第17話 魔王軍

《side バカリス》


 厳かな魔王城の中で、黒曜石のテーブルを囲うように、我が誇る幹部たちが席についていた。そう、我こそ魔王バカリスである。


 この世で最強の存在として君臨している…はずなのだが…。


「どういうことだ!レヴァナントがやられただと!」

「どうやらそのようです。しかも勇者ではない者に討伐されたと連絡がきました」

「なっ!? 我が宿敵の勇者ですらないだと!? リリスはどうしたのだ? 奴には勇者の監視を任せたはずだ?! 帰ってこないのはどう言うことだ?!」


 我は巨大な玉座にふんぞり返りながら怒鳴った。

 前に並ぶ幹部たちの顔はどこか疲れた様子を見せている。


 何故だ? 我の威厳が足りないのか?


 魔王城は暗く、冷たい石造りの広間が広がっている。

 壁には古びたタペストリーが垂れ下がり、幾つかの燭台が薄暗い光を放っている。


 天井は高く、広間全体に重々しい雰囲気が漂うように演出もした。

 幹部たちはその中で、不安そうな表情を隠しきれずに座っていた。


「レヴァナントがなんでも勇者よりも強い英雄トールにやられたっていうじゃないか! リリスも音沙汰なしだ!」


 もう一度、同じことを繰り返して言ってみる。


 幹部たちは一瞬互いに顔を見合わせ、重々しい沈黙が流れた。

 その時、ネクロマンサーのクロードが口を開いた。


「バカリス様、リリスは元々穏健派で、我々の方針とは異なっていました。それにレヴァナントはただの屍です。あまり知能も高くありません。彼らがやられるのも無理はありません」


 我はその言葉に一瞬驚いたが、すぐに怒りを強めた。


「な、なんだと! 弱者だと!? 我の幹部が弱者だと!?」


 クロードは冷静な顔で続けた。


「はい、バカリス様。彼らは確かに役に立ちますが、決して一流ではありません。リリスは魅了の力に依存しすぎており、戦闘能力が低い。レヴァナントは単なる怨霊で、知能も低く、指揮を執るには不適です。つまり我々幹部の中でも最弱ということです」


 我はその言葉に腹を立てながらも、内心では認めざるを得なかった。

 確かにリリスとレヴァナントはそれぞれ特化した能力を持っているが、総合力では戦闘に関してここにいる者たちに劣る。


「ふん、それでも幹部だぞ! 他に誰がいると言うんだ!?」


 その時、部屋の一角から優雅な声が響いた。


「バカリス様、どうか私にお任せください。真なるバンパイアの女王エレナが、あなたのためにこの問題を解決いたします」


 美しい顔立ちのエレナが立ち上がった。

 その姿は冷たい美しさを持ちながらも、内に秘めた強力な力を感じさせた。


「ほう、エレナか。貴様が出るというのか?」

「はい、バカリス様。私はあなたの忠実な部下であり、真なるバンパイアとして、あなたの敵を討ちます」


 我はエレナの決意に満足し、頷いた。


 だが、内心ではまだ不安が残っていた。今や我の寿命が尽きかけているのを自覚しているからだ。


「ふむ、よかろう。だが、貴様一人で行くのは危険だ。今後の魔王候補たちを連れて行け」


 エレナは一瞬驚いたが、すぐに冷静さを取り戻した。


「はい、バカリス様」

「では、他の候補たちも呼べ! ラガシュ、オルガ、フィルア!」


 我は魔王候補として育ててきた三人の名前を呼び上げた。彼らはまだ覚醒前だが、それぞれに強大な潜在能力を持っている。


 魔王候補たちは広間の片隅から姿を現した。


 ラガシュは巨体の持ち主で、暴食の象徴のように常に何かを食べている。

 オルガは傲慢な態度で他を見下し、フィルアは怒りを抑えきれず常に不機嫌そうな顔をしている。


「バカリス様、何卒ご指示を賜りたく存じます」と、ラガシュが恭しく頭を下げた。

「貴様らはまだ未熟だが、エレナと共に行け。今回の一件で我々の力を見せつけてやれ」


 我は玉座から立ち上がり、彼らに命令を下した。彼らが成功するかどうかはわからないが、今の状況ではあらゆる手を尽くすしかない。


「我が魔王軍は、今やこのような弱者たちばかりか…」


 その言葉が頭をよぎるが、すぐに気を取り直して彼らに期待を寄せた。エレナと魔王候補たちがこの状況を打破してくれることを願うばかりだった。


 だが、他の幹部たちはヤレヤレという様子を見せている。


 こいつらは我のことなど相手にしていないようだ。

 確かに魔王候補を使うのは、今後の魔王国のためではあるが、もう少し我にも構っても良くない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る