第38話 嫉妬
《side ザイール》
魔王城の広間で、俺はルナと共にゆったりとした時間を過ごしていた。
先日は、魔王城内で起こった反乱を鎮圧したばかりだ。魔王領の外は、一面の氷に覆われた荒涼とした風景が広がっている。氷の静けさと城内の温かさが対照的で、不思議な感覚に包まれていた。
「静かになったな…」
俺はソファに深く腰を下ろし、テーブルに置かれた新聞を手に取った。
見出しには「裸一貫、英雄トール、魔族領に上陸…魔王討伐へ」という大きな文字が踊っている。記事をざっと読み流し、軽くため息をついた。
「トールか…ついに動き出したか」
一瞬、彼がこの魔王領で何を企んでいるのか気になったが、すぐに興味を失った。
トールが魔王を倒しに来ることは当然の成り行きだが、それが俺にどう影響を与えるかは今のところ問題ではない。
「ザイール様、どうなさるおつもりですか?」
ルナが俺の隣に腰を下ろし、不安そうな表情で尋ねてくる。
俺は彼女に安心感を与えるために微笑んだ。
「別にどうもしないさ。トールが魔王を倒しに来ようと、俺は彼と戦うつもりはない。俺にとって、トールは敵じゃない。ただ…彼と魔王の決着を見守るだけだ」
そう言いながら、俺は再び新聞に目を通した。
トールがどこまでやるかは興味深いが、俺自身が介入するつもりはない。
「そうですか…ザイール様が決めたことなら」
ルナは小さく頷き、安心したように微笑んだ。
その時、メイド姿の魔族たちが静かに部屋に入ってきた。彼女たちは俺とルナのために飲み物や軽食を運んできたようだ。
「ザイール様、いつもありがとうございます」
メイドの一人が俺に感謝の言葉を述べる。反乱を鎮圧してから、彼女たちから向けられる好意が多くなった。
彼女たちが微笑みながら礼を言う姿を見ると、俺も少し照れくさくなる。
「いや、俺は特に何もしていないさ。お前たちがここでの生活を支えてくれているんだから、感謝するのは俺の方だ」
俺は軽く肩をすくめながら答えたが、メイドたちはさらに深く頭を下げた。
その瞬間、隣に座るルナの瞳がわずかに細まり、彼女の手が俺の腕をしっかりと掴んだ。
メイドたちが俺に向ける感謝の言葉が気に入らないのか、ルナの表情には明らかに嫉妬の色が見え隠れしている。
「ルナ?」
俺が彼女を見下ろすと、ルナは無言で俺の腕にさらにしがみついてきた。その動作に込められた嫉妬と独占欲を感じて、俺は苦笑せざるを得なかった。
「いえ、主人様。私はただ、あなたにお仕えする身。ここにいる皆が主人様に感謝するのは当然です。でも、私も…」
ルナの声が微かに震えていた。
彼女の気持ちは痛いほどよく分かる。俺がメイドたちに感謝の言葉を返すたびに、ルナの心の中で嫉妬の炎が燃え上がっているのだろう。
「大丈夫だよ、ルナ。お前は俺にとって特別だ。誰もお前の代わりにはなれない」
そう言って俺はルナの頭を優しく撫でた。彼女の瞳が少し潤み、満足そうに微笑むのを見て、俺はようやく落ち着きを取り戻した。
メイドたちは俺たちのやり取りを見て、微笑を浮かべながらもそっと部屋を後にした。彼女たちはルナの気持ちを察してか、なるべく気を使っているようだ。
「主人様、ありがとうございます…」
「なら奉仕してくれるのだろう?」
「もちろんです!」
ルナが小さな声で呟き、俺の腕にさらにしがみついてきた。
彼女の温もりを求めるように抱き上げた。
新聞をゴミ箱に投げ捨て、ルナと過ごす魔王城の平穏な時間を、今はただ心地よいものだった。
天蓋付きのベッドにルナを連れて行けば、豊満に育った巨乳を恥ずかしく晒しならも、俺を上目遣いに誘惑する妖艶な魔族がそこにいる。
「綺麗だ」
「全てはザイール様のものです」
彼女は魔王城に来てから美しさに磨きがかかり、魔力も充実して、明らかに強くなっている。
そして、魔王以上に魔王らしく振る舞う姿に、魔王城の本当の主人はルナなのではないかと思ってしまう時がある。
レイナは、魔王の秘書として何かと動いて、会う機会が減っているが、ルナに対しても最近は敬意を払っている節があるので、どういうことだろうか?
「主人様、他の女のことを考えるのはおやめください」
「わかるのか?」
「私は嫉妬、自分に向けられる好意に敏感で、また主人様が他の女性を思うことにも敏感に察知します」
「そういうものか? すまない。好いた女のことを考えていたわけじゃない」
「もちろんです」
ルナが首に腕を回して、激しくキスを求めてくる。
「あなたの子供が欲しい」
最近は、ルナの愛情が重く感じるが、それでも彼女は俺を優先してくれる。
あの勇者パーティーの女たちとは違う従順な奉仕に、俺としては満足しているので、ルナを大事にしていた。
初めての女性でもあるため、依存しているのかもしれないな。
「さぁ夢の世界へお連れします」
「ああ、満足させてくれ」
俺はルナと安寧の地があればそれでいい。
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