第3話 脱退
翌朝、俺は全員を集めた。
マジュ、アネット、ジュナ、そしてトールが集まり、俺の話を聞く準備ができている。
「昨日のトールを追放することについて話があるんだ」
一同の視線が俺に集まる。
緊張感が漂う中、俺は口を開いた。
「トールの追放について考え直した。トールの存在がパーティーにとって大切だってことは分かった」
トールがほっとした表情を浮かべる。
しかし、他の三人は明らかに不満そうな顔をしている。
内心では、トールを追放して自分のモノにしようとしているのだろうな。
魅力の魔眼を使わなければ、マジュも、アネットもトールが好きなはずだからな。
この三人にとって、厄介な存在なのは俺の方だと知っている。
だから、俺が出した答えは……
「俺はお前らと反りが合わない。だから、俺がパーティーを抜けることにする」
その言葉に、一同は驚愕の表情を見せた。
「ザイール、本当に抜けるの? あなたがいなくなるのは予想外だわ」
マジュが冷静に問いかける。
彼女の鋭い目が俺の心を見透かしているようだ。
だが、気持ちを変えるつもりはない。
トールを追放することは小説の中で必須事項だ。
それを成し遂げて、且つ厄介な女たちから離れるためには、トールに全てを押し付けることが正解だと判断した。
「ああ、これが俺の出した答えだ。お前らも俺がいない方が楽だろう。俺には俺のやりたいことがある」
魔王はトールが覚醒すれば、ワンパンで倒せるから俺が自分を鍛える必要はない。
だから、俺はせっかくの転生した世界を旅したいと思っている。
マジュは一瞬驚いた顔を見せるが、すぐに冷静な顔に戻った。
「分かりましたわ。あなたがそう決めたのなら、それを尊重しますわ」
マジュは目を閉じて賛同してくれた。
対面では冷静なキャラを演じているが、内心では俺のことなんてどうでもいいと思っているんだろうな。
まぁ、こいつはトールが英雄になってから金蔓として、近づくようなやつだからな。
「トールがいれば私の楽しみは続くし、ザイールが抜けても私は構わないぞ」
アネットはバカだから何も考えてはいないんだろうな。
トールの顔が歪むのを喜ぶ変態は、俺がいなくなって大賛成だろうな。
「ザイールさんがいなくなるのは大歓迎です。でも、トールさんを追放しようとしたことは忘れませんから」
ジュナが恨みを吐きながら冷たい視線で、賛成してくる。
唯一、トールが焦りを見せながら俺を見つめていた。
「ザイール、待ってくれ! 君が抜けたら、パーティーはどうなるんだ? 君がいないと、僕たちはまとまらない。君が勇者なんだ、君が必要なんだよ!」
子犬系イケメンのトールの必死な言葉に、一瞬心が揺らぐが、決意は変わらない。
うん。こいつが一番のヒロイン枠なんじゃないかと思えてくる。
「トール、ありがとう。でも俺がいない方が、お前たちも気楽だろう。俺には俺の道があるんだよ。止めるな」
トールは涙を浮かべながら、俺の腕を掴む。
「ザイール、お願いだ、考え直してくれ。君がいないと僕は……」
俺は深呼吸して冷静にその腕を外した。
「悪いな、トール。これが俺の決断だ。お前らがどうなろうと知ったこっちゃない。俺は自分の道を進むだけだ。お前は追放されない。追放されるのは俺だ」
そう言って、俺は仲間たちに別れを告げた。
三人から賛成を得られたから、トールもそれ以上は何も言えないようだ。
俺は心の中でガッツポーズをしてしまう。
「みんな、これからも勝手にやってくれ。俺はお前らの健闘を祈ってるよ。まぁ二度と会うことはないだろうがな」
俺はひとまず旅に出る。
荷物はすでに昨日のうちにまとめておいた。
必要な装備や金も分けた。
そして最後に、パーティーの仲間たちともう一度顔を見た。
「トール、この三人は性格は最悪だが、実力は確かだ。期待しているぞ」
「ザイール!」
トールは泣き出したが、正直、俺はお前が怖い。
お前にワンパンで殺される未来が怖いんだよ。
アネットが微笑みながら手を振る。
マジュは冷静な表情で頷き、ジュナは冷たい視線を向けていた。
「俺はもうお前らの元に戻るつもりはない」
そう言って、俺はパーティーを後にした。
やっとヤベー奴らとの旅が終わって、新たな旅が始まるんだ。
これからどうするかは分からないが、とりあえず俺は自分の道を行く。
「これからが本当の冒険だ。よっしゃ〜! 自由だ!」
未来を見据え、俺は力強く一歩を踏み出した。
♢
《sideトール》
ザイールが去った後、僕は扉を見つめたまま立ち尽くしていた。
勇者の従者として、誇りを持って旅をしてきた。
勇者に、パーティーごと捨てられるなんて……心の中には深い喪失感と悲しみが広がっていた。
「ザイール……どうして……」
僕の呟きは誰にも届かない。
彼がいなくなったことで、僕たちのパーティーはどうなってしまうのか? 心配と不安で胸が締め付けられる。
「トール、大丈夫よ」
アネットが近づいてきて、優しく肩に手を置く。
彼女の声にはいつもの冷酷さはなく、優しさが感じられた。
「アネット……。でも、ザイールがいなくなったら、俺たちはどうすればいいんだ?」
涙が止まらない。彼が去ったことが信じられない。
勇者がいない、勇者パーティーなんて……。
こんなことになるなら、昨日のうちに僕が追放されておけばよかったんだ。
「ザイールがいなくても、私たちはやっていけるわ。私は強いもの」
マジュも近づいてきて、冷静な表情で見つめる。彼女の言葉には確信があった。
「トールさん、あなたが頑張れば、私たちは大丈夫です。ザイールさんの分も、あなたをしっかりと支えます」
ジュナの言葉に、僕の体には三人の手が伸ばされていた。
「でも……僕がそんなに頼りになるとは思えない……
「そんなことないわ、トール。あなたがいれば、私たちはもっと強くなれる。ザイールがいなくなったことで清々したぐらいだ。彼のためにも、私たちが頑張らなきゃ」
アネットの言葉に、戸惑いを感じる。
ザイールが去ったのは、彼の決断だ。僕たちに捨てられたんだ。
だけど、彼は僕らを応援してくれいた。
彼の意志を引き継いで頑張るしかないのか?
「そうね……ザイールのためにも、僕が頑張らなきゃいけないんだ」
拳を握りしめ、決意を新たにした。
ザイールの分も、僕が彼女たちを強くするために導くんだ。
頑張ってこのパーティーを守る。
「トールさん、私たちはあなたを信じています。だから、一緒に頑張りましょう」
ジュナの言葉に、僕は頷いた。
彼女たちの信頼に応えるためにも、もっと強くならなきゃいけない。
「ありがとう、みんな。僕、頑張るよ。ザイールのためにも、もっと強くなるんだ」
涙を拭い、僕は彼女たちと共に新たな一歩を踏み出すことを決意した。
いつかザイールが魔王を討伐する時に、力になれるぐらいにこのパーティーを強くする。新たな目標を胸に、僕は前を向くことにした。
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