第11話 誤算

《side黒霧のレヴァナント》


「くっ!」


 我がこのような失態を犯すとは情けない。


 勇者と対決するため、王都に潜んで戦いを挑んだが、まさか勇者不在の勇者パーティーに敗北することなど考えてもいなかった。


 それも補助魔導士如きにおめおめと逃げることになろとは……。

 しかし、ここは人間族が多く住む場所だ。

 こちらで人間を食らって、魔力を回復して、我の力を強くすれば、あのような補助魔導士に負けるはずがない。


 それにどうやら勇者は臆病風に吹かれて、逃げたようだ。


 そのような雑魚にようはない。


「今は回復を」


 我は王都を離れ辺境の村を襲って人を喰らうことにした。


「あん? お前は誰だ?」

「貴様こそ誰だ!」


 村を襲う我の元に偉そうな小僧がやってきた。


「まぁいい我こそは、魔王軍が幹部、黒霧のレヴァナント! 強行派として、人間を滅ぼして食らってやるわ」

「うざい!」


 眩い光が迸り、我の前に剣の閃光が通り抜けた。


「なっ!」

「骨なんだ。もう死んどけよ」


 たった一撃で我を葬り去ると言うのか?!


 ♢


《sideレイナ》


 辺境の村に到着してから数日が経った。

 私は勇者ザイールに同行しながら、彼の力を確かめるために様子を見ていた。


 彼の前で膝を降り、魔族の救済を求めたが、彼は私の動向を許しただけだった。


 ある日、村の外れで不気味な気配を感じた。

 その正体はすぐに分かった。


 黒霧のレヴァナントだ。


 我々、魔王軍も一枚岩ではない。

 私のように人間と仲良くして、魔族の人権を認めてもらおうと思う保守派に対して、人間を食糧以外は殺してしまえばいいと言う強硬派が存在する。


 黒霧のレヴァナントは幹部の中でも、強硬派に属している。


「まずいわね…」


 私は内心で警戒しながら、勇者ザイールに報告するかどうかを考えた。

 彼の力を見定めるには十分な相手だけど、レヴァナントは強力な魔物であり、もしも勇者が負ければ、私の計画は全く意味がない。


「ザイール様、少しお話があります」


 私は彼に声をかけ、彼の注意を引いた。


「なんだ、レイナ?」

「最近、この辺りで不穏な気配を感じます。強力な魔物が近くにいるかもしれません。村に被害が及ぶ前に、注意を払ったほうが良いかと」

「魔物か。まあ、そいつが来るなら迎え撃つだけだ」


 勇者ザイールは積極的に魔物討伐に向かうタイプではない。

 自由気ままに、好きな風に動くだけだ。 


 魔物の存在も、あまり気にする様子もなく、肩をすくめた。


「ですが、その魔物は…黒霧のレヴァナントかもしれません。魔王軍の幹部でアンデッドなのです」


 私は心の中で焦りを感じながら、彼に注意を促した。

 しかし、ザイールは軽く笑って答えた。


「レヴァナントだろうがなんだろうが、関係ない。俺にとってはただの魔物だ。俺の邪魔をするなら滅ぼすだけさ。そんなことより俺は腹が減ったからな。ルナ、飯にいくぞ」


 奴隷の魔族を連れて、私の話を気にもしない勇者に呆れるばかりです。


 本当に勇者なのかも疑わしくなる。

 魔物を倒して、人々を守るのが彼の仕事ではないんですか? ただ、自信に満ちた態度は頼もしくもあります。


 しかし、心の中では不安が拭えません。


 その夜、レヴァナントが村を襲ったのです。


 村人たちが恐怖に震え、悲鳴が響き渡る中、勇者が目を覚ましました。

 私は事前に襲撃してくることは予想できていたので、起きて待っていました。


「あれか?」

「ザイール様!」


 勇者が装備もつけないまま、外へやってきて私に問いかけました。


「マジか? 人の安眠を妨害しやがって、殺してやる」

「安眠妨害! そんな理由で退治するのですか? もっと村人を助けるためとか、あるででしょ?!」

「ねぇよ! 俺の邪魔をするから殺す。それだけだ」


 なんて傲慢! なんて我儘! 信じられません。

 本当にこの方が勇者なのですか?


 不意に視線を感じて、振り返れば、勇者ザイールの奴隷であるルナが、主人をウットリとした瞳で見つめていた。


 ここまで傲慢不遜な男をどうしてそのような瞳で見れるのですか?


「とにかく行ってくる」


 ザイールは冷静に言い放ち、レヴァナントに向かっていった。

 その姿には一切の迷いがなく、まるで普通の魔物を相手にするかのようだった。


 レヴァナントは巨体を揺らしながら村を破壊していく。

 その圧倒的な力に、村人たちは絶望の色を浮かべていた。


 私でも物理破壊力ならば、レヴァナントには遠く及ばない。


 果たして戦って勝てるのか?


「ウルセェぞ! アンデッド!」


 勇者ザイールは一声かけて、聖剣を振るった。

 その瞬間、閃光が走り、レヴァナントの巨体が真っ二つに割れた。


「嘘でしょ…」


 私はその光景に目を見開いた。

 レヴァナントは一撃で滅ぼされたのだ。


 ザイールは軽く息をつき、聖剣を収めた。


「どうだ、これが俺の力だ」


 その言葉に、私は改めて彼の強さを実感した。

 レヴァナントの脅威は完全に消え、村は再び静けさを取り戻した。


 ルナは静かにザイールのそばに立っていた。

 彼女の無口な存在が、逆にこの状況を強調しているように感じられた。


「ルナ、大丈夫か?」


 彼は優しく声をかけたが、ルナは静かに頷くだけだった。

 彼女の瞳には少しだけ光が宿っていた。



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