第20話 自由
《sideザイール》
古城ダンジョンの攻略を終えて、俺はすっかり満足していた。
レイナが見つけてきたダンジョンは、確かに一筋縄ではいかない相手だったが、聖剣を抜けば一瞬で解決するようなものでしかなかった。
バンパイア女王エレナの根城だという触れ込みだったが、結果的には瞬殺だった。
「ダンジョン攻略はありだな。世界中のダンジョンを回るのも面白いかもな。次はどこに行こうか?」
俺はレイナとルナに声をかけた。
ルナは俺のいくところならどこにでもついていくと言ってくれた。
レイナは少し困ったような笑みを浮かべている。
「ザイール様、次の目的地を決める前に、拠点に戻って少し休憩しませんか?」
レイナの提案に、俺も頷いた。
ダンジョン攻略は体力を使う。
俺は大丈夫だが、二人が疲れているかもしれないからな。
少しのんびりするのも悪くない。
俺たちは拠点にしている街に戻った。
市場の喧騒が耳に心地よい。街の雰囲気は平和そのもので、ダンジョンの暗闇とは対照的だった。
しかし、街の様子が少しおかしいことに気付いた。
人々の顔には不安の色が浮かび、ざわざわとした雰囲気が漂っている。
「何かあったのか?」
俺は市場の新聞売りの老人に声をかけた。
「じいさん、この辺で何かあったのか?」
老人は俺を見上げ、ため息をついた。
「あんた、知らないのかい? 勇者パーティーが魔王軍の襲撃で大敗したってニュースだよ。しかも、王女セリーヌ様が連れ去られちまったんだ。ほら、この新聞に書いてある。買っていってくれ」
俺は言われるがままに新聞を購入して目を通した。
そこには魔王候補の三人が王都に現れて、勇者パーティーと激突。
その際に、勇者パーティーは敗北と記されていた。
「何だって? トールたちが負けたって?」
ピンチになった際に、トールが不思議な力に目覚めて、ワンパンで敵を薙ぎ払っていくという話のシナリオが、いきなり崩壊している。
新聞には、デカデカと信じがたい事実が書かれていた。
『王都襲撃! 三人の魔王候補が勇者パーティーを撃破、王女セリーヌ連れ去られる』
俺は記事を読み進めた。
どうやら三人の魔王候補が王都を襲撃し、トールたちはその前に無惨にも敗北したらしい。しかも、セリーヌ王女が彼らに連れ去られたとある。
「なんてこった…」
俺は信じられない気持ちで記事を読み返した。
トールは俺が知っている限り、非常に有能で強い補助魔導士だ。
覚醒していなくても、仲間たちと協力すればいい、どんな困難にも立ち向かえるはずだと思っていた。
「英雄になるはずのトールがなぜ…?」
俺が出ていってトールを追放しなかったからシナリオが変わったのか?
俺がパーティーを離れたのは、自分の自由を求めてのことだった。
だが、その結果がこれだとは……。
「なんだそれ! ザマァじゃねぇか! お前たちが俺を追い出した結果が敗北って笑える!」
俺は冷笑を浮かべた。
あいつらは俺を見下し、追い出した。
トールは良い奴だったが、他のメンバーは最低だった。特にあの聖女、ジュナは俺を嫌っていた。そんな連中がこうなるのは当然の報いだ。
「ザイール様、どうなさったのですか?」
レイナが心配そうに尋ねてくる。俺は新聞を見せながら答えた。
「勇者パーティーが負けたんだ。三人の魔王候補に。しかも、セリーヌ王女が連れ去られたそうだ」
レイナの表情が一瞬険しくなるが、すぐに冷静さを取り戻す。
「それは大変なことですわね。しかし、ザイール様の強さを考えれば、私たちにとっては問題ありません」
俺はその言葉に苛立ちを覚えた。
「問題ない? 俺はあいつらを助けるつもりはない。だが、彼らがどうなるかは興味深いな」
ルナが俺の手をそっと握った。彼女の静かな瞳が俺を見つめている。
「ご主人様…」
俺はルナの手を握り返し、軽く笑った。
「心配するな、ルナ。俺たちは俺たちの道を進むだけだ」
勇者パーティーの敗北を知って、俺は何も感じなかった。むしろ、彼らが苦しむ姿を想像すると、少し愉快にさえ思えた。
「さあ、次はどこに行こうか?」
俺はそう言って、再び旅の計画を練り始めた。
トールたちのことは忘れて、俺たちの自由な旅を続けるために。
「そうだな。今度はできるだけ王都から離れるのもありだな。今の王都は敗北して壊滅状態みたいなものだろ? なら、そこに向かってもいいことなんて何もないだろ?」
「では、魔王国に近づいて見るのはいかがでしょうか?」
「魔王国?」
「はい。あちらは戦闘が続いておりますが、ダンジョンや、珍しい異物がたくさんあります」
「へぇ〜それは面白そうだな」
変にトールたちの近くにいるよりもいいかもな。
俺はレイナの提案に乗って、魔王国を目指すことにした。
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