追放する側として転生することある?

イコ

序章

第1話 追放する者

 人生において絶望する瞬間は何度訪れるだろうか?


 生まれてすぐに兄弟との欲しい物を取り合って負けた時か? 

 自分が才能がなく無能だと知った時か?

 初恋が実らないと知った時か?


 俺にとっては今が絶望を知る瞬間だった。


「お前を追放する」


 この言葉が放たれた瞬間、目の前がバチバチと電気が走ったように痛みが走り、頭全体がズキズキと痛くなる。


 言葉を発したのは、勇者ザイール。王国が認める聖剣の勇者にして、魅力の魔眼を持つ最強勇者だ。


 名前が浮かんできて、頭に鋭い痛みが走る。


「待ってくれ、ザイール! 俺はこれまで勇者パーティーに貢献してきたはずだ!」


 頭が痛いのに、大きな声を出さないで欲しい。


 目の前には四人の人間がいて、その中でも可愛い子犬系イケメンが必死に訴えている。優しそうでモテそうな見た目だな。


 頭痛が少し治まってきて、状況を整理し始める。


「……」


 四人の視線が俺に集まっている。


 沈黙している俺に対して、彼らはセリフを忘れた役者のような視線を向けてくる。


 何を言えば正解なんだ?


 俺が何も言わないと判断したのか、魔女のような姿をした女性が口を開く。


「トール、あなたは役不足なのですわ!」

「マジュ! 何を言っているんだ! 確かに僕は補助魔導士として力不足かもしれない。だけど、自分なりに工夫をして、天空の聖剣の一員として勇者パーティーに貢献してきたつもりだ」


 えっ? 天空の聖剣? ちょっと厨二病全開すぎて恥ずかしくないか?


「はぁ、お前を守りながら戦っているのはこちらなんだ。負担が大きいことに気づいてくれよ」

「アネット!」


 戦士のような鎧を纏った長身美人が、ため息を吐きながら子犬系イケメンを罵る。


 若干、顔が恍惚としているように見えるのは気のせいだろうか?


「皆さん! トールさんも頑張っています! 追放なんてしないでください」

「ジュナ、ありがとう」


 最後に残った優しそうな金髪美女が追放を止めようとしている。

 なんとなく状況は理解できた。


 俺はどうやら目の前にいる子犬系のイケメンを追放する側の人間らしい。


 だが、状況がまだ完全に把握できていない。

 冷静になって自分についてもう少し知る必要がある。


 俺の名前は……あっ! 勇者ザイールっていうんだ。

 うん? 勇者ザイール? どこかで聞いたことがあると思って考え続けると、どうやらここは俺が読んでいた小説の世界で、目の前の少年トールを追放するところから話が始まる。


『追放された補助魔導士は、補助魔法を覚醒させてワンパン魔術師モンクになって無双する』


 そんなタイトルのラノベじゃないか?


 王国から認められた勇者パーティー天空の聖剣は、自分たちがSランクの冒険者になったのはトールの補助があったからだと気づかないで、追放したことで落ちぶれていく。


 魔王の女に操られるようになって、最後は魔王の手先として英雄トールに葬り去られるんだ。


 そして、その勇者ザイールでありリーダーを務める天空の聖剣を使うイタイヤラレキャラが俺だ。俺がザイールになったんだ。


 うわ〜マジかよ。悪役転生が好きで読んでたけど、悪役でも貴族とか、ライバルキャラとして、主人公がクズで逆ザマァ〜とかやるやつが好きなのに、完全に詰んでいるだろこれ。


 そう、俺は自分の状況を理解して、絶望した。


 どうせ転生するなら、自由期まななチートライフが送りたかった。

 こんなクズ認定されている勇者とか最悪すぎる。


 こいつは聖剣の勇者のくせに性根が腐っていて、女のことしか考えてない脳が下半身にあるんじゃないと思うような奴だ。


 自分の瞳に宿った魅力の魔眼を利用して、パーティーメンバーを自分の女にするだけで飽き足らず、行く先々の村や町で女性を口説いては、魔眼の力を悪用するような奴だ。


 だがパーティーメンバーに手を出す際に邪魔になる補助魔導士のトールを先に排除しておこうとして、追放するんだったな。


 トールは子犬系の可愛いイケメンで、かなり女性からモテる。

 パーティーメンバーの三人は、元々トールのことを大好きだった設定のはずだ。


 どんだけ羨ましいんだよ。


 逆にザイールは勇者なのに、目つきが悪くて、強いだけが取り柄で、性格が最悪。

 女心がわからないから魔眼がないと全くモテない。

 それを妬ましく思ったザイールが、トールを追放することから物語が始まる。


 トールを追放した勇者パーティーは優秀な補助魔導士を失ったことで、一気に力が弱体化していく。


 そこで新しく入れた補助魔導士が入ってくるが、魔王軍のスパイで、その色香でザイールをかどわかして、どん底に落としていく。


 その間に、トールは新たな力を覚醒させて、補助魔法を自分にかけて戦闘を行う補助魔法と格闘技を重ね合わせた魔導モンクとして出世を果たしていく。


 悪名が広まった勇者ザイールと、英雄として崇められる魔導モンクのトール。


 二人は追放後に再び出会う時、勇者ザイールは魔王軍の力に染まってザマァされてしまうというのがシナリオだ。


 さて、整理はできたがこの状況をどうしたものか?


「何を黙っているんだ。ザイール」

「そうです、ザイール。あなたが追放を言い出したのでしょ?」

「ザイール、考え直してください!」


 魔女、マジュ。

 戦士、アネット。

 聖女、ジュナ。


 三人ともそれぞれの美しさを持つ見た目は最上級の女性たちだ。


 だが、小説を読んでいる俺からすれば、全員願い下げな理由が存在する。


 確かに見た目が良い。


 この三人をトールから寝とるために、追放したいと考えるザイールの気持ちもわからないではない。


 さて、トールを覚醒させて力を目覚めさせるために、俺はトールのためにこいつを追放するのか? それとも自分の保身のために追放を取り消すのか?


 俺の出すべき答えは?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 新作投稿です。


 異世界ファンタジーが書きたいな〜と思ったので、考えてみました。


 よかったら応援いただけると嬉しいです(๑>◡<๑)。


 今年、十作品目の10万字を目指して書いていきたいと思います。

 どうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)

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