第18話 古城
《sideザイール》
今後の方針を決めなくちゃならない。
とりあえずは、トールの邪魔をすることなく、のんびりと異世界を良好したい。
「ザイール様、この近くにダンジョンがあるそうなんです。良ければ挑戦しませんか?」
レイナがそう言ってきた時、俺の心はワクワクが止まらなかった。
異世界らしい冒険がやっと始まるってわけか。
「ダンジョンかぁ〜。面白そうだな」
「主人様、ダンジョン好きなの?」
「ルナ、覚えておいてくれ。俺は男だ。男は常に危険と隣り合わせであり、未知の冒険を求めているんだ」
「そういうもの?」
「そういうものだ。よし、行ってみよう」
俺はすぐに準備を整え、ルナと共にレイナが案内するダンジョンへと向かった。
ルナは俺が行くというのについてきてくれる。
どこに行くのも、俺と一緒なら楽しいそうだ。
成長して、強くなってからはルナは何かと精力的になった。
ダンジョンに行くと言えば、その目にはやる気が感じられる。
ダンジョンの入口は古びた古城だった。
苔むした雰囲気が漂っていた。これぞ異世界って感じだな。
「ここか。なかなか雰囲気があるじゃないか」
「はい、ザイール様。このダンジョンには強力なバンパイアが潜んでいると聞いています。でも、ザイール様ならきっとクリアできるはずです」
レイナが期待を込めた目で俺を見る。
ふふん、彼女の期待を裏切るわけにはいかないな。
バンパイアか、魔物や獣人ってだけでも異世界要素が満載で、めちゃくちゃ楽しいのに、バンパイアと戦うとか、心踊るぜ。
「よし、行くぞ」
ダンジョンの中に入ると、薄暗い通路が続いていた。
壁には古代の文字が刻まれており、まるで冒険映画のセットみたいだ。
灯りは天井に吊るされた古びたランタンのみで、淡い光がかすかに通路を照らしている。
足元には無数の骨が散らばっており、かつてここで命を落とした冒険者たちの残骸が視界に入る。その光景に一瞬、息を呑むが、すぐに気を取り直す。
「ザイール様、気をつけてください。このダンジョンは不思議な仕掛けがたくさんあると聞いています」
「わかってるさ。俺の目を信じろ」
俺たちは慎重に進んでいく。
通路には罠がいくつか仕掛けられていたが、玲奈が俺の役に立ちたいと躍起になって、破壊していく。
俺の剣技とルナの魔力にレイナのサポートで余裕で切り抜けていった。
罠は、天井から鋭い刃が降り注ぐものや、足元に隠された落とし穴など、古典的で油断していれば命を落としかねないものばかりだった。
だけど、俺はその一つ一つを観察するのが楽しくて仕方ない。
ルナの魔力が放つ光の矢が、次々と魔物たちを貫き、俺の剣がその後に残った敵を薙ぎ払う。レイナのバフ魔法やデバフ魔法も効果を発揮している。
「ザイール様、後ろです!」
レイナの声に振り向くと、大きなゴーレムが迫ってきた。
巨大な石の体が音を立てて動き、俺たちに襲いかかってくる。
「マジか! ゴーレムだ!」
「デカい、潰す」
ルナが魔力を纏った拳でゴーレムを貫いた。ゴーレムの頭部が一撃で粉砕する。
「ルナ、強いな」
「ブイ!」
褒めると、ルナが嬉しそうな顔をしてポーズをとる。
ただ、俺に対してルナの瞳には信頼と尊敬の色が浮かんでいる。
「まだ先が長そうだ。気を引き締めていこう」
俺たちは再び歩き出した。
ダンジョンの奥深くにたどり着くと、広間が広がっていた。その中央には豪華な玉座があり、その上に美しい女性が座っていた。
「なんだ? 冒険者がここまで来るとは珍しい。たまたま立ち寄ったタイミング来るとは、貴様も不運だな」
その声は冷たく、同時に魅惑的だった。
目の前の女性は真なるバンパイアの女王なのだろう。
「うん? 貴様、リリスか?」
「そうよ、エレナ。随分と豪華な場所に住んでいるのね」
「ふふ、ここは私の隠れ家の一つに過ぎない。でも、お前がここまで来るとは思わなかった。もしかして、ただの冒険者ではなく、そっちの男は勇者か?」
彼女の言葉に、レイナは不敵な笑みを浮かべた。
「そうよ。こちらは勇者ザイール様よ」
「今は、冒険ってやつだ、楽しもうじゃねぇか」
エレナが優雅に立ち上がり、手を振ると、数体のバンパイアが現れた。彼らは鋭い牙をむき出しにして、俺たちに向かってきた。
「ザイール様、ザコは私にお任せください」
レイナが、バンパイアたちに立ち向かっていく。彼らの動きは俊敏で、闇の魔力を操る技術も高い。だが、魔王軍の幹部であるレイナは負けることなく蹴散らしていく。
「くっ! どういうつもりだ。リリス!」
一瞬で、三体のバンパイアを倒してしまう。
その瞬間、闇の霧が広間に広がり、視界を奪われる。
「調子に乗るなよ!」
エレナの声が霧の中で響いて聞こえてくる。
「勇者ザイール、その力、見せてもらおうかしら」
エレナの声が霧の中から響き渡る。
次の瞬間、彼女が目の前に現れ、鋭い爪を振り下ろしてきた。
「遅い!」
俺はその攻撃をかわし、反撃の剣を振るった。
しかし、エレナは霧の中に姿を消し、攻撃をかわす。
「ふふ、さすが勇者ね。でも、この霧の中であなたは何も見えない」
「ハァ〜! 子供騙しだな」
俺は集中し、聖剣の光を最大限に放つ。
霧が一瞬で晴れ、エレナの姿が露わになる。
「なっ!」
驚愕の表情を浮かべるエレナに向かって、俺は全力で突進し、聖剣を振り下ろした。
「終わりだ!」
エレナはその一撃を受け、広間の床に倒れ込んだ。
「くっ…あなたの力、侮っていたわ」
エレナは苦しそうに息を吐きながら、俺を見上げた。その目には驚きと同時に、何か別の感情が浮かんでいるように見えた。
「俺はお前を倒すつもりはない。ダンジョンは楽しかったからな。これからも頑張ってくれ」
エレナは少しの間黙っていたが、やがて微笑んだ。
「ふふ、何よそれ! 勇者が魔族を殺さないっていうの? そんなに強いのに? 信じられないんだけど。ハァ〜あなたに負けるのも悪くないわね。でも、次に会う時は覚悟しておいて」
エレナの体が闇に溶け込み、広間から消え去った。俺は剣を納め、深く息をついた。
「ルナ、レイナ、大丈夫か?」
ルナは無言で頷き、レイナも疲れた表情を見せながら微笑んだ。
「ザイール様、見事でした。やはりあなたは最強の勇者です」
「まあな。まぁアミューズメント施設みたいで楽しかったな」
「アミューズメント施設?」
「こっちの話だから気にしなくていいよ。ルナは楽しかったか?」
「うん。スッキリ」
「レイナも良くやってくれた」
「はい!」
俺たちはダンジョンを後にして、新たな冒険に向けて歩き出した。
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