第10話 過去

《sideトール》


 ザイールがパーティーを離れてから数日が経った。


 リーダー不在のまま、僕たちはなんとかやっていこうと必死だった。

 だけど、勇者がいない勇者パーティーの現実は厳しかった。


 僕は補助魔導士として、これまでザイールに守られてきた。

 だが、今は僕がリーダーとして、彼女たちに任命されてしまった。


 彼の不在がどれだけ大きな影響を与えるかを、痛感している。


 ザイールとの旅の始まりを思い出す。

 あの頃はまだ僕たち二人だけだった。

 ザイールはどんな時でも前向きで、野心に燃える心と、剣に直向きな人だった。


 僕たちは強くなるために二人で、危険なことに挑んで全力を尽くしてきた。


「トール、お前がいるから俺は強くなれるんだ」


 まだ、二人の時は、彼はいつもそう言ってくれた。


 ザイールは単なる強者ではなかった。彼の努力は並大抵のものではない。

 毎日、朝早くから夜遅くまで訓練を欠かさず、魔物と戦う技術を磨き続けた。

 その姿を見て、僕も彼に少しでも追いつけるよう、努力を惜しまなかった。


 彼は誰よりも真剣に戦い、誰よりも仲間を大切にしていた。


 勇者に任命されるだけの努力を彼がしてきたのを僕は知っている。

 野心が叶ったことで、少し道を外してしまったけど、魔王を倒すたびに出れば、元に戻ると僕は思っていた。


 しかし、彼がパーティーを離れるという決断を下した時、僕はその理由を理解できなかった。


 彼がいなければ、僕たちはどうやってこの厳しい世界で生きていけばいいのか。

 彼の不在は大きな穴を残したままだった。

 それなのに、仲間である三人はザイールを邪魔者のように追い出した。


「トール、大丈夫か?」


 アネットが心配そうに声をかけてきた。


「うん、大丈夫だよ」


 僕たちは王から依頼を受け、魔物を討伐することになった。


 その魔物は『黒影のレヴァナント』という強力なアンデッドだった。

 レヴァナントは巨大な骸骨の体に黒い霧が纏わりつき、目には赤い光が輝いている。全長は約3メートルで、その腕力と闇の魔力は圧倒的だ。


「トール、準備は整ったわよ」


 マジュが魔法の準備を整えて報告してくれた。


「よし、みんな、行こう! アンデットを倒すために、ジュナ! 頼んだよ」

「もちろんです! トール」


 僕たちは森の奥深くにあるレヴァナントの巣へと向かった。

 道中、何度かアンデッドと遭遇しながらも、なんとか目的地にたどり着いた。


「ここがレヴァナントの巣か…」


 洞窟の中は暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。

 僕たちは慎重に進み、ついにレヴァナントと対峙することになった。


「来たか…勇者パーティーよ…」


 レヴァナントの低く響く声が洞窟内にこだました。

 巨大な姿が闇の中から現れ、その圧倒的な威圧感に僕たちは一瞬立ちすくんだ。


「みんな、気をつけて! あいつは強い!」


 僕は補助魔法でみんなの力を高めると同時に、レヴァナントに向かって弱体化させようとしたが失敗した。


 しかし、彼の闇の力は強力で、僕たちの攻撃はほとんど通じなかった。


「くっ、なんて強さだ…」


 アネットが剣を振るうが、レヴァナントの骨に弾かれる。

 マジュの魔法も効果が薄く、ジュナの聖女として浄化魔法でなんとか持ちこたえるものの、次第に僕たちは追い詰められていった。


「トール、このままじゃ…」


 アネットの声は焦りに満ちていた。僕も同じ気持ちだった。

 このままでは、僕たちは全滅してしまうかもしれない。


「みんな、退却だ!」


 僕は決断を下し、なんとかレヴァナントから逃れるために洞窟を後にした。

 しかし、レヴァナントは追いかけてきた。

 王都に向かって進む彼を止めるため、僕たちは必死に戦った。


「ここで止めるしかない…」


 僕は再び補助魔法を使い、みんなの力を最大限に引き出そうとした。

 アネットとマジュ、ジュナの力を借りるが足りない。


「僕に力があれば!」


 その時、僕の拳に光が宿った」


「「「キャーーー!!!」」」

 

 三人が悲鳴をあげて吹き飛んでいく。


「ザイール! 僕に力を貸してくれ!」


 ザイールのことを考えた僕の拳に光が宿り、僕は自分自身に強化の補助魔法をかけて、レヴァナントを殴りつけた。


『GYAAAAAAA』


 今まで効果が薄かった攻撃が初めて、ダメージを与えられた。

 ダメージを負ったレヴァナントが引いていく。


 僕はその後ろ姿を見ながら意識を失った。



 目を覚ました僕が聞いた話では、王都から追い払うことに成功したが、倒すことはできなかった。


「ごめん、みんな…僕の力不足だ…」


 僕は悔しさと無力感に打ちひしがれながら、仲間たちに謝った。

 だが、彼らは僕を責めることはなく、励ましてくれた。


「トール、あなたは頑張ったわ。私たちももっと強くなるから、一緒に頑張りましょう」


 ジュナが優しく微笑んでくれた。


「うん、ありがとう。これからも、みんなで力を合わせて頑張ろう」


 僕たちは再び立ち上がり、次の戦いに備えることを誓った。


 ザイールがいなくても、僕たちは負けない。

 僕は仲間たちと共に、強くなっていく決意を新たにした。


 だけど、彼が居たなら、あいつを倒すことができたことが悔やまれる。

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