第19話 敗北

《sideトール》


 ザイールがいなくなってから、僕たちのパーティーは何とかやりくりしていた。


 彼がいない分、僕がリーダーとして責任を負わなければならない。いつも彼の存在が頭をよぎる。


 彼の努力、強さ、そしてリーダーシップ。

 僕たちはまだまだ彼の足元にも及ばない。


 そんな僕の考えを見透かしたように、アネットが言った。


「トール、確かにザイールは強かったかもしれない。でも、あいつは傲慢で自己中心的だったじゃないか。あんな奴、いなくても私たちはやれるよ」


 マジュも同意するように頷いた。


「そうね。ザイールは自分の力に溺れて、私たちの意見を全く聞かなかったわ。彼がいなくなってから、私たちはチームとしてまとまり始めてるわ」


 ジュナも口を開いた。


「トールさん、私たちはあなたを信じています。ザイールがいなくても、私たちは強くなれます。あなたがリーダーだからこそ、一緒に頑張れるのです」


 仲間たちの言葉に、僕は少し安心した。彼らもザイールのことを評価しているが、同時に彼の欠点も理解していたのだ。


「ありがとう、みんな。僕たちは一緒に強くなれるよね」


 その時、王都に緊急報が入った。


 王宮からの急使が駆けつけ、魔物の襲撃が迫っていることを伝えた。


「王都が襲撃される!?」


 僕たちはすぐに準備を整え、王城の前に集結した。アネット、マジュ、ジュナ、そして騎士でもある王女セリーヌも前線に加わることになった。


 空が暗くなり、不気味な気配が漂ってきた。強力な魔物たちが現れたのだ。


 三人の魔物が同時に現れ、その場を圧倒する気配を放っている。


「ほう、これが英雄トールか。楽しませてもらおうか」


 最初に話し始めたのは巨大な体躯を持ち、常に何かを食べている獣のような姿の男だった。その口から鋭い牙が覗いている。


「俺はラガシュ、暴食の魔王候補だ。お前たちを喰らい尽くしてやる!」


 続いて、冷ややかな笑みを浮かべながら、優雅な動作で前に出た女性がいた。


 彼女はゆっくりと手を広げ、まるで舞踏会の主役のように立ち振る舞っている。


「私はオルガ、傲慢の魔王候補よ。お前たち如きが私に刃向かうなんて笑わせるわ。見せてもらおうか、英雄トールの力を」


 最後に現れたのは、怒りに満ちた目をした男だった。彼の体からは炎のようなオーラが放たれ、その怒りが周囲の空気を震わせている。


「俺はフィルア、憤怒の魔王候補だ。お前たちをこの手で焼き尽くしてやる!」


 三人の魔王候補が同時に襲いかかってきた。


「みんな、気をつけて!」


 僕は仲間たちに警戒を促しながら、補助魔法で彼らの力を引き出した。


 ラガシュが地面を揺るがす一撃を放つと、地面が割れ、巨大な亀裂が走った。その衝撃で周囲の建物が崩れ落ちる。


「なんて力だ…!」


 アネットが剣を抜き、ラガシュに向かって突進した。

 彼女の剣がラガシュの体に突き刺さるが、彼は全くひるむ様子もなく、アネットを振り払った。


「この程度か。もっと楽しませてくれよ!」


 オルガが手を広げ、闇の魔力を放つと、黒い霧が周囲を包み込んだ。その中で彼女は優雅に舞い、僕たちの視界を奪う。


「見えない…!」


 ジュナが浄化の魔法を唱えるが、黒い霧は簡単には晴れない。オルガの傲慢な笑みが霧の中で浮かび上がる。


「お前たち如きが、私に勝てると思っているのかしら?」


 フィルアが怒りに任せて拳を振り下ろすと、地面が炎に包まれた。その熱気で僕たちは一瞬怯む。


「このままでは…!」


 僕は再び補助魔法を使い、仲間たちの力を引き出した。


「アネット、セリーヌ、マジュ、ジュナ、みんな、頑張って!」


 アネットがラガシュに再び立ち向かい、セリーヌも剣を構えてオルガに挑む。マジュが防御魔法を張りながら、ジュナが回復魔法で僕たちを支える。


 しかし、三人の魔王候補は強力で、僕たちは次第に追い詰められていった。


「トール、このままじゃ…!」


 アネットが叫ぶ。彼女の体にはすでに深い傷が刻まれている。


「諦めるな、アネット! 僕たちならやれる!」


 僕は最後の力を振り絞って補助魔法を唱えた。しかし、それでも三人の魔王候補の力には及ばなかった。


 フィルアが再び拳を振り下ろすと、地面が再び炎に包まれ、僕たちは吹き飛ばされた。


「うわあああ!」


 僕たちは地面に叩きつけられ、意識が遠のいていく。三人の魔王候補たちが勝利の笑みを浮かべているのが見えた。


「これが英雄トールの力か。思ったよりも大したことないな」


 オルガが冷ややかに言い放った。


「でも、楽しませてもらったわ。さあ、次はどうする?」


 フィルアが怒りに満ちた声で続けた。


「このまま王都を焼き尽くしてやる!」


 僕たちは意識を失いかけながら、何とか立ち上がろうとする。しかし、体が動かない。


「みんな、ごめん…」


 僕は最後の力を振り絞って仲間たちに謝った。しかし、彼らも同じように傷つき、立ち上がることができなかった。


「これで終わりか…」


 絶望が胸を締め付ける中、三人の魔王候補たちが勝利を確信して笑っているのが見えた。


 意識を失う寸前、僕の心に語りかけてくる声があった。


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