人種が変わろうと、商売熱心なのはどこの世界でも同じらしい。


「ザイール様、少し街を見て回りましょうか?」


 レイナが提案してくる。俺も同感だ。ルナは俺に従ってくれる。

 せっかくの異世界の街だし、何があるのか見て回るのも悪くない。


「そうだな、せっかくだし、楽しんでみよう」


 俺たちは軍艦を降りた人族の商人たちに囲まれながら、魔王領の街へと足を踏み入れた。


 街に一歩足を踏み入れると、すぐにその異様な雰囲気が肌で感じられる。

 魔族や異種族が普通に歩いているし、人間と共に賑わっているのが不思議な感じだ。その中には笑顔が溢れていて、自由があるように思えた。


「見てください、ザイール様。あちらの屋台では、魔物の食材を使った料理が売られています。魔族は人族と味付けが違うので、少し苦手かもしれませんよ」

「食べてみよう。ルナも食べるか?」

「うん!」


 レイナが指差す方向には、見たこともない食材を使った料理が並んでいる。

 色鮮やかな果物や、肉汁が溢れ出すような肉料理が食欲をそそる。


「おいしそうだな。ちょっと試してみるか」

「美味しい!」

「ふふ、私もこれは好きな味です」


 俺はさっそく屋台に近づき、焼き立ての肉串を買ってみた。

 口に含むと、ジューシーな肉汁が口いっぱいに広がり、魔族領ならではの濃厚な味わいが楽しめた。


 ただ、その足は過去の前世の自分が食べていた醤油に似ている。


「うまい! これ、ちょっと癖になる味だな。てか、めっちゃ好きだ」


 俺は一気に食べてしまい、もう一本追加で買ってしまった。

 ルナも興味を持ったのか、無言で俺から一本受け取って、静かに食べ始める。


「ザイール様、こちらのお店も面白そうですよ」


 レイナが指差す先には、魔法道具を扱う店があった。様々な魔石や呪符、そして怪しげなポーションが並んでいる。


 店主は小柄なゴブリンのような姿をしているが、笑顔で客を迎えている。


「このポーションは他のどこにもない逸品です! 効き目抜群、冒険には欠かせませんよ!」

「確かに品質がいいな。透明なポーションは素晴らしいな」

「人族の商人さんたちには評判がいいですよ」


 店主が声を張り上げて宣伝してくる。

 俺は適当に手に取ったポーションを眺めながら、ルナと顔を見合わせた。


「こういう怪しい店もいいよな。人族よりも腕がいい!」

「楽しい」


 ルナは小さくうなずきながら、興味深そうに商品を眺めている。彼女は基本的に無口だが、時折こうして楽しそうな素振りを見せてくれるのが嬉しい。


 街を歩きながら、俺たちは様々な店を見て回った。


 魔法の道具、異世界の衣装、そして異国の珍しい食材や装飾品。どれもこれも、興味をそそるものばかりだ。


「ザイール様、この街はまるで宝の山ですね」


 レイナが微笑みながら言う。俺も同感だ。ここまでの旅でもいろんなものを見てきたが、魔王領の街はそれ以上に魅力的だ。


「そうだな。魔王領ってのはもっと荒廃した場所だと思ってたが、意外と楽しめる場所じゃないか、お互いに知り得るだけで歩み寄れるのかもな」

「はい! 私は人族も、魔族も大好きなんです!」


 レイナの言葉に俺も同意する。

 魔族の街を大満足しながら歩き回っていた。


 しばらくすると、日が傾き始めた。


 俺たちは適当な宿を見つけ、そこで一晩を過ごすことにした。宿の窓からは、魔王領の夜景が一望できる。


「明日は何をするんですか、ザイール様?」


 ルナが静かに尋ねてきた。


「そうだな、せっかく魔王領に来たんだ。しばらくこの街を拠点にして、魔王領を楽しむつもりだ。魔族をもっと知りたいと思っているんだ。ルナやレイナに出会ったことで、そんな勇者がいてもいいと思わないか?」


 俺は窓の外を眺めながら、次の行動を考え始めた。


 魔王領の街は俺たちにとって、ただの中継地点に過ぎない。


 だが、この街にはまだまだ未知の冒険が待っているはずだ。俺はそんな期待を胸に、夜が更けるまでゆっくりと過ごすことにした。

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