第37話 反乱

 魔王城でのんびりと過ごしていた俺たちだが、爆発音によって、突如として城内に緊張感が走った。


 何やら外から騒がしい声が聞こえてきて、俺が置いて立ち上がって窓から外を見る。


 雪が積もる景色で、火の手が上がっている。


 ルナもすぐに立ち上がり、俺に寄り添うように横にくる。


「主人様、何かが起きていますね」

「どうやらそうみたいだな。まぁ俺たちには関係ないがな」


 魔王城内の廊下を進むと、そこには慌てふためく魔族たちの姿があった。

 あれほど働き者の魔族たちが怯えている姿から、どうやらここにいる俺の世話をしてくれた奴らは戦闘向きではないようだ。


「何があった?」


 俺が近くの魔族に問いかけると、彼女は震えながら答えた。


「元…元魔王軍の幹部たちが、魔王様に反旗を翻し、魔王城を襲撃しようとしているんです…!」


「反旗を翻す? あの怠惰の魔王にか?」


 俺は少し驚いたが、それ以上に面白くなってきた。魔王軍内での内乱が起きるなんて、まさに異世界らしい展開だ。


「どこで戦ってる?」

「外の広場で…ですが、奴らは数が多く、幹部が率いているので強いです。魔王様が氷の力で対処していますが…」


 どうやら、元魔王軍幹部たちが集まって魔王城を襲撃してきたらしい。城内に緊張が走っているのも当然だ。だが、俺はその話を聞いて笑みがこぼれる。


「ふーん、それじゃあ俺が出てやるか」


 俺は聖剣を手に取り、広場へと向かった。ルナも無言でついてくる。外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


 魔王城の広場は氷に覆われ、そこに立ち尽くす元魔王軍幹部たちが震えていた。彼らは明らかに怯えており、その視線の先には魔王がいた。魔王は寝転んだまま空に浮かんで、彼らを見下ろしている。


「反旗を翻した愚か者たちよ。私に挑むなど、思い上がりも甚だしい」


 魔王の声は冷たく響き、その一言で周囲の温度がさらに下がったかのように感じられた。彼女の手が軽く振られると、氷の柱が立ち上がり、幹部たちの足元を凍りつかせていく。


「くそっ! 俺たちは…!」


 幹部の一人が叫ぶが、その言葉は氷の中に閉じ込められるようにかき消される。


「弱い奴に発言する権利はない。貴様らは私の足元で蠢いていればよいのだ。反逆者には死が待っている」


 魔王はさらに冷酷な声でそう告げると、手を振り下ろした。その瞬間、幹部たちは次々と氷に閉じ込められ、その場で凍りついてしまった。


「すげぇな…」


 俺はその光景に驚きながらも、どこか楽しんでいた。だが、突然、別の方向から大きな爆発音が響き渡り、魔王城が激しく揺れた。


「何だ!? まだ他にいるのか?」


 俺は振り向くと、そこには別の魔族が立っていた。彼は今までとは異なる、何か別の力を持っているように見えた。


「出し抜いたぜ、魔王様よ!」


 その魔族はそう叫ぶと、再び大きな爆発を起こし、魔王城の壁を吹き飛ばした。彼の周りには手下たちが集まり、まるで勝ち誇ったように笑っている。


「俺はこの城を手に入れるために、ずっと機会を狙っていたんだよ! 今日こそお前を倒して、この城の主になる!」


 彼は自信満々に魔王に挑戦を宣言した。しかし、俺はその様子を見て不敵な笑みを浮かべた。


「お前が城を手に入れたいなら、まず俺を倒してからにしろよ」


 俺は聖剣を抜き、彼に向かって歩み寄った。彼は驚いた表情を見せたが、すぐに笑いを取り戻した。


「人間風情が、俺に勝てるとでも思ってるのか? お前ごとき…」


 彼の言葉は途中で途切れた。俺の聖剣が彼の体を一瞬で貫いたからだ。彼は信じられないという表情を浮かべたまま、その場に崩れ落ちた。


「弱すぎる」


 俺は聖剣を振り払い、残りの手下たちに視線を向けた。彼らは震えながら後退りするが、そんな暇は与えなかった。


「次はお前たちだ」


 俺は手下たちに向かって突進し、一瞬で彼らを片付けた。広場には静寂が戻り、再び冷たい空気が支配した。


「終わったか」


 俺は肩をすくめ、魔王に視線を戻した。彼女は無言で俺を見つめ、その目には何か複雑な感情が宿っているように感じた。


「貴様は本当に…」


 魔王は一瞬、言葉を詰まらせたが、やがて微かに笑みを浮かべた。


「面白い。だが、次は私が相手をするかもしれないよ」


 魔王口調から、いつもの怠そうなものへと戻る。


 その言葉に俺はニヤリと笑った。


「それは楽しみだな。だが、今はもう少しこの城でのんびりさせてもらうさ」


 魔王は無言で頷き、その場から立ち去った。俺は再び城内に戻り、ルナと共にその後を追った。今日の戦いも、ただの日常の一コマに過ぎない。俺はそう感じながら、再び魔王城での生活に戻るのだった。

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