第22話 遭遇

《sideザイール》


 異世界での旅を続ける中、俺たちは次なる目的地として適当に選んだ街へ向かっていた。魔王軍の拠点を叩くとか、そんな大義名分はなく、単にこの世界を楽しむために歩いているだけだ。


「ザイール様、次はどちらに向かうのですか?」


 ルナから嫉妬の視線を向けられながらも、レイナは同行を続けている。


「まぁ、適当にぶらぶらしながら、面白そうな場所を見つけるつもりだ」


 俺の本心は旅を楽しむことであり、無理に魔王軍と戦うつもりもない。俺はただ、自由に生きたいだけだ。


 道中、街の新聞売りの少年が声を張り上げて新聞を売っていた。


「最新ニュース! 王女セリーヌ誘拐! 魔王候補生たちの宣戦布告!」


 俺たちはその声に足を止めた。

 レイナが新聞を一部購入し、見出しを読み上げた。


「王女セリーヌ誘拐! 魔王軍は、勇者ザイールに王女を返して欲しくば戦えという宣戦布告ですって」

「ふん、くだらないな」


 俺は新聞を見て嘲笑した。どうしてわざわざ、俺が王女のために助けに行く必要があるのか? うーん、これも契約の一部に入るだろうか?


「ザイール様、どうするのですか?」

「無視だ。そんな挑発に乗るほどバカじゃない」


 俺は即座に結論を出した。王女セリーヌを助けるのは英雄トールだ。俺の役目じゃない。それに魔王候補かなんだか知らないが、あいつらに付き合う気もさらさらない。


 街を出て、しばらく道を進んでいると、ルナが俺の袖を引っ張った。


「どうした?」


 ルナは無言で前方を指さした。

 そこには大きな洞窟が見えていた。


 次の目的地に辿り着いた。


「ここが次のダンジョンか?」


 俺はその光景にワクワク感を覚えた。


 古城のダンジョンもいいが、やっぱりダンジョンと言えば洞窟だよな。

 迷宮って感じがして、攻略する際に新しい発見と冒険に満ちている気がする。


 とりあえず中に入ってみることにした。


「これが次の冒険の舞台か。楽しみだな」


 俺は洞窟に向かって歩き出した。後ろからルナとレイナがついてくる。


「気をつけてください、ザイール様。ここには何かが潜んでいる気がします」

「わかってるさ。でも、何が出てくるか方が楽しいんじゃないか!」


 洞窟に近づくにつれ、警戒心が高まっていく。

 入口には古びた魔法陣が描かれており、不気味な雰囲気を醸し出していた。


 俺は聖剣で魔法陣を切り裂いて、堂々と中へ入っていく。


 しばらく進むと、広間にたどり着いた。

 そこで見覚えのある顔が待ち受けていた。


「えっ? 王女セリーヌ?」

「おやおや、これには驚いた。勇者ザイール、こんなにも早くやってくるとはな!」


 不敵な笑みを浮かべた巨体の男が俺を迎えた。

 モグモグ食べながら話すのは行儀が悪いと思う。 


 奴の背後には二人の魔族と、捕らわれた王女セリーヌがいた。


「お前たちはなんだ?」


 奴らの姿は初めて見るが、ルナが俺の服の袖を掴んだ。


「あれが魔王候補です」

「ルナ?」

「あの大きな体をして、物を食べているのが、ラガシュ。暴食の力を持つ魔王候補です」


 そうか、ルナはかつて魔王候補をしていたと言っていたな。

 つまりは、奴らは同級生であり、ルナを傷つけた相手ということか? ほう、それはお仕置きをしないといけないかもな。


 俺の大切なルナを傷つけたんだ。


「隣にいる女性がオルガ、傲慢の象徴、あいつは私が倒したい」


 冷ややかな笑みを浮かべた女に対して、ルナが異常な執着心を見せる。

 どうやらイジメの実行犯は自分で倒したいということだろう。


「ならば、私は残ったフィルアを相手にしましょう、確か憤怒の力を持つ者だったはずです」


 いつの間にか、レイナも参戦して、魔王候補を倒したいようだ。


「我々三人揃って魔王候補生だ!」


 なぜか三人でポージングを決める。

 見ていて痛々しいが仕方ないな。


「こっちにもお前たちと戦う理由ができた。さっさとかかってこい」


 ルナをいじめた奴らだ殺してもいいだろう。

 俺は剣を抜き、戦闘態勢に入った。


「舐めるなよ、勇者など我の一撃で!」


 フィルアが怒りに満ちた顔で叫ぶ。


「あなたの相手は私!」


 そんなフィルアの顔面を掴んで、レイナが壁へと突き飛ばす。

 どうやらルナに負けたことを相当根に持っているようだ。


「くくく、叩き潰すだけだ」


 ラガシュが笑いながらバクバクと何を食べている。

 その巨体を作り出した栄養素は食べ続けなければならないのか? 暴食の力の所以は食か? 力任せに襲いかかってくるが、重いだけで鈍い。


「そんな力任せで俺を倒せると思ってるのか?」


 俺は軽やかに身をかわしながら、剣を振るって巨体の男の隙を突いた。

 奴の体に深い傷を与える。


「ぐぅ…こんなはずじゃ…」


 弱い、弱すぎる! なんでトールはこんな奴らに負けたんだ?


 オルガの前にはすでにルナが立ちはだかって、オルガの頭を踏みつけていた。


「ぐう……」


 弱っ! てか、俺たちが強すぎるのか?


 瞬殺された魔王候補たちが、地面に倒れ、その姿を見つめる王女セリーヌが、唖然とした顔をしていた。


 仕方ないので、ついでに王女も助けておいた。

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