第41話 相対

《side トール》


 魔族領に入った僕たちは、新魔王がどんな存在なのか、調べるところから始めた。


 僕が戦った暗黒龍になって戦った魔王は気高く魔族のために戦っていた。


 だからこそ、この長い旅路の果てに出会う魔王がどんな人物なのか知りたいと思ったんだ。


 そして、得られた情報では、同じ魔族に反乱をされ、やる気なく魔王城に引きこもって、魔族領土を氷へ変えているという。


 魔族から嫌われる魔王。


 僕は、複雑な気持ちになったけど、人族の安全を守ために魔王を倒すんだ。


 そして、ついに魔王城の門前に立っていた。


 冷たい風が吹きすさぶ中、その圧倒的な威圧感が全身に押し寄せてくる。


 魔王城は今や氷の城と化しており、まるで生きた者たちを拒むかのように、冷たく、静寂に包まれていた。


「ここが…魔王城か…」


 僕は呟きながら、目の前に広がる光景をじっと見つめた。


 目の前には高くそびえる城壁、その向こうにはきっと僕たちの目指す魔王がいる。これまでの戦いとは比べ物にならない緊張感が、僕たちの心を締め付ける。


「トール、大丈夫か?」


 隣に立つアネットが心配そうに声をかけてくる。彼女の表情には不安が浮かんでいたが、その目には決意が宿っていた。


「うん…でも、緊張してるのは確かだ」


 僕は正直に答えた。これまで数多くの戦いをくぐり抜けてきたが、今ほどの緊張を感じたことはなかった。


 魔王という存在が、どれほどの恐怖をもたらすものか、言葉では表現しきれないほどだ。


「私も…怖いわ、トール。でも、ここまで来たんだから、引き返すわけにはいかない」


 マジュが震える声で言葉を紡ぐ。


 彼女の賢さと冷静さに何度も助けられてきた僕たちだが、今回ばかりはその知識がどれほど役に立つかは分からない。それでも彼女は、震えながらも前に進む決意を固めていた。


「みんな…」


 僕は周囲を見回す。アネット、マジュ、そしてセリーヌ王女。彼女たちの表情からも、これからの戦いがいかに困難であるかが伝わってくる。それでも、僕たちはここまで来た。この城の中に眠る魔王を倒すために。


「ここまで来たんだから、もう後には引けないよね」


 セリーヌ王女が、自らを鼓舞するように言葉を発した。彼女の声にも緊張が滲んでいたが、その美しい顔には確固たる決意が見えた。彼女もまた、王国を守るために、この戦いに命を賭けているのだ。


「そうだね。ここまで来たら、やるしかない。魔王を倒して、みんなで無事に帰ろう」


 僕はそう言って、仲間たちに微笑みかけた。彼女たちは僕の言葉に頷き、勇気を奮い立たせてくれた。


 僕たちは深い呼吸を一つし、魔王城の門へと足を踏み入れた。


 城内は異様な静けさに包まれており、冷気が肌を刺すように感じられる。まるで生きた者たちを拒むかのような冷たい空気が、僕たちを取り巻いていた。


「この先に…魔王がいるんだね」


 アネットが小さく呟いた。その言葉に僕たちは黙って頷き、緊張の中を進んでいった。城内はどこも凍りついており、まるで時間が止まったかのような感覚に囚われる。廊下を進むたびに、足元で氷がきしむ音が響く。


「気を抜かないで…」


 マジュが慎重に周囲を警戒しながら進む。


 彼女の言葉通り、この先に何が待ち受けているか分からない。しかし、僕たちは止まるわけにはいかないのだ。


 やがて、僕たちは玉座の間にたどり着いた。


 大きな扉を押し開けると、その先には広大な空間が広がっていた。玉座の間は薄暗く、冷たい風が吹き抜けている。


 だが、僕たちの視線は一つの場所に釘付けになった。


「…あれが…魔王…?」


 そこには、玉座に座る一人の少女がいた。


 彼女の姿はまるで眠れる美しき姫君のように静かでありながらも、凛とした気配を纏っていた。その長い銀髪は氷のように冷たく輝き、閉じられた瞳の奥には底知れぬ力が潜んでいるようだった。


「この…少女が…魔王?」


 僕は言葉を失った。これがあの魔王だというのか? あまりにも意外なその姿に、信じられない思いが胸を支配する。


 だが、彼女が目を開けた瞬間、僕たちはその疑念を全て払拭することとなる。


 その瞳は、まるで全てを見通すかのような鋭い輝きを放っていた。彼女の目が僕たちを捉えた瞬間、玉座の間に張り詰めた緊張感が一気に高まる。


「ようこそ、勇者トール。私を倒しに来たのだろう?」


 彼女の声は静かでありながら、底知れぬ威圧感を伴っていた。確かに、目の前にいるのは魔王そのものだった。


「あなたが…魔王…なのか?」


 僕は震える声で問いかけた。目の前にいる少女の姿はあまりにも無垢で、美しかった。しかし、その瞳には冷酷な決意が宿っており、彼女がただの少女ではないことを理解させるに十分だった。


「そうだ。私はこの地の支配者、そしてお前たちが倒すべき魔王だ」


 彼女はゆっくりと立ち上がり、玉座から降りて僕たちの前に立ちはだかった。その動きは優雅でありながらも、まるで獲物を狙う猛獣のような迫力があった。


「覚悟はできているのだろうな、英雄トール?」


 その言葉に僕は深く息を吸い込み、仲間たちを見渡した。アネット、マジュ、セリーヌ…彼女たちもまた、決意の表情を浮かべていた。


 ここまで来たら、もう後には引けない。


「もちろんだ…僕たちは君を倒すためにここまで来たんだ」


 僕は拳を握りしめ、魔王に向かって構えた。


 彼女の存在がどれほど強大であろうと、僕たちは負けるわけにはいかない。


 王国を、仲間たちを守るために、この戦いに全力を尽くす覚悟だった。


「では、始めようか…」


 魔王は微笑を浮かべ、その手に氷の刃を創り出した。その瞬間、玉座の間に氷の風が吹き荒れ、戦いの火蓋が切って落とされた。


 僕たちは全力で魔王に立ち向かった。アネットが前衛で魔王の攻撃を受け流し、マジュが魔法で援護する。


 セリーヌもまた、補助魔法で僕たちを支える。しかし、魔王の力は圧倒的だった。彼女の氷の刃は一撃で周囲の温度を下げ、僕たちの動きを封じようとする。


「くっ…このままじゃ…!」


 僕たちは追い詰められていく。魔王の攻撃は凄まじく、僕たちの防御も限界に近づいていた。しかし、このまま倒れるわけにはいかない。僕は心の奥底で何かが目覚めるのを感じた。


「トール、気を抜かないで!」


 アネットの叫びが僕を現実に引き戻した。僕は再び拳を握りしめ、最後の力を振り絞って魔王に立ち向かった。


「まだだ…僕たちはまだ終わっていない!」


 僕の体から光が溢れ出し、眩い輝きを放ち始めた。それはまるで新たな力が目覚めたかのような感覚だった。僕はその光に導かれるまま、魔王に向かって突き進んだ。


「なに…!?」


 魔王の驚きの声が響く。その瞬間、僕の拳が魔王の氷の刃を打ち砕き、彼女の胸元へと突き刺さった。


「ぐっ…!」


 魔王は苦悶の声を上げ、倒れ込みそうになる。


「勇者トール…お前の力、認めよう。しかし、この戦いは終わっていない…」


 彼女の目にはまだ炎が燃え続けていた。彼女を見つめた。


「終わらせるのは…僕たちだ」


 その言葉とともに、僕は全ての戦いの終わりを迎えるために、全ての服を脱ぎ放ち、全身全霊で力を振り絞った。

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