第2話 相談
俺の出すべき答えは?
「えーと、その……追放の件についてなんだが……」
言葉を選びつつ、内心で大混乱している。
こんな状況、どうすればいいんだ? いや、待て、ここは冷静になれ。
多分、俺は転生者のはずだ。いや、本当に転生者なのか? それすらも曖昧だが、とにかくザイールであって、ザイールではない記憶を持っている。
今すぐ決断するのは絶対に無理だろ。
「うーん、どうしようかな……」
考え込むフリをしつつ、必死で時間を稼ぐ。
トールは子犬のように俺に縋るような目を向けてくる。
くっ! 男のくせに可愛い顔じゃねぇか?! はっ、もしかしてザイールはどっちでもいけるのか? だからトールに対して魅力の魔眼が発動しているとか? いやいやそれはないな。
とにかく他の奴らが俺のことをどう思っているのか確認してから決めても遅くはないだろ。
こいつら、俺のことをどう思ってるんだろう? 勇者として尊敬されてるはならいいが、違うならダメだな。
その実態は……ああ、マジュがこっちを見てる。
あの目、絶対に「こいつ無能」って思ってる目だ。
「ザイール、決めてください」
マジュの声が冷たい。ああ、なんてこった、これは完全にアウトな流れだ。
よし、ここは一旦保留にしよう。そうだ、それがいい。保留にして、後で考えよう。
「よし、皆、落ち着いてくれ。トール、お前の貢献は俺も認めている。だから、お前がそこまで追放が嫌だっていうなら、もう一度相談して決める。だから、追放の件は保留にする!」
そう言って、俺は高らかに宣言する。
どうだ、これで少しは時間を稼げるだろう?
「えっ、保留?」
トールが驚いた顔をしている。そりゃそうだろうな。俺だって驚いてるんだから。
本来なら、ここで追放して主人公を覚醒させる大事なイベントだからな。
「そうだ、保留だ。だから、もう少し考えさせてくれ」
「……ありがとう、ザイール!」
トールは嬉しそうに満面の笑顔になった。
くっ! 可愛いじゃねぇか! てか、どうしてこいつの好感度はこんなに高いんだ?
代わりに、他の三人は不満そうな顔をしているがな。
これで少しは時間を稼げたかもしれないけど、結局のところ、問題は先送りしただけだ。
結局、また同じ状況に戻ってくるんだろうな。
「ザイール、あなたの決断には失望しましたわ」
マジュが冷たい声で言う。うわ、こいつ絶対に俺のこと嫌ってるな。
「まあまあ、皆、今日はここまでにしよう。俺も考える時間が必要なんだ」
そう言って、俺はその場を離れる。
後ろから視線を感じるが、気にしないことにする。
今はとにかく、どうすればいいかを考えないといけないな。
どうして、俺がこの状況になっているのか、それをゆっくりと考えないとダメだ。
「くそ、どうするんだよ、これ……」
部屋に戻って、一人で頭を抱える。
自分が読んだラノベの中で、悪役として転生するなんて、どうすればいいんだ? そもそも、俺がこのまま悪役を演じ続けるのか? それとも何か別の道があるのか? 全然考えがまとまらねぇ!?
「ああ、もう、なんで俺がこんな目に……」
そんな愚痴をこぼしながらも、自分の未来を、どう切り開くべきかを考える材料が足りない。
「うーん、まずは情報収集だな。どこかにヒントがあるはずだ」
そう決心して、俺は部屋を出た。
まずは、仲間たちの様子を見に行こう。
奴らが何を考えているのかを知ることが大事だ。
きっとそれが解決の糸口になる。
まずはマジュの部屋に向かう。
あの冷たい魔女は、プライドが高くて物凄い浪費家だ。
ザイールの女になった瞬間に、パーティーで貯めていたお金を使い込んで、好き勝手に浪費を繰り返すようになる。
だから、見た目はよくても関わらない方がいい女ではあるが、現状はその悪癖を封印しているようだ。
ドアをノックすると、すぐに返事が返ってきた。
「はい、どなたですか?」
「俺だ、ザイールだ。ちょっと話があるんだが」
ドアが開くと、マジュが立っていた。
冷たい目で俺を見つめてくる。
「何か用ですか?」
「ああ、ちょっと話がしたくてな。入ってもいいか?」
マジュは少し考えた後、ため息をついて道を開けた。
「どうぞ」
部屋に入ると、様々な魔法の道具や本が散らばっていた。
「何の話ですか?」
マジュが直球で聞いてくる。やっぱり彼女は無駄な時間を嫌うタイプだな。
「まあ、その……お前の意見を聞きたくてな。トールの追放について」
マジュは少し驚いた顔をしたが、すぐに冷静な表情に戻った。
「私の意見ですか?」
「ああ。お前はどう思ってるんだ?」
マジュはしばらく沈黙した後、口を開いた。
「正直に言えば、トールは雑用をしてくれているので、便利ですわね。ただ、戦闘では邪魔ですわ。彼の補助魔法は効果をあまり感じません。他の補助魔導士なら、私の力をもっと引き上げてくれるはずですわ」
「そうか……」
マジュの冷静な分析に納得して、彼女なりにトールを正しく評価した上で追放に賛成ということだ。
「わかった、ありがとう」
部屋を出ると、次に向かったのはアネットの部屋だ。
彼女は戦士としてみんなを守りながら戦ってくれている。
彼女にはサディスティックとマゾヒスティックという両方の性癖を持っていて、トールを虐めて苦しむ顔を持っている一方、魔物に攻撃を負わされて快感を感じている変態なのだ。
「アネット、ちょっと話があるんだ」
ドアをノックすると、すぐに開かれた。
アネットは鎧を外してリラックスしているようだ。
「ザイール、どうしたの?」
「少し話がしたくてな。入ってもいいか?」
アネットは笑顔で道を開けた。
「もちろん」
部屋に入ると、アネットは椅子に座り、俺に向き直った。
「何の話?」
「トールの追放について、お前の意見を聞きたくてな」
アネットは少し考えた後、真剣な表情で答えた。
「正直に言えば、トールがいなくなるのは寂しいかな。あの場ではトールが追放されて悲しそうな顔をしているのを見るのが楽しかったから賛成したけど、トールって凄く悲しそうな顔して可愛いんだよね」
こいつは自分の性癖を隠す気もないのか? まぁザイールは見た目の良さでどうでいいと思っているんだろうな。
「なるほど……、ありがとう、アネット」
部屋を出て、次に向かったのはジュナの部屋だ。
彼女はいつも優しく、仲間を思いやる聖女だ。
だが、その内面はヤンデレで、トール以外の男は眼中にない面倒なタイプだ。
絶対的なトール信者で、トールの言うことは絶対だと思っている。
「ジュナ、少し話があるんだ」
ドアをノックすると、ジュナが冷たい表情で現れた。
「ザイールさん、何かご用ですか?」
今日のトールを追放する話で、完全に見限られたんだろうな。
「トールの追放について、お前の意見を聞きたくてな」
「私の意見ですか? 今更何を言われているのですか? あなたが最低クズ野郎だと言うことはわかっているんです」
あ〜こいつの中で俺の好感度が最低になってるな。
まぁ、正直どうでもいいけど。
「もちろん、トールさんを追放するのは反対です。彼を追放するなら私はパーティーを抜けます」
ジュナが今までで一番の笑顔で脱退宣言をしてくる。
こいつは、元々トールを追放すると落ちぶれるパーティーからいつの間にか抜けていくのだ。
だがジュナの言葉で、答えが見えた気がした。
「ありがとう、ジュナ。参考にさせてもらうよ」
部屋を出て、自分の部屋に戻る。
「よし、決めたぞ!」
自分の部屋で拳を握りしめ、決意を固める。
「明日、皆に伝えよう」
そう決めて、俺はベッドに倒れ込む。明日が来るのが楽しみだ。
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