第12話 自由

《sideザイール》


 魔王軍の幹部? 黒霧のレヴァナント? 俺は若干どこかで聞き覚えのある名前だと思いながら、自分には関係ないだろうと思って睡眠をとっていた。


 だが、人が気持ちよく眠っているのを妨害するように、村を襲撃したデカイ骸骨。

 見た目に若干キモさを感じたが、聖剣を抜いたら簡単だった。


「なんだ、こんなもんか」


 俺は満足そうに剣を納めながら、周囲の村人たちが安堵の表情を浮かべるのを見ていた。


「ふっ、ここは勇者らしく片手でも上げておくか!」


 俺が聖剣の光全開で、片手を上げると村人から歓声が上がって、教会のシスターが駆け寄ってきた。


「本当にありがとうございます。今の癒しの光によって、ずっと苦しみ続けていた少女の病が治りました! 魔物を倒してくれただけでなく、浄化の光まで! あなたは聖人君子です!


 そう言って村人たちも俺に祈りを捧げ出した。


 うわ〜こう言うのは嬉しいような恥ずかしいんだよな。


「まぁ、気にするな。俺は勇者だからな」

「なんと! 勇者様だったのですね!」


 シスターの声が大きい! 俺を勇者として崇める村人たちが、浄化の光で体を癒えて元気いっぱいで押し寄せてきたので、俺は待ったをかけた。


「俺は大したことはしてない。勇者として当然のことしたまでだ。だから騒がなくていい。みんな夜も遅い。村も壊れて家を失った者もいる。今日はそう言う大変なやつに時間を使ってやってくれ」

「なんと! そこまでお考えに、かしこまりました。勇者様がそう言われるのでしたら我々は村のために」


 ハァー物凄く面倒だ。


 ザイールは教会のいうことを聞かなくて、避けられているはずなのに、なんなんだあの巨乳シスターは可愛すぎるだろうが!?


 俺はルナとレイナの元へ戻った。


 ルナはいつものように無言で俺の隣に立ち、ギュッと抱きしめてきた。

 レイナは少し驚いた表情で俺を見ていたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ザイール様、本当にお見事です」


 レイナが褒めてくるが、まあ当たり前だろ。


「こんな雑魚相手に手こずるわけがないだろ? それにしても、村人たちの感謝が過剰すぎるんだよな。こっちはただ、邪魔されたくないから倒しただけなんだよ」


 俺は肩をすくめて呟いた。


「さて、これからどうするか…」


 自由を求めて旅を続けるつもりだったが、具体的な計画は何もない。

 王都の近くにいると、こんな風に魔物と遭遇する率も高い。


「ザイール様、これからどうするおつもりですか?」


 レイナが尋ねてきた。彼女の目には興味と疑問が浮かんでいた。


「そうだな、俺の目的はあくまで自由だ。特に大きな野望があるわけじゃない。むしろ、トールが英雄として魔王を倒すまで、邪魔にならないように適当にのんびりと旅をするつもりだ」


 原作に関わらない。

 それが俺が出した答えだ。

 

 むしろ、せっかく異世界に来たんだから、世界旅行をしながら楽しく自由にしたいよな。


「トールが英雄になる? あの子犬のような青年がですか?」


 レイナは少し驚いたような表情を見せた。

 まぁ彼女は勇者パーティーのことを調べていただろうから、トールのことも知っていて当たり前だな。


 だけど、トールの子犬系イケメンっぷりはレイナにも通じるんだな。


「ああ、あいつには素質がある。俺がいなくなっても、きっと強くなって魔王を倒すだろう。だから、俺は奴の邪魔をしないように、適当に旅をしながらゆっくり過ごすことにする」


 俺はルナに目を向けた。

 彼女は静かに俺の言葉を聞いていたが、その目には少しの安堵の色が見えた。


「ルナ、これから俺と一緒に旅を続けるか?」


 彼女は小さく頷いた。その仕草はどこか安心感を与えてくれる。


「よし、それじゃあ決まりだな」


 俺たちは村を後にして、次の目的地に向かって歩き出した。

 道中、特に急ぐ必要はない。

 俺たちはのんびりと旅を楽しむことにした。


「レイナ、そういうことだ。お前の目的に乗るつもりはない」

「……一つ、聞かせてください」

「なんだ?」

「あなたは魔族を滅ぼしますか?」

「いいや、そのつもりもない。ルナにしても、レイナにしても、話ができるなら別に問題はないだろ」

「……普通はそんなこを言わないんですけどね」


 彼女はため息を吐く様にやれやれと呆れた顔をした。


「私はあなたの力を見極めるために同行しているのです。今後もそれを続けようと思います」


 彼女は微笑みを浮かべながら答えた。


「なるほど、まあ好きにすればいいさ。ただし、お前が俺の邪魔をするようなら遠慮なく叩き潰す」


 俺は軽く笑いながら言った。


「もちろんです、ザイール様。私はあなたにとって有益な存在でありたいと思っていますから」


 レイナは妖艶な笑みを浮かべて答えた。


「いいね、異世界の旅を楽しむってのも悪くないだろ? 自由に生きて、自由に楽しむ。これが俺の生き方さ」


 俺は空を見上げて、広がる青空を眺めた。

 異世界の風景はどこか新鮮で、心が踊る。


「こんな景色を見ながら、気ままに旅をするのも悪くないな」


 俺は心の中でそう思いながら、ルナとレイナと共に新たな冒険へと足を進めていく。異世界の風景を楽しみながら、自由を満喫する旅はまだまだ続く。


 勇者が魔族とパーティーを組んで旅をする。


 それもまたいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る